任務その三 苦戦(1)

『死ね……! この病原体が……!』

 その敵と対峙たいじすると、そんな声がどこからともなく聞こえてきた。



 この前の、二度目の実戦の後、

『何か、変な声が聞こえたんだけど……。何なのか分かるか、イズモ?』

 と、僕は彼女に尋ねた。イズモは、

『恵人さんにも、聞こえましたか……。集合的無意識からの「声」が』

 と答える。僕が『集合的無意識?』と聞き返すと、

『はい。ウィルフレームは、人類の集合的無意識の領域を通じてフレーマーとつながっています。だから、ウィルフレームとフレーマーの同調率が高まると、フレーマーは集合的無意識からの「声」を聞いてしまうのです。さっき恵人さんが聞いたのは、敵の今際の際の思いですね』

 という秘密を、イズモは明かした。僕は、

『それじゃあ……。それを聞き続けると、ストレスでフレーマーがおかしくなることもあるんじゃないか?』

 と、さらに突っ込んだことを聞く。イズモは、

『はい。そのことが、フレーマーが任務を辞退することや、自ら命を絶つことにもつながっているのです』

 と答えた。僕が、

『イズモの前のフレーマーがそうなった理由はそれか……』

 と納得していると、

『恵人さんも……。任務を辞退しますか?』

 と、イズモが確認してくる。

 それがどこか寂し気に聞こえたから、僕は、

『いや。戦い続けるよ。僕らには、人類の復興っていう重大な任務があるんだからな』

 と強がった。脳裏で、

『許さんぞ……! 宇宙を汚す病原体どもめ……!』

 という、さっきの敵の声が蘇るのを感じながら。



 その次の日も、僕は実戦に呼び出され、戦うことになった。

 また《ゲート》の防衛作戦だ。今度の出現予定位置は、海沿いの街。

 そして、それを攻めに来た今度の敵は、駆逐艦の一群。その数五隻。

 僕は再び、イズモを例の火力重視のガレオンに変身させる。

 だが、今度は火力でのごり押しが思うように通用しない。ビームやガトリングの砲弾は敵に当たるが、一番手数の多いミサイルが、敵のミサイル防御に阻まれてしまうからだ。僕らが撃ったミサイルは、敵のミサイルやガトリング砲によって迎撃される。

 そのため、なかなかCPUを「発掘」できない。おまけに、

『ぐああ……! 痛い……! 痛い……!』

『死んでたまるか……!』

『殺してやる……!』

 という、敵の「声」が聞こえ、僕の精神をじりじりと削っていった。

『どうしますか、恵人さん?』

 と、イズモに聞かれて僕は、

『仕方ない……。ビーム主体で攻める!』

 と答えた。

 僕はイズモを、ステルス性重視のガレオンに変身させる。敵は目標を見失い、でたらめにガトリングの砲弾をばら撒く。

 その隙に、敵艦の一隻に接近し、強力なライフルを持ったガレオンにイズモを変身させようとするが、

『逃がさないぞ……!』

『絶対に殺す……!』

 という敵の「声」を聞き、集中が削がれてしまった。以前の訓練の時のように、光学迷彩が一部解除されてしまい、敵に見つかる。

 集中砲火。空間を埋め尽くすガトリング砲弾の嵐を受け、僕らの装甲が削れていった。慌てて集中し、僕は光学迷彩を再びイズモの全身に施す。

 そんな風に苦戦していると、

『そろそろ《ゲート》の出現予定時刻です……!』

 というイズモの警告に、僕は焦りを覚える。僕はイズモを敵の射線から外し、強力なライフルを持ったガレオンに変身させて、敵艦の一隻に真正面から発砲した。敵艦に、前後に貫通する大穴が開くが、CPUは見当たらず、敵は動き続ける。

 同じことを、敵艦一隻一隻に対して繰り返してCPUを探すが、なかなか見つからない。

 そんな効率の悪い戦いかたをしているうちに、海辺に出現した。半透明の漏斗のようなもの――《ゲート》が。

 僕は、

『まだ終わりじゃない……!』

 と意地を張り、ステルス性重視のガレオンで移動しては、強力なライフルを持つガレオンで敵艦を撃つことを続ける。

 だが敵は、僕らから《ゲート》へと攻撃の目標を移す。ミサイルやガトリング砲弾の雨あられを、そちらに向けたのだ。僕も、慌ててイズモを火力重視のガレオンに変身させ、

『やめろ――――っ!』

 敵のミサイルや砲弾を撃ち落とそうと、弾幕を張る。

 だが、僕の弾幕で捉えきれなかった敵の砲弾やミサイルが、無慈悲に《ゲート》を襲った。それを受けた《ゲート》はぶるぶると震え――そして消える。

『ああ……』

 と絶望する僕に、

『……《ゲート》は破壊されました。今回の防衛作戦は失敗です』

 と、イズモが端的な事実を告げた。

 敵艦は、満足した、と言わんばかりに舳先へさきを返し、撤退しだす。放心しかけていた僕に、

『せめて、敵の離脱を阻止してください。別の《ゲート》を破壊される恐れがあるので』

 と、イズモは告げた。

 それでどうにか気を取り直して僕は、さっきと同じ作業を繰り返してCPUを見つけ出し、敵艦隊を無力化した。その際、

『貴様こそ死ぬべきだ……!』

 という、敵の怨嗟の声を聞きながら。

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