任務その二 同調(2)

 そんなイズモと僕の態度が、お互いの同調に影響したらしい。

 次の日も、僕らは訓練した。最初にイズモが告げた同調率は、

『同調率六十九パーセント』

 だった。



 それから、僕はいつも通り、彼女を変身させて操作する。

 まずはベーシックな、初代のガレオン。イズモの一部を分離させて作った人型兵器の姿のターゲットを、ビームを撃てるライフルや実体弾を撃つ拳銃、それにナイフで攻撃する。

 ライフルがエネルギー切れしたら拳銃に切り替え、拳銃も弾切れしたらナイフに切り替えて攻撃する練習をするが、いまいち切り替えがスムーズにいかず、たまに拳銃やナイフを取り落とした。

 また、命中率もそんなに高くない。ライフルが三発に一発、拳銃が四発に一発程度。ナイフの攻撃でも、敵の急所をあまり正確に突けなかった。



 次に、戦闘機に変形できるガレオン。人型から戦闘機形態への変形や、その逆は一応スムーズにできるようになった。

 だが、そこからターゲットへの攻撃の練習をしても、いまいち上手くいかない。戦闘機形態でも人型形態でもライフルやビーム砲を撃つが、命中率は人型形態の時で三発に一発、戦闘機形態の時だと、六発に一発程度にまで下がる。



 次に、火力重視のガレオン。ビーム砲の命中率は三発に一発、ガトリング砲の命中率は五発に一発、ミサイルの命中率は十発中八~九発程度にまで上がった。

 だが、全武装を一斉発射すると精度が落ちる。一応全てのターゲットに当たりはするが、無駄弾が多く、山肌が大きくえぐれた。



 次に、剣を装備した格闘重視のガレオン。

 これの操作には、あまり上達できていなかった。相変わらず、たまに刃筋が通らず、上手くターゲットを斬れないことがある。食い込んだ刃を抜いて転ぶことはなくなったが、上手く斬れなかったターゲットを慌ててもう一度斬った。



 次に、ステルス性重視のガレオン。

 さすがに、レーダーにも可視光線のカメラにも引っかからず、ターゲットをナイフの射程内に収めるまで接近することはできるようになった。

 だが、いざナイフで攻撃しようとすると、集中力がそっちに持っていかれるせいか光学迷彩が解除され、カメラに捉えられてしまった。



 その日の訓練の終わり際に、イズモは、

『同調率六十九パーセント』

 と、最初と変わらない同調率を告げた。

 戦闘機形態のガレオンで、家路につきながら、

『戦闘には、同調率が最低七十五パーセント必要だっていうけど……。今日もそれに達しなかったな』

 と、僕は反省会めいたことを切り出す。それに対してイズモは、

『はい。これからも訓練を続けましょう』

 と、しれっと答えた。

『いや、今まで通りのやりかたで訓練を続けるだけじゃ……』

 そう言いかけて、僕は考える。今の彼女に何を言っても、のれんに腕押しかもしれない。それに、今まで通りのやりかたが駄目だと言うなら、僕から別のやりかたを提案しなければならない、と。

 そこで僕は、

『……避難所でガレオンの上映会をやろう』

 と提案した。それに対し、イズモは即座に、

『それは時間の無駄だと考えます』

 と、つれない答えを返す。それに対して僕は、

『無駄じゃないよ。避難してる人たちにも、娯楽が必要だろ? だから、それも立派な復興業務だよ』

 と食い下がった。それを受けて彼女は、

『……確かに、避難者の精神安定のための娯楽も必要ですね。承知しました。ガレオンのアニメのデータを送るよう、二〇四五年時点へリクエストを送ってみます』

 と、納得してくれた。



 それから、イズモは二〇四五年に帰るウィルフレームにそのリクエストを伝え、また次に《ゲート》から出てきたウィルフレームから、データを受け取った。

 そして僕たちは、避難所に行くことがあれば、そこで上映会をやる。

 避難所になっている学校の体育館や公民館などで、イズモは時間的な制約から、初代ガレオンの総集編の劇場版をスクリーンに映し出した。

 そこで僕は、主人公の国が敵の侵略を受けている場面では、避難民たちと一緒に手に汗握ったり、主人公がガレオンに乗り込んで活躍している場面では、

「ガレオーン! がんばれー!」

 という小さな子供の叫び声をたまに聞いたりして、僕も(すでに見た場面なのに)主人公を心の中で応援したりした。



 上映会を始めた当初、イズモは、

「……確かにこの上映会が、避難者の精神安定につながっていることが確認できました」

 と、そっけないことを言っていた。

 だが彼女は次第に、

「……単純な勧善懲悪かんぜんちょうあくではないガレオンのストーリーは、避難している子供の教育にもいいかもしれませんね」

 と、ガレオン自体を評価するようになる。そして、

「次の上映会の予定は……一週間後ですね。別に楽しみにしてはいませんが」

 と、暗に彼女自身、ガレオンの上映会を楽しみにしていることをにおわせることを言うようになった。



 一方では、ガレオンのアニメを快く思わない声も聞いた。

 避難民の一部には、ガレオンのアニメを見て、

「もう戦争のことを思い出したくないよ……」

 と嘆く人もいた。

 それから、僕が家に帰ると、亜沙人も、

「……今日もガレオンの上映会か」

 と、僕がやっていることについて話を切り出す。僕が「そうだよ! 今日は初代ガレオンの劇場版の第二部で――」と、調子に乗って話し出すと、

「やめたほうがいいんじゃないか?」

 と、亜沙人は反対の意見を口にした。僕が「どうして……」と問うと、

「ガレオンって、結局は戦争の話だろ? 避難してる人たちに、戦争のことなんか思い出させるのはよくないんじゃないか?」

 と、その理由を彼は語る。僕は、

「そうだけど……。ほとんどの人は楽しんでくれてるからいいんだよ」

 と反論した。亜沙人は、

「……忠告はしたからな」

 とだけ言って、自室に引っ込んだ。



 その翌日の訓練の最初には、

『同調率七十一パーセント』

 程度だった。

 だが、その日はとても調子がよかった。



 まずは、初代ガレオンにイズモを変身させる。ライフルで次々にターゲットを撃ち抜いていき、ライフルがエネルギー切れしたら拳銃に、拳銃が弾切れしたらナイフに切り替えてターゲットを攻撃する。ライフルや拳銃は百発百中で、武器の切り替えもスムーズにいき、前みたいに取り落とすことはなかった。



 次に、戦闘機に変形できるガレオン。

 変形がスムーズにいくのはもちろんのこと、人型形態でライフルやビーム砲を撃てば十発中十発が当たり、戦闘機形態でも、十発中八~九発は当たった。



 次に、火力重視のガレオン。

 ビーム砲もガトリング砲もミサイルも、個別に撃てば百発百中。全武装を一斉発射するとさすがに精度が落ちるが、外れるのは十発に一発程度の割合だった。



 それから、剣を装備したガレオン。

 しっかりと刃筋が通り、僕らはターゲットを次々に、流れるように斬り裂いていった。



 最後に、ステルス性重視のガレオン。

 ちゃんとターゲットのレーダーにもカメラにも捉えられず接近でき、この日初めて、ナイフで攻撃する時も光学迷彩が解除されず、発見されないままターゲットを仕留められた。



 その日の訓練の終わりに、

『同調率八十パーセント』

 という朗報ろうほうを、イズモは告げてくれた。

『おめでとうございます。これで実戦に出られますね』

 と続けるイズモに、

『ああ。これからもっと頑張らなきゃな』

 と、僕は答える。

 やっぱり人を殺すことへの、一抹いちまつの不安を隠しながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る