任務その二 同調(1)
それから僕は、様々な復興業務を行うイズモと一緒に行動することになった。
例えば、放射性物質で汚染された地域の除染。
建設業者の人にフレーマーになってもらったイズモは、何十体もの分身を作ったり、様々な機械に変身したりして、その作業に取り掛かる。
まずは、建物の表面や、市街地のアスファルトやコンクリートの表面を高圧洗浄機で洗浄した。
それから、学校の校庭など、土がむき出しの部分があれば、ブルドーザーで土を削り取る。
他にも、汚染された草木を刈り取ったり、側溝の汚染された泥を取り除いたりした。
僕は、イズモが持ってきてくれた防護服を身にまとい、それらの作業を見守る。
除染が終われば、次は建物やインフラの再建だ。
イズモが、ビルや民家だった瓦礫の山や、大穴が開いた道路などに触れると、それらはみるみる元の形を取り戻していく。また彼女曰く、それらの中に通っている電気やガスや水道やネット回線なども修復しているのだという。
上空でも、彼女は環境の修復を行う。
僕と融合し、戦闘機に変形できるガレオンの姿で飛びながら、イズモは上空に舞い上がった
移動には、その戦闘機形態のガレオンの姿を僕らは
それで、助けを必要としている人たちのところへと僕らは出向く。
例えば、食料と水、その他必要な物資の配給。避難所や民家を回って、例の非常用食料や水、それに除染がまだの地域の人たちには防護服や、除染が住んだ地域の人たちにも紫外線を遮るための服などを配る。
それから、被曝者の治療。イズモは医師の人にフレーマーになってもらって、汚染されていた地域の人の細胞一個一個を検査したり、体内のがん細胞や放射性物質を除去したり、損傷したDNAの修復をしたりした。
そうした復興業務の合間に、少し時間が余れば、僕らは山奥で訓練をした。
イズモ曰く、
『先日はぶっつけ本番で実戦に勝てましたが――本来フレーマーには、ウィルフレームとの同調率を高めるための訓練が必要なのです』
とのこと。
その訓練とは、とにかく実際にウィルフレームを操作してみることだ。そのために僕は、イズモを様々なガレオンの姿に変身させて操る。
例えば、移動によく使う、戦闘機に変形できるもの。移動する際は最初から戦闘機の姿で使っているが、訓練では、人型から戦闘機への変形、そしてその逆もやる。
だが、
『同調率四十九パーセント』
程度では、変形がスムーズにいかなかった。戦闘機への変形の途中でライフルを取り落としたり、逆に人型へ戻る際に、足を前後逆の状態から戻すのが遅れて、
『うわっ!』
着地の際に、盛大に転んだりする。
次に、例えば、先日変身した火力重視のもの。イズモの一部を分離させて作ったターゲットを山肌のあちこちに配置し、全身に装備したさまざまな武器で撃つ。イズモ曰く、
『同調率五十二パーセント』
の状態で。
まずは「主砲」であるビーム砲。ちゃんとターゲットをロックオンしているはずだが、撃っても命中率は五発に一発程度だった。
他の武器だともっとひどい。ガトリング砲で砲弾をばら撒く。本当に「ばら撒いて」いるのだ。命中率は、百発に一発程度。
さらにミサイルを撃つ。こちらも散々な命中率だ。誘導があるにもかかわらず、命中率は七発に一発程度。
止まっているターゲット相手にこれでは、
『この前の戦いで住宅街をめちゃくちゃにしちゃったわけだ……』
と、僕は納得した。
それでも、訓練を続けるしかないので続ける。次は、剣を何本も装備した、格闘重視のもの。
やはりイズモの一部を分離させて作った、ガレオンと同サイズの人型兵器を
『同調率五十七パーセント』
程度では、まだスムーズに操作できない、たまに刃筋がうまく通らず、刃がめり込んで途中で止まってしまう。
そこから剣を抜いたら抜いたで、勢い余ってまた転んだ。
まだまだ諦めずに訓練を続ける。次は、ステルス性重視のもの。
イズモの一部を分離させて作った、レーダーとカメラ付きのターゲットに接近する訓練をする。僕らは、もともとレーダーの電波を吸収する特殊な装甲を装備している上、光学迷彩――可視光線を屈折させて通り抜けさせることで姿を消す機能――も発動した。
それでターゲットに接近して、ナイフで攻撃しようとするが、
『同調率六十一パーセント』
程度だったので、光学迷彩が途中で一部解除されてしまう。そのためにターゲットのカメラに反応され、ぶーっ! というアラートが鳴った。
イズモ曰く、
『戦闘には、同調率が最低七十五パーセント必要です』
というが、それには達しなくても、僕らの同調率はそこそこに高まってきた。
だから僕は、復興業務を行うイズモについていく。そして時には、
『僕にも手伝わせてくれよ』
と言い出して、ガレオンの姿にイズモを変身させて、がれきの撤去や建物の修復などを行った。
がれきもイズモが触れるだけで吸い込めたし、建物の修復も、イズモが触れるだけでがれきだったものを材料として分子レベルで接着していくことで行ったので、ガレオンの姿にあまり意味はなかった気もした。それでも、
「ガレオーン! ありがとー!」
という小さい子供などの声がたまに聞こえて、それは励みになった。僕も、そういう感謝の声をくれる人たちに、ガレオンに変身したイズモの手を振って応える。
そうした訓練や復興業務を毎日夕方には終えて、僕は家に帰る。
「……それでは、今日もお疲れ様でした、恵人さん」
とだけ言って、イズモはそそくさと立ち去ろうとする。彼女との日々の別れは、いつもこんな感じだ。
僕は、
「お疲れ様、イズモ。えっと……ちょっと世間話でもしていかないか?」
と、彼女を引き留める。我ながら、もう少しいい口実はなかったのか……と僕が後悔していると、イズモは僕に向き直り、
「その必要はありません」
と、僕の提案をばっさり切り捨てた。僕は肩を落としながらも、
「その……君、そういうドライな態度をとるじゃん。仮にも君と協力する身としては、それはちょっと寂しい。差し支えなければ、君の態度の理由を聞かせてもらえるかな?」
と、踏み込んだ質問をする。それに対してイズモは、目を落としながら、
「……前の私のフレーマーが、そういうドライな性格をしていましたので。それと、彼女が自ら命を絶ったことから……。フレーマーとは、必要な範囲を超えて交流しないことにしているのです」
と答えた。「ご理解いただけましたか?」と続けるイズモに、
「そんな事情があったのか。無理に聞き出して悪かったな」
と、僕は謝る。イズモは首を横に振って、
「ご理解いただければいいのです。それでは、改めてこれで」
と言って、今度こそ立ち去った。
僕も彼女を見送って、家の中に引っ込むと、
「今日は珍しく、あのイズモとやらと何か話してたみたいじゃないか」
と、会話を聞いていたらしい亜沙人が声を掛けてくる。それに僕が、
「世間話とかする必要はない、って話だよ」
とだけ軽く答えると、
「お前、イズモと仲良くしたいの?」
と、亜沙人は少しにやけながら尋ねてきた。僕は、
「そりゃ……。協力する関係だから、仲がいいほうがいいだろ」
と、なるべくそっけなく答えるが、
「本当にそれだけか? お前、イズモのこと好きだったりするんじゃないのか?」
と僕をからかいながら、彼は僕を肘で小突いてくる。
僕は「そんなんじゃない」と答えながら、亜沙人の頭を軽くはたいた。そして、
「……彼女も、そういうのは望んでないと思う。だから僕も、一線を引いて接するよ」
と続けた。
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