月色の川

梅林 冬実

月色の川

闇が世界を包み

人々は穏やかな眠りにつく

ぬいぐるみを抱えて眠る子

母に抱かれて眠る子

ひとりで

或いは誰かと

瞳を閉じ意識は夢の谷間に封じ込め

燦燦と輝く太陽が

世を照らしだすその瞬間まで

体を横たえ

夜の静寂に取り込まれる


僕はひとり寝床を抜け出し

夜道をひた走る

せせらぎが聞こえてきたら

僕の勝利だ


川は美しく澄んでいて

誰もが知っていて誰もが近寄らないのに

止め処なく流れる清い雫たちは

手を繋ぎ合ったりそっぽ向いたりしながら

吸い込まれるように身を任せている


真夜中 ある瞬間

決して見逃してはいけない

瞬く間に月色に染まっていく水流を

暗闇に溶け込んだ瞳に

眩い水面は耐えきれないほどの輝きを放ち

僕は思わず目を閉じる


薄く瞼を開け 目を慣れさせる

月色に耀く小川に

僕は心躍らせる


誰も知らない月色の川

誰にも教えてやらない月色の川

誰もが知る川の

真夜中にしか見せない戯れは

僕だけの秘密だ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月色の川 梅林 冬実 @umemomosakura333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る