とある零話・後半 お嬢様はあの日……
昔は、友達と来てた商業施設。
そこに今一人で来ている。
友達と見たアクセサリーショップの横を通り過ぎ、雑貨屋の隣を通り過ぎる。
何もかもが、苦しい。
思い出に苦しめられながら歩いていると、騒がしい声が聞こえた。
なんだろう?
そう思ってそちらの方に目をやると、ゴスロリ? っていうのかな、可愛い服を着た女の子と、見覚えがあるスタイルの良いかっこいい女性がいた。
「あれは……まさか、リオさん?」
軽く変装しているようだが、間違いない。あれは、リオさんだ。
声……かけてみようかな……
……よし。
「……【ダンライバー】のリオさんですよね?」
「ふぇ?」
そう、声をかけると彼女は一瞬ポカーンと口を開けた後、眼に見えて焦り始めた。
「み、身バレした……どうしよ……ってかなんで、身バレしたの!? 目立つ人を横に置いておけばバレにくくなるって話だったんじゃないの!?」
「あ、だから私に目立つ服装をさせてたわけなのですわね」
「そうだよ。それにしてもおかしい……IQ999である天才の私の計算が狂った……だと⁉ こは、ゴルゴムの仕業か⁉」
「ゴルゴムの仕業でもなんでもなですわ、あんだけ騒いだら当然……それに、あんたIQ普通に平均以下だったのですわ」
「はれ~? そうだっけ~?」
ご、ゴルゴム?
と、とりあえず、どうしよ。写真とか、取ってもらえたりしないのかな?
と、言った時……私は気がついた。
リオ姉さんの隣にいた子が、あいつだってことに。
「あ、あの~」
「あ、ごめんね」
「あ、あの……私ファンなんです…! もしよかったら、一緒に写真を……って、あれ?」
そうだ、こいつ…あいつだ……死んだはずの、あいつが……田中 絵里がそこにいた。
「あ、あんたは……エリッ⁉」
「……はて? 私の名前を知ってるってことは、私の知り合いだと思いますが……失礼ながら名前をうかがってもよろしいかですわ?」
「あんた、私の事忘れたのっ⁉」
「ええ、記憶の中からサッパリとですわ」
「う、そ……でしょ」
どうやら、エリは私の事を忘れていたようだ。
そう言えば、私が虐めていた時……エリはいつも無反応、無関心だった。
いつもいつも、別の事で……どうだっていいって顔して。
そっか、私の事なんて眼中にもなかったのか。
そう考えに至った時、私は気がつけば逃げ出していた。
……虐めてたやつが、尊敬するリオさんの妹だって、認めたくなかったのもある。
だけどそれ以前に……それ以上に私がちっぽけな存在だって、この世界に必要とされてないように感じて。
逃げ出した私は、トイレの個室に駆け込んで、鍵を閉めた。
いろいろな感情がごちゃ混ぜになって気分が悪かった。
「うっ……うえぇ……」
吐き気が込み上げて、全部吐き出した。
「……ってか、あいつ生きてたんなら。私がこんな目に合う必要なくない?
なんで、なんで私ばっかり。……こんな目にあってんのよ」
そんな愚痴を呟き、私は涙を流した。
気がつけば、あれから一時間近くの時が立っていた。
「……あ、そうだリオさんのグッズ……」
そう言って、トイレを出ようとした私は足を止めた。
「いいか……」
リオさんはエリのお姉さん。
それが分かった今では、正直リオさんの事なんかどうでもいいとすら覚える。
「見てるだけで、辛くなるもんね……」
トイレから出た私は、近くのベンチに腰掛ける。
気分もよくないし、疲れたし。
最悪の気分だ。
俯きながら座っていると、聞きたくない声が聞こえてきた。
「あ、殺人鬼いるじゃん~」
「本当だ~」
「マジうける~」
顔を上げると、そこにいたのは私の取り巻きだった連中。
「何、何か用?」
「ん? なに~睨んでんのさ~。友達と会えたんだよ、ほらもっと笑顔笑顔」
そう言ってくる、こいつら……
友達? ね、笑わせんなよ。全部私に押し付けて逃げたくせに。
「それにしても~ぷぷ、アスカちゃんさ~w 凄い格好だよねw」
「服もしわしわだしさ、貧相すぎて草はえるw」
「それにしても、ほんとダサいねw あ、ごめ~ん昔からダサかったねw」
「これが都落ちって奴かな? 本当、マジ無様だね……女・王・様w」
そう笑いまくっていた奴ら。
まあ、いいや。笑われるくらいなら別に……ここは、こいつらが離れるのを待って…帰るか。
はぁ、外の世界って、ろくでもないかも。
なんて思って、耐えてた私。
だけど彼女たちは言葉だけで終わらせることはなかった。
一人の女が、さもいい事を思いついたとでも言うかのように話し出した。
「あ、そうだ今から私たち新しいコスメ買いに行こうと思ってんよね~でさ、金くれねえかな?」
「は? なんで?」
「それいいね~そうだ! まだ慰謝料とかもらってないしさ~」
「慰謝料って……」
「そうそう、私たちの名誉棄損した慰謝料w あんた一人でいじめてたわけじゃん? なのに私たちまで巻き込まれてさ~マジ最悪~ってなわけで慰謝料たんまり頂戴ね?」
クソが。
名誉棄損で慰謝料? あんたらもしてた事じゃん。真実じゃん。
大体、なんであんたらに払うんだよ。
論理が論理になってねえよ、馬鹿だろ。
「何? なんか言いたいことあるの?」
「言いたい事なら沢山あるよ。腐るほどね」
「は? あんたが私たちに何か言えると思ってるの?」
言えるでしょ、普通にさ……
「あんたらだって、私と同じ穴のムジナでしょ? なんで同じ穴の、逃げ出したような出来損ないの獣女どもに私がお金を上げなきゃいけないの? ばっかでしょ、あんたらさ」
「は?」
「……どんな手使ったか分かんないけど、私一人だけが責任背負うことになってさ、本当に……本当にあんたらは………」
「あーはいはい、うぜぇ……うぜぇ、うぜぇ……」
そう言うと、彼女たちは。
少しイラついた後、舌打ちをした。
「本当に、うざいっ……」
「ねーめんどいし、無理やりぶんどっちゃおうよ」
「そうだね~殺人鬼に人権なんてないからねw」
「ちょ、あんたら何するんだよっ……あ」
彼女たちが実力行使に出ようとした時。私は気がついた。
彼女たちの後ろに立つ……一人の少女に。
「……あのですわ~」
「は? 誰……いまちょっと……は? 嘘っあんたは、エリ!? 死んだはずなんじゃ?」
「ちょ、いきなり失礼ですわね! 私、生きてますわよ! ほら、ちゃんと足着いていますし」
そう言ってエリはプランプランと足を揺らした。
「っち……帰るよ、皆」
「あ、ちょっと先輩~待ってくださいよ~」
そう言ってあいつらは去っていく。
気まずかったんだろうな。
自分たちが殺人鬼って、攻めてる奴が殺したはずの相手が生きてんだから。
「ほへ? もしかして、私行っちゃいけないことでも言ってしまいましたのっ⁉」
「ううん、特に……あいつらが勝手にビビッて逃げただけだし」
「ビビる要素どこにありましたの?」
「あるよ……沢山」
そう言って私は目を伏せた。
「……あんた、何しに来たの?」
そう、私は気がつけばエリに訪ねていた。
「へ? ああ、なんかアスカさんがいたので話しかけようかと思いまして」
「それだけ?」
「ええ、それだけですわ」
「あっそ」
そうそっけなく返すと私は歩き出した。
だって、この場にこれ以上いるのは耐えられなかったから。
「あっちょっと……ですわ」
「……何? なんか……言いたいことあるの?」
おかしい、私はこの場からすぐにでも去りたいはずなのに。
なんでか足が止まってしまった。
なんて言おうとしてるのか……もしかしたら私の事を嗤いたいのか? ああきっとそうだ、ずっと虐めてたわけだし。
無様な私を嗤いたいんだろうな。
でも、エリにはその資格がある。
私の事を嗤う資格がある……あいつらと違って。
「その……」
さあ、私の事を嗤えよ笑えよ……嗤ってくれよ……
嗤われるのを覚悟していた私、だけどかけられた言葉は――そんなちんけな言葉じゃなかった。
「大丈夫ですの? すごく、傷ついているような顔していますけれども」
っ……クソがっ。
そう言った彼女は、本当に…本当に……本気で私の事を……
なんで、なんでそんな声をしてるのさ。
私はあんたを虐めてたんだよ?
……虐めてたのに……なんで。
「……ッ。別に」
「あ、ちょっと」
ついてこないで、ついてくるなよ。
あんたに……あんたに同乗されると、余計惨めな気持ちになるんだよ。
――――
そして、逃げ出して……今に至る。
「虐めてたやつに、心配されて……惨めな気持ちになって、るっていうのに、あんたはさ‼」
クルリと背後を振り返ると、そこにいたのはまるでゴキブリのように壁を伝ってかさかさとおってくるエリがいた。
だからさ、だからさ……
「やっぱ心配ですの!」
「ギャアア!? おってくんなばかああああ!」
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