第138話 西日の草原

 ギゼルの町を離れて、二日経った。日も落ちかけた夕方、西から赤い光線の差す中、ラーピース・メビウスタが開けた草原に出ると、漸く気配が立った。


「長かったなあ。足が疲れた」


「そんなことはないと聞いてるぞ」


 ラーピースの背後から、外套を被った人形がずるり、と現れ、浮かびながら彼の前に立つ。


「壊していいのか?」


「よいが、作るのが大変なんだ。凡才だから。そうなると、次、君に話しかけるのはいつになるかな」


「用があるならはっきり言え」


 ラーピースはそういって、平原の真ん中に、どん、と腰かけた。


「その余裕、さすがハイビット姉妹が勇者と認めただけのことはある」


「残念ながら資格なし、だそうだ。お祈りメールをもらった」


「?」


「なんだ、壊すぞ」


 ラーピースは理不尽に怒鳴った。


「わたしからの提案は一つだ。あの姉妹を助けたくはないか」


「……興味ない。失せないなら壊す」


「そうかい? 本当に?」


 人形は左右に揺れた。まるで笑っているようで、不快だった。


「君、結構お節介だろう。じゃなきゃ、あの姉妹にあそこまで付き合って上げはしないはずだ」


「別に、成り行きだ」


「成り行きだって? 成り行きでハイオークと戦ったり、あのスナート・ダイガンとぶつかって、老人に勝ちを譲ったりなんてするかね」


 次は、愉快そうにくるくると回る。ラーピース・メビウスタは奥歯を噛んだ。


「壊されてえならそう言え」

 

 剣を取り出し、鞘から剣を半分ほど抜いて見せる。すると、人形はぷるぷると震えた。


「いいや。貴重な素材を使っているからね。去らせてもらう」


 人形はふわふわと揺れながら、ラーピースの横を通っていく。しかし、その動きが止まった。


「だが、もしも君に、その意思があるなら。あの姉妹を助けたいなら、彼女たちの故郷、この国の北西の海にある島、ジガを訪れてほしい。いい話があるんだ」


 顔のない人形の癖に、いやに動きだけは人間臭い。


 ラーピースは返事をしなかった。ただ、静かにその辺に落ちていた枝を拾うと、がじがじと齧りだす。泥の味がした。

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