第137話 一人旅立つ

「もういいのかい」


 ギゼルの町、仮設病院から出てきたラーピースの背に、声が掛かった。元青年防災元老院院長、ガリオ・ダイガンだった。現在、本来の町長であり、町を更地に変えた男、スナート・ダイガンは勝手に牢獄を飛び出て行方不明らしい。故に、再びガリオが長となっていると聞いた。


「ああ。あの二人、姉妹を頼む」


 ラーピースは振り返らずに言った。


「わかった。一応、あんたも含め、あのバカ孫に一発やってくれた恩人だ。全力を尽くそう」


「ああ。そうしてくれ」


「しかし、その……」


 老人は言い淀んだ。言いたいことは、すぐにわかった。


「いい。また、そのうち来る。多分、今はあの二人にしてやった方がいい」


「そうか。でも、あんただって、親しかったんだろう。近いうちに戻ってきてやってくれ。医者から話も聞いておる。なるべく早い方がいい」


「考えておく。じゃあな」


 そういって、再びラーピースは歩を進めた。


 親しい、か。


 ラーピースは空を見上げた。


「どうだろうな」


 そういう彼の手がかすかに振るえる。こういうときにも煙草があるといい。なのに、この世界には相も変わらずそれがないのだ。

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