第12話 彼女たちの裁き

 もう、ほとんど日が落ちかけたころ。赤い太陽がバイパの村の建物を染める中、二人の少女と男の子が村に現れた。


「ネチル!」


 女がそう呼び、男の子を抱き締めた。


 ほかの村人たちは、全身泥だらけの少女二人を見て目を丸くする。


「あんた達は……」


 その二人の少女の内、一人が、手に持っていた長い長い何かを、村人たちへ放った。


「大雨級〈サーペント=パッチャ〉はわたし達が討伐しました」


 イアコ・ハイビットはそう言い放った。


「大きすぎて、首を切ってくるのは無理でしたが。それはあいつの牙です。残りは全部山の上にあるので、好きにしなさい。討伐の報酬も皆で分け合うのが良いでしょう」


 冷たくイアコは言った。


「そんな、まさか、本当に……」


 男たちの動揺がざわめきとなって村を走った。


「いいえ。あなた達の予想通り、わたし達二人では無理でした。一人、勇猛で頭の足りない男性がいたおかげで命が延びたのは言うまでもありません」


 イアコは、蛇に食われた悪臭のすごい男を思い出していた。


「ですがー、子供を差し向けたのはいただけないですね。足を引っ張るにしても方法があるでしょう。どこのどいつかはっきりしろ。そいつだけは殺す」


 リルが大声で言った。


「違います、ネチルは、本当に勝手に……」


「あんたが、母親か」


 ネチルを抱く女をリルは睨んだ。彼女は静かに頷いた。親子を前に全身を震わせるリルの肩をイアコが掴んで止めた。


「〈パッチャ〉は死にました。もう少し喜んだらどうですか」


 イアコが溜息でもつくようにそう言った。だが、村人の反応はいまいちだった。


「姉上、性根の腐った彼らに何を言っても無駄です。やっぱり、〈パッチャ〉の懸賞金は姉上のものです」


 リルの言葉に、村人たちがどよめいた。


「帰ってくる前に、寄り道させていただきました」


 リルがさっと横に退くと、彼女の背に隠れ、縛られ、引きずられていたらしい男が現れた。


「彼は、王国に向けて、一級魔術師にして叙勲騎士のイアコ・ハイビットとリル・ハイビットが〈サーペント〉に喰われ、戻らなくなったことを伝え、なおかつ魔物の等級を引き上げること、そして懸賞金の上乗せを陳情する書面をもう書いていました」


「察しはつきます。あの大蛇のお陰で賞金稼ぎが村に押し寄せ、かなり一時期はにぎわったんじゃないですか」


 イアコは遠く、立派に煙を上げる聖堂や、行方不明者でもいない限り沸かない広場、村の大きさに見合わぬ宿をしらっと見つめた。


「でも、強すぎた。等級に見合わぬ活躍をする蛇のお陰で、すっかり賞金稼ぎが来なくなったのでしょう」


 リルはそう続けた。


「でも、一級魔術師が死ねば王宮もさすがに対応を変えると踏んだのでしょう。だけどわたし達は蛇退治が目的ではありませんでした。だからと言って、それを焚きつけるために子供を使ったり、司祭様に嘘までつかせて、やりたい放題なのはほんとになあ」


 両親がきちんといるらしいネチル少年をリルはきつく睨みつけた。


「聖堂の燻水が偽物で、わたし達の感覚を狂わせる酒の類なのもわかっていました。超一級の魔術師も随分下に見られたものです。もしかして、今までの剣士たちもそうやって死んだのですかな」


 リルはうんざりして言った。


「しかし、わたし達は王国が魔物に等級をつけ懸賞金をかけるお陰で、努力せずに利益を受け、狂う人がいることを計算していなかったことも罪と見ます。あなた達は毎日これからも酪農や果樹園とともに山と生き、国と人々に貢献しなさい。最後の幸運は山の上です。大事に切り分けて麓の村や街に収めて金にしなさい」


 そういってイアコは肩で風を切り村人の横を過ぎる。


「あの、せめて何か……」ネチルの母親が伏し目がちに言った。


「いりません。しいて言うなら、蛇の腹の中に男が一人いるはずです。酒場で寝こけていたあの男です。彼は一応、勇猛に蛇に向かって戦いました。丁重に弔ってください」


 イアコは今度こそ立ち止まらず、すたすたと村の出口まで歩いていく。リル以外に、もう追いかける者はいなかった。

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