第3話 出勤
私は村上春樹の『ノルウェイの森』を閉じ、ふと車窓に目を向ける。
外にはガラス張りのビルが我々の乗る電車の黄色い帯を反射している。
日の光はどうやら私の背面にあるらしく、ビルのガラスを溶かすかのように光り輝いている。
私は目の前に座る中年を見下ろす。
彼は寝ぼけ眼でスマホの画面を見ている。
満員電車の窮屈に身を捩り、背中を丸めて黒の手提げ鞄を前に押し留めながらスマホを見る。
彼が画面のニュースを読み終えるのにはそこまでの時間はかからず、スマホ画面はフリップされる。
そして彼が最初の数行に目を通している時、電車は私の仕事場の最寄駅につき、私はそこで人混みに揉まれながら降りる。
朝日の照る駅のホーム、そこから改札がある上へと上がる階段には右側二列ができており、のっそのっそと動いている。
エスカレーターの前には人々が滞留し、押し合いへし合いしながら運ばれていく。
私はエスカレーターの前のカオスを忌避すると、階段を登らんとする列に加わった。
そして人がおよそ3人しか入れない程度の横幅の階段を抜けると、列に従って1番右側の改札を抜ける。
電車の線路を見下ろす橋に出たら左に曲がると私の職場はすぐだ。
短編集 新興ラノベの濫觴と成り得る者 @ediblewaste
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