第2話 登校
俺は朝という時間では、いかんせん気怠いわけだが、学校に行かないというわけにもいかず、黒の手提げかばんを持った手を肩にかけると、一つ出たあくびで朝の涼しい空気をいっぱいに吸い込む。
団地の安っぽいざらざらとしたコンクリの壁をそれとなく手で触れて、何ら取り留めもなく今日もこの団地は安っぽいと認識すると、セメントで固められた廊下と階段を履き潰した革靴でコツコツと歩く。
通り掛けに俺の号室の郵便受けを見ると、頭では何もないとわかっていてもダイヤルを回して開けてしまう。
郵便受けにロマンを感じるのは俺だけであろうか。
もしかしたら中には俺の知らないお得情報であったり、あるいは機密機関からのお達しであったり、あるいは最近話すようになった異性のラブレターであったりが入っていると思うのは俺の所為ではなくて、俺という年代、高校生という青春が駆り立てる夢物語なのだから。
まあ、結果から言って中には何も入っていなかった。
だから、俺は少し気を落としつつも、まあいつものことであるから、団地の外に出て、通学路を行くわけだ。
俺の高校は徒歩十五分ほど。
中学生のころ、勉強は、まあ可もなく不可もなくと言った感じだった俺の高校も、もちろん普通の高校であり、そこでさえ俺は中位をキープしているのだから、平凡というほかないであろう。
だが、平凡こそ安心だと、諸君は思わないかね。
だってここで俺が例えば道端に落ちている宝くじを拾って十億円当たったとなれば、俺はその、運命がくれた幸運を、いつ崩れるかも知らず不安になってしまうかもしれない。
それだったら平々凡々に暮らした方が精神の健康であったり、老後であったりが健全になるのだから。
と、俺はさも得意げに話すのだが、その実、俺はそうは思っていないらしい。
というのも、その俺の意見は激動の人生を生きた人々からの受け売りであり、当の本人にはそれが何を意味するのかが全く分からないのだから。
ただ、俺には一生かかってもその意味を理解はできないだろう。
だって、俺の一生は平凡なのだから。
そんなアンニュイなことを宣ってみたところで目の前には白の校舎が広がる。
まあ、とりあえず今日も高校には着いたようだ。
ところで、さっきの話の続きだが、俺はいつも俺という臆病者に感謝しているね。
何故なら、平凡に辟易とはしていても、だからと言って非日常を求めて何物からも逃げ出す勇気などない俺だからこそ、こうやって幸せに暮らしていけているのだから。
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