短編集

新興ラノベの濫觴と成り得る者

第1話 起床

半覚醒の心地よい寝息を耳で感じる朝、スマホのビープ音が意識を微睡みから引き上げると、僕は煩いスマホを寝ぼけ眼で止める。

そして僕は重い体を起こすと陽の光の差し込む窓を見る。

カーテンから差し込む陽光には、僕が起き上がる際に舞い上がった塵がひらひらと輝いている。

この、陽の光を起き掛けに見るというのは僕のいつもの習慣である。

こうすると、脳が目から入る光に応じて起こされるような気がするのである。

そして、まどろみの誘惑を、ベッドから立ち上がることで断ち切った僕は、一つ欠伸をする。

机には物が散乱している。

いつか使うであろうとか、片付けるところがないとかで兎に角積み上げた物どもは、一切そこから動くことはなく、薄く埃をかぶっている。

少し前までは机に向かって教養に良いものを読んだりしていたのだが、それも疾うに飽きてしまって、今ではPCでふと気になったことを調べるくらいしか机に向かうことはない。

背筋を丸くして目をこすりながら洗面台に向かうと、歯ブラシを鏡台の裏から取り出し、歯磨き粉を小豆代の大きさつけて、歯を磨く。

僕は、もちろん夕飯の後にも歯磨きをするが、朝にもう一度することによって得られるこの口内の清々しさが好きである。

磨き終えた歯は、舌で舐めるとつるつるしていて、息を吐きだすと口内がミントの調に従って冷え冷えする。

歯磨きを終えた後は水で顔を三、四回こする。

ガス代などもったいないと僕は初めから洗顔は冷水でしていたのだが、昨今ではそれが快感である。

冷水で顔を洗うと確かに眠気も醒めるというのもあるが、それだけではなく、そのあとに少し持続する熱の抜けた感じが、僕には快感なのである。

水にぬらした後にドライヤーで乾かした髪をブラシで撫で付ける。

もう外で着ることはないだろうと思ってパジャマにしたよれよれの服を脱いで洗濯機に入れる。

そしてスーツに身を通すと、貴重品やら何やらを黒の手提げかばんに詰め込んで都心のワンルームを出た。

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