多種多様の戦闘スタイル

 ヤミが廃墟の中に消えてから程なくして。

 目の前にレーダーマップを展開していたミャーが、ふいに耳元に手を当てると「りょうか〜い」と一言。


「ヤミちゃんが持ち場に着いたらしいから、これから私らの戦い方を紹介するよ」


「私らって……アンタ、一歩も動いてねえじゃん。ここからどうすんの?」


「それは実際にやってみてからのお楽しみってことで。とりあえず君たちは、そこでのんびり見ててよ。真正面からぶつかるだけが戦いってわけじゃない事を実践してみせるからさ」


 そう言ってミャーは、新たに武器を呼び出す——違う、武器じゃねえ。

 新たに召喚したのは、十インチくらいのタブレット機器だった。


「えっと……それ何?」


「見ての通りタブレットだよ。色々と戦闘のサポートをしてくれる便利アイテムなんだ。分類的には武器になる上に二枠使うから、使うにはメインかサブどっちか潰さなきゃならないのと、起動中はMPをかなり消費しちゃうのが難点だけどね」


 タブレットが武器……。

 うん、ちょっと何言ってるか分かんねえっす。


 使い方が全く想像がつかずにいる俺をよそにミャーはタブレットを起動させる。

 すると、タブレットを中心にして幾つものウィンドウがミャーの前に出現する。

 その中の一つを見て、ふと気が付く。


「……ん、あれ? それって俺の視界じゃ……?」


「お、よく気づいたね。その通り、ここに映っているのは君が今、現在進行形で見ている景色だよ。ちなみにこれがゼネラル君のでこっちがティアちゃん、それとこれがヤミちゃんが見てる光景だよ」


 ウィンドウを順々に指差しながらミャーは答える。


 どういう理屈でそうなってるんだ。

 つーか、ヤミあいつ……かなり場所を移したな。


 チラリと見えたウィンドウに映っていたのは、廃ビルの屋上だった。

 ここら一帯を見渡せる程に見晴らしがよく、敵からは建物が遮蔽物になって姿を隠しやすい……絶好の狙撃スポットだ。


 何にせよ——、


「凄えな。全員の視覚情報を把握できるのか」


「まあね。でも、それだけじゃないよ。マップを開いてみれば分かると思うけど、表示される情報がより詳しくなってるんだよね」


「マジ? ……うわ、マジじゃん」


 言われた通りマップを開いてみると、さっきよりもマップに表示される内容の精度が上がっていた。


 これまでは大まかに大きな道や建物が表示されているだけだったけど、今は建物や障害物の位置が細かく表示されるようになっていて、裏路地や小道までもがルートとして描かれるようになっている。

 更には俺や他プレイヤー、敵モンスターが今どこを向いているのかがリアルタイムで反映されるようになっており、現在地からどれくらい離れているのかも数値で確認出来るようになっていた。


「おいおい、タブレットの効果エグすぎだろ……!」


 こんだけ情報のアドを取って且つパーティーメンバーに共有も出来るなら、貴重な武器スロを一枠割くことのデメリットよりもメリットの方が確実に上回っていると思う。

 少なくとも、戦闘を有利に進められることは間違いないだろう。


「にゃはは、凄いでしょ。でも、まだやれることは他にもあるよ。——ヤミちゃん、今から敵にタグをつけてくよー」


「……タグ?」


 ミャーがヤミに無線通話をしながらタブレットを操作すると、マップにいる敵アイコンにアルファベットが割り振られていく。

 それに連動して、実際に視界に映る敵にもアルファベットが表示された。


 ——へえ、視覚支援……中々便利な機能じゃねえか。


 複数の敵を相手する際、共通の番号とかがあれば、どの敵から狙っていくかとか、どの敵が攻撃してきてるかといった味方同士での伝達が大分スムーズになるし、ミスも少なくなる。

 一見すると地味な変化ではあるが、ほんの僅かな時間の差が勝敗に直結する場合もある以上、馬鹿にならない変化ではある。


「タグ付け終わったよ、見えてるー? ……うん、オッケー。じゃあ、B、D、Gの順に撃ち落としていって」


 続けてヤミが指示を出した刹那——B、D、Gとタグ付けされたドローンが一瞬で撃ち抜かれた。

 間髪置く事なく三連射、撃破はほぼ同時だった。


「うっわ、ガチか……!!」


「次は……A、E、C、Fの順で倒してって。そしたら、今指定した座標に移動よろしくね。今いるビルの出口付近に敵が徘徊してるから、鉢合わせしないように気をつけて」


 再び指示を出すや否や、またも瞬く間に指定されたドローンが撃墜されていく。

 それからマップに視線を移すと、ヤミがすぐに違う場所へと移動を始めていたのが確認できた。


「スナイパーライフル早撃ちプラス連射で全弾命中って……アイツ、エイム化け物過ぎんだろ……!!」


「でしょ〜! ヤミちゃんの狙撃は一級品なんだよ〜」


 いやいや……あれは一級品どころじゃねえよ。

 物の数秒で七体撃破とか、ソマガの通常攻略は勿論、対戦環境ですら早々お目にかかることはなかったぞ。


 今の一連の動作に限って言うのであれば、ソマガのスナイパー全一だった奴に匹敵するレベルだ。


「ティア、今の真似出来るか?」


「うーん……ちょっと厳しいかな。少し連射速度を落とせば、やれなくはないとは思うけど」


「うげ……お前でも無理なのかよ」


「スナとマシンガンじゃ勝手が違うってのはあるけどね。でも、仮に慣れたとしても結果は変わらないかな。控えめに言って神業だよ」


 ティアがここまで手放しに褒めるって事は、ヤミの狙撃技術は本当に相当な物なのだろう。


(——アイツ、マジで何者なんだ……?)


 腕前的に恐らくはFPS畑の人間なんだろうけど、どこかのゲーミングチームに所属していたりしてんのか。

 ……けどそれだったら、そのまま所属チームで小隊を組んでるか。


 サガノウンはジャンルとしてはMMORPGに分類されるが、銃を使えるからかFPS界隈から参入してくるプレイヤーも少なくない。

 それこそ登録者うん十万人の超人気ストリーマーだったり、国内外の大型大会で結果を残すようなプロゲーマーもやっているとはよく聞くし、チームによっては主戦場をサガノウンに移行したなんてケースもあるくらいだ。

 だからこそ、そういったプレイヤー達と小隊を組まず、わざわざ野良プレイヤーである俺らに声を掛けて来たことが気にかかるわけで——。


 ……まあでも、情報支援とあの狙撃が加わるんなら今はそれでいいや。




————————————

オペレーター

 サービス開始してから半年後、ハーフアニバーサリーで実装された新ポジション。

 オペレーターをポジションにセットしている間は攻撃アビリティが習得出来なくなったり、使用可能アビリティに制限がかかるなどのデメリットがあるものの、オペレーターがいる事でパーティー全体の戦力を底上げ出来る為、可能であれば一人はいて欲しいです。

 とはいえ、オペレーターにポジションを変更できるようにするには特定の条件を達成する必要がある上、オペ単体で戦えるだけのスペックはないので、人気があるポジションではないというのがネックなところ。

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