荒野の中に佇む遺構の群れ

 一旦ランドマークに立ち寄った後、ミャーに案内された先にあったのは、広大な遺跡群だった。


「到着〜。ここがグレイドニス遺跡。この先にある隠しエリアの中に初心者でもお手軽にレベリングできるスポットがあるよ」


「お〜、すごい! ちゃんと遺跡してる〜!」


「それ感想としてどうなんだ? いやまあ、言ってることは分からんくもないけど」


 ソマガも遺跡エリアはあったにはあったものの、基本的には住宅街の中に設置されたちょっと大きめの公園くらいのサイズがポツポツって感じでしかなかったし。

 対戦マップとしての遺跡はちゃんと広さが確保されて且つそれなりに作り込まれていたのに、なんでフィールドの方がお粗末になってんだよ。

 などとツッコミたいところけど、それがソマガクオリティと言われればそこまでではある。


 そんなソマガの残念さに半ば呆れながらも当時を懐かしみつつ、俺は周囲を見渡してみる。


 現在は殆どの建物が風化していたり、道路が崩壊しているせいで今じゃ見る影もないが、マップの規模を鑑みるに、きっと栄えていた頃はかなりの大都市だったのだろう。

 正直、探索範囲だけでいうなら拠点よりもこっちの方があるんじゃないかと思えるくらいだ。


 ——ただ、それよりも気になるところが一つ。


「ところでさ。ここら辺にある廃墟ってもしかしなくても……ビル?」


「そう……みたいだな。となると、崩落した橋みたいなのは……高速道路の名残りか」


「ご明察。どうやら大昔も現代並みに文明レベルが高かったみたいなんだよね。他の陣営の領土内にも似た遺跡は幾つかあるけど、中でもここが最大級らしいよ」


「何そのポストアポカリプス的な世界観設定。怖っ」


 つまり少なくとも一回は世界が滅亡するレベルで文明が消えたってことだろ?

 めっちゃSFチックな世界観してんじゃん。

 ……けどそもそも、魔力で銃弾ぶっ放せる時点で普通にSFファンタジーしてるか。してるな、うん。


 冷静に自己解決したところで、


「ん……何だ、あれ」


 ふと遠くの上空で何かが徘徊するように飛行している事に気がつく。


 とりあえず目を凝らして飛行物体の正体を確かめてみる。

 遠目だから確信は出来ないが、


「——ドローン?」


 視認出来たのは、機銃らしき武器を搭載した円盤状の機械だった。


 しかも一体だけではなく、あちこちにいるのが確認出来る。

 とりあえずここからでも軽く二十機近くは数えられる。


 おいおい、どんだけだよ……!?

 防衛任務中に押し寄せてくるアンノウンくらいいるんじゃねえか。

 ……ごめん、流石にそれは誇張し過ぎた。


「うん、その通り。迎撃用ドローン——これくらい離れていれば気にしなくても大丈夫だけど、遺跡に侵入してきた人間を発見次第、即座に襲いかかって来るから気をつけてね」


「物騒だな、おい。けど、貴重な情報サンキュー。つーわけだからゼネ、ティア。勘付かれる前にサクッと撃ち落としといて」


「えー、めんどうなんだけどー。人に指示する前にアラヤがチャチャっと倒してきなよ」


「はぁ? 何言ってんだ。あんだけ地上から離れてたら、攻撃が届かねえだろうが」


 低空飛行してる奴ならともかく、十メートル以上高く飛んでる奴は無理だぞ。


 言い返すや否や、ティアは俺にジト目を向け、あからさまに肩を竦めてからボソリと一言。


「……はあ、これだからクソエイムのアラヤくんは」


「全くだ。お前は何のために大層な銃を持ってるんだ。言っておくが飾りじゃないんだぞ」


「あ゛? なんだ、テメエら喧嘩売ってんのか。そっちがその気なら今すぐに買ってやるぞオラ」


 お前らが馬鹿にするクソエイムにボコボコにされる屈辱をとことん味合わせてやるよ。

 つーかゼネこの野郎、なにしれっとテメエも乗っかってきてんだよ。


「あの、君たち……なんで流れるように喧嘩しかけてるのさ」


「あ、気にしないでも大丈夫だよ。これがわたしらのいつものコミュニケーションだから」


「そ、そうなんだ。……でも、盛り上がっているところ悪いけど、丁度良い機械だしここは私とヤミちゃんに任せて貰ってもいいかね?」


「……え、うん。いいけど」


 唐突なミャーからの提案に、ティアが若干戸惑いながらも了承する。


「ありがとう。そういう訳だから……出番だよ、ヤミちゃん。準備はいい?」


 ミャーに訊ねられると、ヤミは控えめに頷く。

 それからゴツくて真っ黒なスナイパーライフルと濡羽色のクロークを召喚してみせた。


 へえ、スナイパーライフルに多分隠密用のクローク——完全な後方支援型か。

 ……なるほど、確かに俺らと組めば陣形のバランスが良い感じになるな。


 俺が敵に突っ込んで、ティアが後方から支援して、ゼネがその場の状況に合わせて臨機応変に動く。

 そんでそこにヤミの長射程による支援が加わるとなると、安定度は飛躍的に上昇するかもな。


 ——でも、パーティーのバランスが良いだけでは戦闘は成り立たない。


 チームでの戦闘において最も重要なのは、どれだけ噛み合った連携と戦術が組めるか——ソマガもそうだったけど、一人がノイズになることで発揮できるパフォーマンスが大きく変動する。

 FFが発生するゲームであれば、その差は更に顕著となる。

 だから数は正義ではあるものの、下手に人数を増やすよりもゼネとティアの三人だけで戦った方が断然良かったりする。


 ましてやヤミは、このゲームを始めてまだ二日目だ。

 ぶっちゃけてしまうと、彼女が俺たちにとって戦力になるかどうかは微妙なところだ。

 場合によっては、二人には悪いが今回は縁が無かったということで断る事も視野に入れる——なんてつらつらと考えていた時だ。


「……大丈夫、あなたが心配しているような事にはきっとならないと思う」


 フィールドに出てからずっと沈黙を貫いていたヤミが耳打ちをするように言ってみせた。


「へ……?」


「私もまだこのゲームを始めたばかりだけど、ちゃんと戦力になれる事を示してみせるから。……じゃあ、行ってくるね」


「お、おう。いってら?」


 そして、目が隠れるくらいにフードを深く被ると、単独で建物の中へと消えて行くのだった。




————————————

ヤミが取り出したクロークは、敵からの発見率を下げたりレーダー探知を避けたりする効果を持つアクセサリです。

とはいえ、派手に動けば簡単に見つかるし、攻撃中は隠密効果が消えるので過信は禁物です。

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