レベルの暴力

 ——というわけで、一度拠点を離れてフィールドへ。

 ミャーに連れられて現在俺達は、東方面へと移動していた。


 例のレベリングスポットはここから北東に進んだ先にあるというが、その前にランドマークをブクマしてから向かう算段になっている。


 拠点内と比べると数はあまり多くはないが、フィールド上にもランドマークはちらほら点在しているらしく、探索範囲を広げたり他陣営の領地に移動したりする時に重宝するとの事だ。


 確かに全部徒歩移動となると果てしなく時間がかかるし、拠点から離れるに連れて出現するモンスターが強くなっていく傾向にあるもんな。

 今は少し遠回りになっているものの移動時間を大幅に減らせるのであれば、ランドマークは出来る時にブクマするに越したことはないだろう。


 ——にしても、だ。


「改めて思うけど、このゲームのフィールドってえげつなく広いよな。荒野ばっかで見応えはねえけど」


「それはセプス=アーテルが全体的に土地が痩せてるって設定だからだね〜。他の陣営の土地は普通にもっと自然豊かだよ」


「やっぱそうだったか。そりゃ他と比べて人気無えわけだ」


「でもわたしは結構この地形好きだよ。こういう殺風景な景色は結構見慣れてるし」


「……そうだな。ソマガではこういう景色の方が多かったな」


 周囲を見渡しながら言うティアに対して、ゼネが感慨深そうに頷く。


 言われてみれば、ソマガのフィールドも大半がこんな感じだったな。

 ただ、こっちは世界観による説得力を持たせているのに対して、向こうは作り込みの甘さが原因で結果的にそうならざるを得なかった、というのが正解なんだけど。


 残念ゲーなRPGでのあるあるだと思うんだけど、序盤の街やエリアはメチャクチャ凄え作り込まれてるのに、ゲームが進んでいくに連れてどんどん杜撰になっていくというか……。

 残念ながらソマガも典型的なそのパターンだった。


 アレも最初は街の中とか周辺のフィールドの景観を目の当たりにして「おお、凄え……!」なんて感動してたけど、気づけば一面平原か荒野のどっちかだったからな。

 ラスボスとの決戦フィールドすらも荒野の使い回しだったし。

 フィールドの面積だけは一丁前に広かっただけに、余計手抜き感が凄かったと今になっても思う。


 だから感覚的には、ここらのフィールドとか未開領域みたいに基本的に何も無いフィールドの方が個人的には馴染みがあったりする。

 多分、これはティアとゼネも同じような考えを持っているはずだ。


「ソマガって……もしかして三人ともソード&マジック&ガンズ・オンラインをやった事あるの? 先月サ終したっていう、あの」


 ミャーの問いかけに、俺らは一瞬だけ顔を見合わせてから、


「まあ、やった事あるっつーか……」


「俺達は全員サービス最終日までの三年間」


「ずっとバリバリ現役のアクティブプレイヤーだったのでしたー! いえい!」


 順々に答える。

 俺らの示し合わせたかのような反応にミャーは、


「……君たち、凄く息ピッタリだね」


「そりゃあ、三年間ずっと一緒にチームを組んでたもので! とは言っても、三人ともフレンドになったのは、こっちに移ってからだったんだけど」


「にゃはは……それもある意味凄いね」


 ミャーがそう苦笑した矢先だった。


「あ、敵だ」


 少し離れた所にいるモンスターが俺らに敵意を向けていることに気が付く。

 砂色の毛皮が特徴の体長四メートル強の熊みたいなモンスターだ。


 アイツは確か……サンドベアだったか。

 討伐推奨レベルは30前後——数字だけで言えば、俺らのちょっと格上くらいか。


 距離はまだそれなりにあるが、恐らく戦闘は避けられなさそうだ。

 ならばと先手を打つべく、ショットガンと大盾を召喚しようとして——、


「よっと」


 それよりも先にミャーが懐から拳銃を抜き、サンドベアの脳天を撃ち抜いた。

 アビリティを発動させていないただの弾丸だったが、それでもたった一発で全身をポリゴンに四散させてみせた。


「……よし! それじゃあ、行こうか」


 完全にハエ叩きで虫を駆除するくらいの軽いノリだった。

 ついでにその近くにいた別のモンスターも弾丸一発で容易く仕留めてみせた。


「おお……ナイスワンパン」


「いやー、それほどでも。ただのステータスの暴力で殴ってるだから、君らも私くらいのレベルになればこれくらい簡単に出来るよ。ただレベル上げにはちょーっと時間はかかるかもだけど」


「ふーん、参考までにアンタは具体的にどんくらいかかったんだ?」


 訊ねると、ミャーは「うーん」と一拍置いてから、


「そうだねー……カンストにするだけでも、ざっと大体三ヶ月くらいかな」


「うげっ、マジかよ……!」


 俺が予想してたよりも余裕で三倍近くあるじゃねえか。

 途中から上がりづらくなるとは聞いていたが、俺の想像以上に大変な作業になるっぽいな。


「途中からレベルアップに必要な経験値量がえげつなくなってくるからね〜。でも、50レベルくらいまでならすぐに上げられるよ」


「あ、それならいいや」


 今はひとまず対戦の制限レベルに到達できればそれで良いし。

 けど、本格的にフィールド探索とか未開領域への遠征も本腰を入れられるようにする為にも、レベリングは早いうちに終わらせたいところだ。


「もうすぐでランドマークに到着するから、そしたら改めてレベリングスポットに向かうよー」


「あいよ、りょうかーい」




————————————

サガノが発売してから結構時間が経ちますが、プレイヤー人口に対してレベルカンスト勢は意外とあまり多くないのが現状だったり。

一定のレベルを境に必要経験値がバカ程増えるのが原因のようです。

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