提案と提案
立ち話もなんだからと場所は変わって、防衛戦線本部基地内にあるカフェテリア——その一角にあるボックス席で俺ら三人とモノクロな姉妹(?)二人で向かい合っていた。
「いやー、悪いね。いきなり付き合ってもらって」
「ううん、お構いなく! それはそうと用件って……?」
ティアが訊ねると、ミャーは真っ直ぐと俺らを見据えて言う。
「単刀直入に聞くけど、君たち……私らと一緒に小隊を組まない?」
「……小隊って?」
「他ゲームでいうところのクランやギルドみたいなものだよ。それらと比べると一度に組める人数はそんなに多くないけど」
あー、言われてみればなんかそんなシステムもあったな。
確か一度に組める最大人数が四だか五人だったか。
ただ、通常パーティーよりも構成人数が少ないから、わざわざ小隊を組む意味あんのかと思ってたけど……こうして勧誘してくるってことは、何かしらメリットがありそうだな。
「だってさ。どうしよっか」
「……そうだな。とりあえず、判断材料が欲しい。あの……何で俺たちに——隣の二人に声を掛けたのか理由を教えて貰ってもいいですか?」
ゼネの質問に、ミャーが目を細めたまま答える。
「そうだね〜。まず純粋に君たちの実力を勝ってるのと、君たちと組めれば私の思い描くチームが組めそうだから、かな。証拠にアラヤ君とティアちゃん……昨日、未開領域でオーバードに追われて生還したでしょ? 腕が四本あるライオンみたいな顔をしたやつから」
「ええっ!? 何で知ってるの!?」
「たまたま掲示板見てたら、新規勢がオーバードから五体無事に逃げ延びた様子を見たって人がいてね。それで得られたヒントを元に色々調べてるうちに君らに辿り着いたってわけ」
あー、そういう事か。
まあ結構派手に暴れてたっつーか、やらかしてたからな。
幾ら人がいない未開領域といえど、目撃人が出てきてもおかしくはないか。
……とはいえ、流石に掲示板に情報載るとは思わなかったけど。
「なるほどな。でも、それでよく見つけられたな」
格好とかで幾らか目星が付けられたとしても昨日の話だし、そもそもこのゲームのアクティブプレイヤー何人いると思ってんだ。
比較的人口の少ない北陣営だとしても、僅かな情報だけを頼りに見つけ出すのは至難の業であることは確かだ。
「まあね。私も普通にあと何日かはかかるかと思ってたんだよねー。……でも、ここでミラクルを発揮したのが我が愛しの妹——ヤミちゃんなわけ」
言って、ミャーは隣に座るヤミの肩に両手をポンと乗せた。
ふとヤミと視線が合う。
なんだか睨まれている気がして、つい反射的に目を逸らしたくなる。
——うん、やっぱちょっとだけ圧を感じるわ。
「装備を見て分かると思うけど、ヤミちゃんも昨日からこのゲームを始めた口でね。それで新人訓練場でチュートリアルをこなしてたら、遠目からだけどティアちゃんとアラヤ君を見かけてたみたいなんだよ。まずそれが一つ目」
「訓練場って……あの時か」
ティアが無双して新人訓練を速攻で終わらせたあの場面に居合わせていたのか。
今になって思い返してみても、かなり人目を惹いてたもんな。
……つっても、俺は完全におまけだったけど。
(それはそうと……よく俺のことまで覚えていたな)
「それと二つ目が路地裏にある武器屋でアラヤ君と遭遇したこと。そこでアラヤ君の顔と名前が一致したのが一番大きいかな。おかげで例のプレイヤーが君らだって把握できたから。そして、ヤミちゃんがアリーナを見てみたいって言われて案内しに行ったら、ちょうど君達がいたってわけ」
「ほうほう、理解理解。……って、え? アラヤ、この子ともう面識あったの!?」
「……さあな。そう言ってるんなら、そうなんじゃねえの」
適当に流すも、
「またまた〜、謙遜しちゃって。ヤミちゃんが君に親切して貰ったって言ってたよ」
「へえ〜、ふーん。そうだったんだ〜、ア・ラ・ヤくーん?」
——うっぜえ……!!
ミャーが余計な事を言ってくれやがったおかげで、水を得た魚のようにティアがにまにまと温かい眼差しを俺に向けてくる。
ついでにその奥でゼネも意味深に笑みを浮かべていた。
クッソ、無言なのが余計ムカつく……!!
「それで今の話って本当なの?」
それからティアの視線がヤミに向けられる。
するとヤミはこくりと頷いてから、
「多分だけど、この人のおかげで武器を安く買えた。だから、その……遅くなっちゃったけど、さっきは……どうもありがとう」
小さく頭を下げてきた。
「……別に礼を言われるような事は何もしてねえよ。つーか、そもそもどうやって人が買おうとしてる武器を——」
「えっ、お姉さんに交渉して割引権使ったんじゃないの?」
「………………」
……あの、平然とネタバレやめてもらっていいっすか?
「あ、やっぱり割引できたんだ。何となくそうじゃないかと思ってはいたけど」
「全くもう。ゼネくんも大概だけどアラヤも照れ屋なんだから。変な意地張ってないでここは素直にどういたしまして、でしょ」
「お前はオカンか」
「はいはい、いいからいいから。それじゃあ、せーのでいくよー。せーの……どういたしまして」
「……どういたしまして」
園児に向けるような口調で言いながら、ティアが俺の首根っこを掴んで無理矢理頭を下げてくる。
ゼネはその光景を横目にやれやれと肩を竦めていた。
「アラヤ、茶番はそこら辺にしておけ。話が脱線してる」
「おい、なんで俺が注意されんだよ。始めたのはコイツだろうが」
ティアを指差して抗議するも、
「——一先ず、二人に声を掛けた理由は分かりました」
「無視かい」
「であれば……一度、試しにパーティーを組んでみませんか? ここで話し合って考えるよりも実際に戦って感触を確かめた方が手っ取り早いですし。お前らもそれで良いだろう?」
「それは全然構わねえけど、スルーすんなし」
ゼネの提案にミャーは口元に手を当て、少し思案する様子を見せてから、
「……それもそうだね。それじゃあ、ついでにレベリングにうってつけな穴場の狩場に案内するよ。ヤミちゃんに親切してくれたお礼にね」
パチリとウィンクを決めるのだった。
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