クソエイム対策の秘密兵器

 第一ラウンド勝者——ティア。




「クソゲえええーーー!!!」


「いえーい! まず一本!」


 普通に余裕で完封されました、はい。


 ……じゃねえだろ!!

 なんでデュアルマシンガンで片方は胴体、片方は足元狙って撃てんだよ!

 しかも俺の足が止まった瞬間に盾への集中砲火に切り替えて、盾が割れたらそのまま胴体を蜂の巣とか無理ゲーだろうが!


「ああ、クソッ……分かってはいたけど、やっぱ強えな……!」


 けど……今ので大体の感覚は掴めた。

 こっからが本番だ。


「にっしっし、このまま二本目も貰っちゃうもんね!」


「あ゛!? 言うじゃねえかテメエ! 見とけよ。その余裕そうな面、今にぎったぎたに崩してやるからよ……!!」


 再びショットガンと大盾を構えて、カウントダウンが終わるのを待つ。

 そして、ゼロになり第二ラウンドが始まった瞬間、俺は全速力でティアの元へと突撃を仕掛けた。


「うわ、さっきやられたのにまた突っ込んでくる!?」


「当然! お前もよく分かってんだろ!」


「そうだけどさー!」


 なんて言いつつも、ティアはさっきと同じ精度でマシンガンをぶっ放してくる。


「なんでそんな綺麗に撃ち分けられんだよ……!?」


 メイン側で俺の胴体を、サブ側で俺の足元を正確に狙ってきている。

 このまま何も手を打たなければ、さっきの二の舞になるのも時間の問題だ。


 ——でも、今度もそう上手くいくと思うなよ……!!


「行くぞ、ティア。運ゲーの始まりだオラァ!」


 射程距離およそ二十メートル。

 俺のクソエイムではまず当たらない距離ではあるが、それでも構わずスプレッドショットを撃ち放つ。


 狙いはダメージを与えるというよりは、少しでも圧をかけること。

 当たれば御の字、そうじゃなくても向こうの射撃の精度を少しでも削ぐことができれば十分だ。


 俺の射撃の下手くそさは、ティア自身もよく分かっている。

 だからといって、百パー命中しないかというとそれは違う。


 ノーコンのピッチャーが偶々針の穴を通すようなストライクを取るように、適当に撃った散弾が胴体を綺麗に捉えることもある。

 ましてや、デュアルマシンガンでのフルアタックをしているということは、バリアを展開できない——無防備な状態を晒しているということだ。

 つまり、どれだけ命中率が低いからといって、当たらないだろうって高を括るのはリスクがデカすぎると言わざるを得ない。


 ——ゼネも言っていたけど、クソエイムのくせに油断してるとよく分からない当て方をしてきてキモいって事らしいしな、俺の攻撃。


 実際、俺も狙って撃つより適当にばら撒いた方がラッキーショットをする確率が高い気がする。

 十メートル圏内に入れば話は別だけど。


「ん゛に゛ゃ゛ーーー!! 狙ってないくせして地味に良いところに飛んでくるのめんどい!!」


「だったらさっきみたいに盾割って速攻撃破狙ったらどうだ!?」


「それが出来たらもうしてるよ! どうせ盾に何か仕込んでるでしょ!」


 ——ありゃ、バレてら。


 ティアの言う通り、さっきのラウンドとは違うやり方で弾丸を防いでいる。

 さっきはパワーシールドで防御していたが、今は別のアビリティ——”マジックシールド”で攻撃を防いでいる。


 マジックシールドの効果はパワーガードと似ていて、一定時間の間ガード性能を引き上げるというもの。

 パワーガードと異なるのは、向こうが物理攻撃により強いのに対して、マジックシールドはバリアと同じく、ガンナーの弾丸や魔法攻撃に対して更に高い防御力を持つ点にある。

 さっきはそれもあって大盾を破壊されてしまったが、今は安定してデュアルマシンガンの弾幕を防げていた。


 こんな風に時間を稼いでいけば、いずれ必ずこっちにチャンスが訪れるはず。

 そんなことを考えながら耐え凌いでいると、ティアの行動に変化が起こる。

 さっきからずっと足元を狙って掃射していた弾幕が止んだのだ。


(——きた!!)


 サブ側マシンガンのリロード。

 このタイミングをずっと待っていた。


 マシンガンの強みの一つは、その装弾数の多さにある。

 ガトリング程では無いにせよ、弾幕による制圧力はかなりの脅威だ。

 一ラウンド目で俺が一方的にボコられたのも、デュアルマシンガンの弾数の暴力に抗えなかったのが一番の原因だと言っていい。

 しかもティアの場合、一発一発の精度が高いことも相俟って、向こうの都合の良いように動きを誘導されたことも敗北に直結していた。


 だが逆に言うと、弾数の暴力を凌ぎ切れさえすれば、一転して俺が有利になる。

 マシンガンはアサルトライフルやサブマシンガンと比べてリロードに時間が掛かる上に、もう片方のマシンガンだけでは、俺のマジックシールドを発動させた大盾を割ることは出来ないからだ。


 一応、これがブラフで実はまだ弾が残ってました、という可能性にも警戒しつつ、俺は猛ダッシュでティアとの距離を詰める。


 ティアの表情に焦りがある……ってことは、ガチで弾が尽きたと見て良さそうだ。

 けど、リロードが間に合わないと判断するや否や、ティアは後方に下がりつつ、即座にマシンガンを破棄してバリアを展開した。


「チッ、やっぱお前もバリアを装備してたか……!」


 咄嗟の判断力は流石だが、バリア一つじゃ俺の攻撃は防げねえよ。


 まだティアとの距離は十メートル以上離れているが問題ない。

 ここでメインのショットガンを別の武器に切り替える。


 出来ることならコイツは第三ラウンドにとっておきたかったけど、ここで勝ちを拾えなきゃ何の意味もねえ。

 ——それにいくらクソエイムの俺でも、コイツなら関係なく当てれるからな。


「あっ、ヤバ——!!」


 ティアが切り替えた俺の武器に気づくも、


「もう遅えよ」


 引き金を引いた瞬間、銃口から大量の炎が噴射し、ティアに襲い掛かった。


 クソエイム対策その二——火炎放射器による範囲攻撃。


 火炎放射器は他のガンナー武器と比べて瞬間火力は低く、リーチもかなり短いが、長いスリップダメージと一度に複数の敵にまとめて攻撃できるのが持ち味だ。

 それから火炎放射器の何より優秀な点は、バリアでは完全にカバーしきれない攻撃範囲の広さにある。

 ゼネくらい機動力があれば攻撃範囲から抜け出ることが出来たんだろうが、俺とティアのSPDが同程度なせいでそれも困難な状態にあった。


 ティアは上手く立ち位置を調整しながら炎による被ダメージを最小限に抑えようとしているものの、それでもみるみるHPは削れていく。

 ぶっちゃけ安物武器だから威力は大したことないのだが、紙耐久故に本来ならカスダメに収まる攻撃が致命傷になっていた。


「くっ……!」


「さっきのラウンド奪取で油断したな!」


 メイン側にもバリアをセットしていれば、フルガードで火炎放射は防げるとは思うが、そうなればサブ武器をショットガンに切り替えて更に攻撃を畳み掛ければ良い。

 そして、このまま炎をぶっぱし続けることでティアのHPを削り切り、今度は俺がラウンドを奪取してみせた。




————————————

主人公の命中率のウザさを例えるなら、ツツミに受け出したチョッキHヌメルがフリドラで凍らされる程度です。場合によってはそのまま敗北に直結しかねないので、ティアもゼネラルも主人公がクソエイムだから言ってガンガン攻めれないようです。

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