手札の駆け引き

「うわーん、ストレート取れなかったー!!」


「っしゃあ! このまま第三ラウンドも貰うぜ!」


 開始地点に戻され、カウントダウンが始まると同時にもう一度ショットガンと大盾を呼び出して構える。


 とりあえず一本奪い返すことには成功したけど、本当の勝負はここからだろうな。


 ——何せティアはまだ本来の得意戦法を披露していないのだから。


 証拠にさっきまではメイン、サブ両方マシンガンにしていたティアだったが、今度はメイン側だけにマシンガンを形成していた。


「やっぱそう来るよな……!」


 ティアの本領はトラップを使った待ちの戦術にある。

 予め罠を仕掛けておいて、そこにマシンガンを使って相手を上手く誘導する——分かっていても嵌ってしまう可能性があるのが厄介なところだ。


 今までアイツが使ってきたトラップは、地雷と落とし穴の二つ。

 だけど俺が新規にアビリティをいくつか習得したように、向こうも新たな罠を使えるようになっていると考えるべきだ。

 具体的な内容や数は実際に戦ってみないと分からないけど。


 最初からその戦術を使ってこなかったのは、地形の問題や俺の戦闘スタイルとの相性を鑑みてだろうが、それとは別で手札を温存する意味合いも大きいと思われる。


 最初のやり方で勝てるならそれで良いし、仮に破られたとしてもすぐに別の作戦に切り替える事で、相手に新たな初見の対応を強いるという有利な状況に持ち込むことができる。

 一発勝負ではなく、二本先取というルールだからこその戦略と言えよう。


 そういう意味では、まだ手の内を隠しているティアの方がやや優勢ではあるが……それを破ってこそ勝利のし甲斐があるというもの。


「行くぞ、最後の勝負——勝たせてもらうぞ!」


 勝って兜の緒をなんちゃら、だったか。

 とにかく意識を深く集中させる。

 そして、カウントダウンがゼロになった瞬間——俺は思いっきり地面を蹴った。


 ティアがどう動こうが俺のやる事は変わらねえ。

 例え罠があったとしても、距離詰めてショットガンor火炎放射をぶっ放すだけだ。


 ……つーか、それしかやれることがない!


 対するティアはというと、バトル開始と同時にトラップを仕掛けながら、俺の足元を狙って引き撃ちをする。

 ダメージを与えるというよりは、安易に俺を近づけさせないよう牽制するのと、安全に罠を張れる位置まで距離を取るのが目的だろうな。


 銃撃に関しては大盾でガードしながら突撃すればいいだけだから大した問題じゃないが、このまま真っ直ぐ突っ込めば仕掛けた罠が発動してしまう。

 ここは面倒だが、回り込むようにして距離を詰める必要があるか。


 スピードを落とさぬよう最小限の迂回で罠を回避して接近を試みる。

 だが、罠が設置された地点を通り過ぎようした瞬間——、


「っ!?」


 罠を踏んでもいないにも関わらず、突如として爆発が発生する。

 咄嗟のガードでどうにか被弾は避けたが、防御の為に足を止めた事によってティアを安全圏への移動を許しただけでなく、新たなトラップを仕掛ける猶予も与えてしまった。


「うっわ、今の遠隔爆破かよ!!」


 クッソ、ティアの奴……俺が最短距離で突っ込むって一点読みしてやがったな。

 まんまと隠し球に引っ掛かっちまったじゃねえか……!


 今のやらかしでティアの思い通りの展開になってしまったが、なっちまったものは仕方がない。

 切り替えて次の手を打つまでだ。

 ——見方を変えれば、隠していた手札の一つを切らせたって考えれなくもないし。


 気を取り直して、俺は再度ティアに接近を仕掛ける。

 対するティアは俺を近づけまいとメイン側のマシンガンで弾幕を張りながら、空いたもう片方の手で着々と新たな罠を設置していく。


 仕掛けられた罠の位置なら目視でも確認できるが、それが何の罠なのかまでは分からない以上、無理に強行突破は出来ない。

 もし踏み抜いた罠が落とし穴とか行動封じ系だった場合、その瞬間に蜂の巣にされて詰みだ。

 かと言って慎重に攻めるのも却って悪手になる恐れがある。

 時間を経てば経つほど新たな罠を仕掛けられてしまい、段々と向こうが有利になっていく。


「……チッ!」


 ——出来れば短期決戦に持ち込みてえけど、引き撃ちに徹したアイツを捕まえんのはクソほど骨が折れるぞ……!!


 だけどこのままティアを捉えられずにいると、どんどん罠が増えて俺の行動範囲が狭まり追い詰められていく一方だ。

 やはり手遅れになる前にどこかでリスクを背負ってでもゴリ押しで罠を突破する必要はある。


 となると重要になるのは……勝負所の見極め、か。


 一応、蜘蛛の糸のような朧げな勝ち筋は頭の中に浮かんである。

 だがそいつを通すには、ある択読みのギャンブルを成功させなきゃならない。


 ——敢えて設置された罠を起動させる、というロシアンルーレットに。


 チャンスは一度きり、どの罠が起動するかで勝敗が決まる。

 失敗すれば呆気なく自滅……もし一命を取り留めたとしても、狙いが読まれて同じ手は通用しなくなる。

 けど、成功すれば一気に形勢が逆転——そのまま撃破も狙える一手だ。


 さて、一か八か……今度は俺がメタ読みする番だ。




————————————

アビリティ『リモートニトロ』

習得可能クラス:トラッパー

任意のタイミングで起動できる爆弾を設置するトラップ系アビリティ。

通常のトラップと異なり、敵性反応が通過しても自動で発動することはないが、使用者の起動以外では破壊されない特徴を持つ。その為、複数の敵の中からピンポイントで対象を選んで爆破することも可能。

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