店を出てから発覚する事実
「あ、アラヤじゃん。ヤッホー」
遭遇したティアに声をかけられたのは、大通りに出てすぐのことだった。
隣にはゼネの姿もあった。
「よ、ゼネも一緒か」
「さっき武器屋でバッタリ遭遇してな。今は別の店に向かっているところだ。そういうアラヤは何をしていたんだ?」
「俺も武器を新調してたとこ。ついでにもう一つメイン側にセットする武器探しも兼ねてな」
「あー、そういえばこのゲームの武器ってメインとサブにそれぞれ二つずつ装備できたんだっけ。便利だよね〜、ソマガの時はわざわざ毎回メニュー操作しなきゃだったから」
「大半のMMORPGはそうだろ。どっちかっつーと、これに関してはサガノウンが特殊なだけだと思うぞ」
何せプレイヤーの思考を読み取って、システム操作無しで武器の出し入れやら切り替えが出来るんだから。
他のゲームだったらまず見る事のない機能だぞ。
……流石に何種類も異なる武器を使い分けるってなると話は変わるけど。
「ところで二人は何の武器買ったんだ?」
「わたしは杖で、ゼネくんは儀礼剣だよ」
「となると……魔法系の武器屋か。じゃあ、ティアもソーサラーに転向すんのか?」
「いや、もう少し後かな。まだちょっとだけマシンガンの熟練度が足りてないっぽいから。それが完了したら本格的にソーサラーにするつもりだよ」
熟練度……そういや、そんな仕様があったな。
基本的にプレイヤーがどの武器を装備できるかは、ロールの組み合わせによって決定される。
ポジションをガンナーにしている俺が大盾を装備できているのは、クラスをタンクにしているおかげだし、逆に本来近接アタッカーであるはずのゼネが通常の剣を装備できていないのは、ロールの弊害によるものだ。
とはいえ、適正外の武器を装備する方法というのは存在する。
それが武器種の熟練度を上げることだ。
熟練度は武器を使い込むことで上がっていき、より強力なアビリティを習得できるようになる……っていうのがメインの効果だが、副次効果として一定の値にまで達すれば適正外のロールにしたとしても装備が可能になるらしい。
ソマガ時代は魔法職をメインにしていたティアがポジションをガンナーにして始めたのは、その仕様が関係してると思われるし、ゼネが本来の戦闘スタイルとは真逆のロールにしているのもそれが理由だろう。
——いや、ゼネの戦闘スタイル的には全くの逆ってわけでもないか。
などとつらつら考えていると、今度はティアから訊ねられる。
「それでアラヤは何を買ったの?」
「俺か? とりあえずサブ側にセットする用のショットガンと、メイン側にセットする武器を何種類か……ってところだな。実際に使って何が良いか確かめたいから、後で試運転付き合ってもらって良いか?」
「もち、オッケーだよ。あ、でも、その前にゼネくんの剣探しが先だけど、アラヤも一緒に来る?」
「ああ、丁度俺も新しい近接武器も欲しいなって思ってたところだし」
仮に目ぼしいのが無かったとしても、その分の予算で大盾を買い換えるつもりだ。
「よし、それじゃあ三人で行こっか! それじゃあ、お店に向かって……ゴー!」
◇ ◇ ◇
それは、アラヤが『クラッシュ&バッシュ』——もとい『G/hP』を退店して少し後のことだ。
狙撃銃”レイヴンズアイ”を購入後、同じく店を後にしたヤミは、路地裏を歩きながら先ほど起こった不可解な出来事について頭を悩ませていた。
「なんで……」
——表示していた価格よりも安い金額で武器を買えたの。
カタログに表示されていた金額は13200ガル。
しかし、実際に購入して支払ったのは三割減の9240ガルだった。
ヤミ自身が特段何かをした覚えはない。
強いて言うのなら、予算と睨めっこしていたくらいだ。
なのにも関わらず、理由もなく値引きされるなんて有り得るのだろうか。
勿論、店番をしていた女性NPCに説明を求めはした。
だが、返ってきた答えは「特別セールだよ」の一言だけだった。
最初はバグや不具合を疑ったが、このゲームに限ってはその線は薄いだろう。
聞いた限りでは滅多にそういった類の事象は発生せず、見つかったとしても余程大きなものでなければ即時修正が入るという。
となると、NPCに搭載されたAIの性能を疑うことになるが、そっちも可能性としては限りなく低いと思われる。
結局、それらしき答えを見つけられずにいると、
「……ん」
システムコールが鳴ると共にポップアップが目の前に出現する。
画面下部にあるコールマークをスライドすれば、呼び出し主である姉の声が聞こえてくる。
『もしもーし。ヤミちゃん、武器は無事に買えたー?』
「うん、買えたよ。今そっちに向かってる途中」
『なら良かった』
通話越しに安堵のため息が聞こえてくる。
いつまで経っても過保護だなと思いつつも、
「……あ、そうだ。お姉ちゃん」
『ん、どうかした?』
さっき武器屋で起こった出来事を説明することにした。
もしかしたら先にこのゲームを熱心にプレイしている姉であれば、答えが分かるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いていたのだが、
『あははっ、何それ! 面白いことがあるもんだね!』
「……お姉ちゃんでも分からないんだ」
『まあねー。というか、このゲーム分からないことだらけだよ。ホント、誇張抜きでブラックボックスの塊だから。……まあでも、必ずどっかに原因はあるはず。ヤミと店のNPCが起因してないのなら他にあると考えるべきかな。ヤミ、周りに誰かプレイヤーとかいなかった?』
「プレイヤー……あ」
言われてみれば、先に一人のプレイヤーが店に入っていた。
自分を誰かと勘違いしていた男のプレイヤーが。
プレイヤーネームは確か……”アラヤ”だったか。
『にゃはは、ビンゴみたいだね。ちなみにその人の名前とか特徴とか覚えてる?』
「うん、覚えてるよ」
プレイヤーネームと見た目の特徴を簡潔に伝えれば、
『——な・る・ほ・ど。でかした、よくぞでかしてくれた、妹よ。お礼に今日の夕飯当番代わってあげようじゃないか』
「え、うん……ありがとう?」
何故か上機嫌になっていた。
理由が分からず首を傾げていると、
『あっ、そうだ。合流したら店の名前と場所教えて頂戴。じゃあ、またあとでね』
訳も分からないまま通話が終了した。
そして、ヤミは”ミャー”と通話相手が表示されたウィンドウを呆然と見つめるのだった。
————————————
Q.なんで店名が二つあるんですか?
A.自治組織の捜査が入らないようにする対策です。(※先に店名出していたのを忘れて、後で違う店名を出してしまったガバです)
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