今度また離れてもいいように

『——敵性反応の大幅な減少を確認。規定値を下回った為、これにて防衛任務は終了となります。傭兵部隊は速やかに基地へ帰還してください。お疲れ様でした」


 アナウンスが流れたのは、首だけ狼を撃破してからすぐのことだった。


「お、どうやら終わったみたいだな」


「ホントだ。いつの間にか敵さんが殆どいなくなってるね。あんなに沢山押し寄せてたのに」


「なんか帰ってこい言ってるけど、素直に従っていいもんなの? かなり数が減ったとはいえ、まだちょいちょいは残ってるみたいだけど」


「そこに関しては問題ない。残党はNPCの部隊が処理する流れになっている。逆にこのまま帰還しないでいると、命令拒否と受け取られて面倒な事になるぞ」


 あ、そういやゼネは防衛任務二度目か。

 思い返してみれば、俺があちこち回っている間に二回目の防衛任務に向かった〜的な事を軍曹殿が言ってた気がする。


「へえ、なら素直に帰らせてもらうか」


 今の戦いで左腕吹っ飛んじまったし。

 流石にこのまま放置するのは色々と不便だし面倒だからどうにかしておきたい。


「ところで……欠損した部位ってどうやったら治るんだ? HP回復したら元通りになるわけじゃないだろ」


「ん〜、とりあえず一回デスしてリスポーンしたら元に戻るんじゃないかな」


「おい、ナチュラルに死ぬ方向に持ってこうとすんな」


 確かにそれが一番手っ取り早そうではあるけど。

 死に戻りは奥の手だろうが。


「……要塞の中に医療室がある。そこに行けば部位欠損を含めた回復が可能だ」


「マジ? んじゃ、医療室とやらに行ってみるか」


「わたしも一緒に行くよ。医療室がどんな所か気になるし。と、言うわけだから……ゼネくん、案内よろしく〜!」


「俺が案内するまでもないと思うが。とはいえ、マップ頼りにするよりはそうした方が早いか」


 言って、ゼネは要塞方面へと踵を返す。


「付いてこい。医療室まで案内する」


 俺とティアはすぐにその後を追い、続々と未開領域に出てくるNPC達と入れ違う形で要塞に戻る事にした。






   ◇     ◇     ◇






————————————


ミッション『セプス=アーテル防衛任務』をクリアしました。


以下の報酬を獲得しました。

-通常報酬-

・10000ガル

-特別撃破報酬-

・50000ガル


戦功を讃え、Dランク昇格への挑戦権を獲得しました。


————————————




 あれから腕の治療やら鬼軍曹殿(※実際にはもっとお偉い立場の人物らしい)への帰還報告などを済ませたりして、諸々が落ち着いた頃には既に日付が回っていた。


 基地本部を出たところで、ティアは「ん〜」と背伸びしてからメニューを開く。

 現在時刻を確認して、表示された数字に目を見開く。


「わーお、もうこんな時間。いやー、新しいゲームをやると時間が流れるのは早いものですな〜」


「マジそれな。こんなぶっ通しでゲームしたのは久しぶりだわ」


 こんくらいガチめにやり込んだのは、それこそソマガ最終日以来だ。

 あれからサガノウンを始めるまでの間、腕が鈍らない程度に他ゲーを触ったりはしたけど、どれだけ長くても二時間経たないくらいで切り上げていた。


 あと高校生になって新しい生活にバタバタしてたってのもあったけど。


「明日から……っていうかもう今日か。連休だからこのままやりたいところだけど、流石にちょっと疲れたし、そろそろ落ちよっかな」


「そうか。なら俺も落ちるとしよう。時間的にも丁度いいしな」


 ティアが言うと、ゼネも同調する。

 まだログアウトするには早いんじゃねえの……って言いたいところだけど、俺も久しぶりにガチバトルして疲れたから、今日のところはここらで切り上げるとするか。


 ——つっても、すぐにログアウトできるわけじゃないんだけど。


「それじゃあ、このまま居住区に向かうか。このゲームって確か宿屋がセーブポイントになってるんだったか」


「正確には自宅とかを含めた宿泊施設だな。一応、今ここでログアウトすることも可能だが、その場合は道端で寝転がっている扱いになるらしい。そうなると高確率でアイテムや所持金が盗られるから、多少手間がかかってでも宿屋に泊まった方が良い」


「うわ、何そのクソ治安仕様。こわー」


 けどまあ、移動はそんなに手間じゃなさそうだしいいか。

 マップを見る限り、宿屋の近くにはランドマークがあるみたいだし。


 そんなわけで居住区へと移動を開始する。

 先にブクマだけでもしとくべきだったな、と今になって思わないわけでもないが、こうやって三人でのんびり歩くのも悪くないか。


 ——こんな風にコイツらと肩を並べて歩く機会は、もう二度と訪れなかったかもしれなかったんだからな。


「……あ」


 途端、俺の中でスッと流れるように一つの決心がついた。


「ん……アラヤ、どしたの? そんな感傷に浸るような顔して」


「いや、なんでもねえ。んなことより……ティア、ゼネ。フレンド登録と連絡先交換しようぜ」


「……それは別に構わないが、随分と唐突だな」


「そうでもないさ。実の所、ソマガがサ終してからずっと考えてたんだ。もしどこかでお前らと会う事があれば、そん時はいつでも連絡を取れるようにしとこうって」


 今回は奇跡的に再会できたが、もう次はないだろう。

 ……まあ、俺らならまた適当に遭遇する可能性は高いだろうけど。


 だとしても、この不確かで曖昧な腐れ縁を確実なものしておきたい。

 いつまた離れることがあったとしても、次も相見えることができるように。


 そんなことを言えば、二人は茫然と俺を見つめてから、


「——うん……うんっ!! そうだね、そうしよう!!」


「そうだな。ここまで腐れ縁が続いたんだ。それも悪くないか」


 ティアは嬉々とした表情を浮かべ、ゼネは納得するように強く頷いた。

 そして、間も無くして空白だったフレンド一覧に”ティア”と”ゼネラル”の文字が埋められる。


「じゃあ……改めてだけど、これからもよろしくな!」


 俺が拳を突き出せば、


「うん、こちらこそ!」


「ああ」


 すぐに二人も拳を突き出し、トンと突き合わせる。


 三年越しにようやく形として繋がった縁——きっとこれはこの先もずっと続いていくのだろう。

 そんな確信に近い予感を俺は内心で抱いていた。




————————————

なんか思った以上に長くなってしまいましたが、これにて第一章終了です。

次章からはゲーム内コンテンツに触れていければと思っています。


それと☆3評価と応援コメントを頂けると更新の励みになるのと、単純にとても嬉しいので、良ければ是非よろしくお願いします……!

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