斯くして人はそれをデスコンと呼ぶ

 直接突きつけた銃口から散弾が炸裂……否、小規模の爆発を引き起こす。

 刹那——首だけ狼は地面に強く叩きつけながら吹っ飛んでいく。

 そのまま勢いが落ちることなく何度も地面を転がり、ティアが仕込んでおいた地雷がある地点へ到達——凄まじい爆裂が首だけ狼を飲み込んだ。


「っしゃあ!! これが左腕の恨みだオラァ!!」


 幾ら頭部だけで浮遊する存在とはいえ、人を丸呑みできるほどのサイズを誇る首だけ狼を吹っ飛ばすほどの性能はショットガンには無い。

 ただし、今ぶっ放したこの一発に限っては、火力特化した他二人にも引けを取らないどころか、ワンチャン上回るほどの絶大な威力を叩き出すことを可能としていた。


 ——リベンジガード。

 敵の攻撃を防御した後、自身の攻撃ダメージを上昇させるアビリティ。

 説明文にはダメージとしか書かれていなかったが、実際には破壊力や衝撃力を含めた総合的な攻撃性能を底上げするものだった。


 しかもその上昇幅はガードした攻撃によって変動し、当然その威力が高ければ高いほど反撃の一撃はより強力なものとなる。

 そして、さっき左腕が消し飛ぶほどの光線を防いだことで、スプレッドショットの威力は最大限にまで引き上げられていた。


 ——とはいえ……まさかこれほど派手な一発になるとはな。


 ティアに地雷の位置を聞いたのも、あわよくばそこまでぶっ飛ばせたらいいな程度の淡い期待を抱いてのことだ。

 だから、ぶっちゃけここまで綺麗にハマるとは思ってなかった。


 ……ま、上振れることに越したことはねえか。

 それよりも——、


「ゼネ! ティア! 今だ、畳み掛けろぉぉぉっ!!!」


「はいさ〜! 集中砲火いっきまーす!!」


「了解——霊聖破導サクム・ヴィルニス!」


 爆炎に包まれた首だけ狼に対して、ティアが容赦無く弾幕を雨霰のように浴びせ、ゼネが両手の生成していた二つの光球を射出する。

 放たれた光球は首だけ狼の目の前で収束、融合を果たすと炸裂を引き起こし、光のエフェクトを伴う強烈な衝撃波がダメ押しの一撃となった。


「ははっ……攻撃を喰らう側としては堪ったもんじゃねえな」


 ぶっ飛ばし、爆破、弾幕、炸裂と衝撃波——回避不能の状態でこれら全てが一瞬の間で流れるように叩き込まれるとかクソゲー以外の何者でもない。

 一方的なコンボを喰らう首だけ狼には、敵ながらちょっとだけ同情してしまう。


 ……まあ、そんな可哀想な状況に陥らせたのは他でもない俺らなんだけど。


 とはいえ、まだ倒しきれてない以上、警戒を緩めるわけにはいかない。


「念の為、俺もこっから攻撃が届くか試してみる……っ!? ——ティア!!」


 ショットガンを構えようとして、俺は咄嗟に叫んだ。

 あれだけの攻撃を喰らったにも関わらず、首だけ狼が半ば強引に身体を動かし、物凄い勢いで地面を這いずりながらティアに接近していたからだ。


 ——おいおい、なんつー執念してんだよ!?


「チッ、一人でも道連れにしようって魂胆か……!!」


 ティアが標的にされたのは、恐らく俺らの中でアイツが一番落としやすいと判断されたからだろう。


 俺みたく防衛の手段を持っているわけでも、ゼネみたいに機動力があるわけでもないからな。

 消去法的に特攻の成功率が高いと見られたのかもしれない。


 一応、ティアも近づけまいとデュアルマシンガンで応戦しているが、決死の覚悟を決めた首だけ狼の動きを止めるには至らない。


 それと表情に焦りがある……ってことは、罠は設置してないっぽいな。

 首だけ狼との戦闘に入ってからはずっと俺とゼネのサポートに入ってもらってたから、新たに罠を設置していられる余裕が無かったか。

 何にせよ、かなりマズい状況には変わりない。


(クソ、最後の最後に一人脱落とか笑えねえっての……!!)


 すぐに俺もティアの元へと駆け寄るも、残念ながら俺の機動力では追いつくのは無理だ。

 まさかここに来て、ほぼほぼSPD無振りなのが響くとはな……!


「ティア!!」


「……あ、やば」


 首だけ狼がティアを間合いに捉え、ティアも自身のデスを悟り、銃撃を止めた。

 次の瞬間だった。






「——全く、世話が焼ける奴だ」






 刹那——首だけ狼の脳天に短剣二刀の斬撃が叩き込まれた。

 背後からの奇襲だった。


 俺と同じく攻撃を察知したゼネがカバーに入ったのだ。


「……っ、ゼネくん!!」


 ついでに既に発動させていた光の弾丸を喰らったことで、首だけ狼の動きが僅かに止まる。

 その間にゼネは、ティアを抱えて首だけ狼から距離を取った。


「ふえ〜、真面目に死ぬかと思った〜。ありがとう、助かったよ!」


「礼はいい。それよりもアラヤ、その死に体に引導を渡せ!」


「あいよ! なら、遠慮なくごっつあんキル貰うぜ!」


 少し遅れて首だけ狼に追いついたところで、俺はショットガンの銃口を直接奴に突きつける。

 これからぶっ放すのは通常の散弾ではあるが、もうこれで十分だろ。


「いい加減……くたばりやがれ!!」


 最後に再び零距離で散弾を炸裂させれば、首だけ狼は咆哮を上げながらその場でのたうち回る。

 それでもどうにか浮かび上がろうとするも途中で力尽き、糸の切れた人形のように地面に倒れれば、莫大なポリゴンとなって霧散していった。


「……終わった、のか」


 一瞬の静寂。


 宙に浮かぶ光の粒子を眺めながら呟く。

 それからゆっくりと近くにいる二人に視線を移せば、


「ああ、俺達の勝ちだ」


「うん! ナイスキル、アラヤ!」


 言って、ティアは笑顔で拳を前に突き出す。


「……まだ戦闘中だぞ」


「まあまあ、近くに敵いないから大丈夫でしょ」


「ま、それもそうか」


 念の為、周りを見渡して敵がいないことを確認してから俺も拳を突き出す。

 それから傍観しているゼネに向かってティアが、


「ほらほら、ゼネくんも!」


「……やらなきゃ駄目か?」


「照れんなよ。あの時は最後までやれずに終わっただろ」


「……確かにな」


 フッと笑みを溢して、ゼネも拳を突き出す。

 そして俺らは、勝利を祝して互いの拳を突き合わせるのだった。




————————————

リベンジガードの補正値は、発動者自身や使用した盾の耐久、防いだ攻撃威力などの要素によって算出されます。なので格上には有効な場面が多い代わりに、格下相手だとあまり効果が活きることはありません。

理論上は、低い耐久で強烈な攻撃を上手く捌けば飛躍的に火力を上げることが出来ますが、補正がかかる量には限度がある上、あまりに耐久が低いとタンクとしての役割が果たせなくなるので、このアビリティの為だけに耐久力を下げるのはお勧めできない……と、攻略サイトには書かれているようです。

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