窮鼠猫の供物となる

少し前ですが、初めてギフトなるものを頂きました……!

この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました……!!

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 ゼネが犬型モンスター三体を同時に撃破した後、程なくしてティアも自身で受け持っていた犬型モンスターを撃破し、残すは黒飼い主ただ一体となる。

 ここまで来れば、後は楽勝だ。


 こういう手合いは取り巻きがいなきゃ、格段に弱くなるのが大半だからな。

 少なくとも、もうコイツ単体で形勢を覆すだけの脅威は無いと見ていいはずだ。


 事実、黒飼い主がダウン状態から復帰した後の戦闘内容はというと、俺が黒飼い主の繰り出す攻撃の悉くを防いで、ゼネが着実に反撃の一撃を与えていく。

 更にはティアが隙を見て追い討ちの援護射撃を浴びせるだけのワンサイドゲームと化していた。


 想像よりも事が簡単に進んでいるように感じるのは、やはりこいつが本領を発揮するのは呼び出した犬型モンスターと連携してこそだからなのだろう。

 とはいえ——、


「アラヤ、油断するなよ」


「わーってるよ。キューソネコカミだろ。ソマガで痛い程経験してるっての」


 これはソマガの頃の経験談だが、一見倒すのが楽そうな奴ほど窮地に追い詰められた際の強さの変貌具合がえげつなく、それによって何度も逆転負けを喫してきた。

 酷かった時なんてリザード種のボスモンスターを倒してたはずなのに、発狂モードに入ったと同時に巨大ドラゴンに覚醒進化されて、逆に俺らがフルボッコにされた時もあったくらいだ。


 初見攻略していた当時は「クソゲーかよ!!!」って俺の方が発狂しかけたものだが、冷静になって思い返してみてもアレは紛う事なくクソ要素だわ。


 ……まあ、それはさておくとして。

 コイツもそのパターンなのかは別……というかそうあって欲しくないが、大化けする可能性も頭の片隅に留めておくべきだろう。


 そして、予想通りと言うべきか。

 その瞬間はすぐに訪れる。


「——っ! ゼネ、来るぞ!!」


 予兆を感じ取り、即座に一時後退する。

 刹那、黒飼い主は全身からとめどない量の黒いオーラを迸らせると、何もない空間に黒い円盤状の門を発生させ、そこから一体のモンスターを新たに召喚した。


「うっわー、なんかヤバそうなの来ちゃったよ……」


 門から出てきたのは、さっき倒した犬型モンスターよりもずっと巨大な首だけの狼の怨霊。

 頭部しかないにも関わらず、人間一人を簡単に丸呑みに出来るほどの巨体を誇っていた。


「なるほど……どうやらあの狼が奥の手のようだな」


「みたいだね〜。さてさて、どう対処しよっか」


「連携を取られるとめんどそうだし、バラした方が良さげなのは確実だな。とりあえず俺があの首だけ狼を抑えるから、その間にゼネとティアは速攻で飼い主を落としてくれ。奥の手を出したってことはかなり弱ってるはず。お前らなら余裕だろ」


 指示を出せば、二人は「了解」と声を揃える。

 しかし——、


「……いや、ちょっと待て」


 ゼネが何かに気が付く。

 視線の先にあったのは、俺らには目もくれず、首だけ狼に身体を向ける黒飼い主の姿だ。


 どこか不穏な行動にぞわりと嫌な予感を覚える。


 ——え、あの……まさか……マジ?


 直後、確信に至ったゼネが光の弾丸を生成しながら大きく叫ぶ。


「っ!? ティア、今すぐあの黒いのを仕留めろ!!」


「え、うん!?」


 光の弾丸を放つと同時、ティアもすぐにマシンガンを連射する。

 だが、いくら弱っているといえど、残念ながら俺らは全員漏れなく低レベル。

 一瞬でHPを削り切れるほどの火力は持ち合わせていない。


「……ちっ!!」


 結局、黒飼い主を撃破するには至らず、奴に行動の自由を許してしまう。

 黒飼い主は全身から放出していた黒いオーラを更に発散させ、首だけ狼へ身を差し出すように大きく腕を広げる。

 次の瞬間、首だけ狼が黒飼い主の元へ寄ると——何の躊躇いもなく上半身を丸々食いちぎってみせた。


「おいおい、マジかよ……」


 黒飼い主の残った手足の一部がポリゴンと霧散する。

 代わりに主人を喰らった首だけ狼からは辺り一帯に轟く遠吠えと共に、強風を伴う莫大な黒いオーラを迸らせた。


「ありゃりゃ。味方を利用してパワーアップはあるあるだけどさー、まさか自分を生贄にするとはねー」


「ソマガにもこんなことする奴いたよな。ほらあの、なんだっけ——」


「教祖イルドラか。確かにあいつも自身の身を捧げることで召喚した悪魔を魔神クラスの強さに仕立て上げてたな。……それより今は、あの狼をどう対処するかに集中しろ。間違いなく今まで戦ってきた中であいつが一番手強いぞ」


 確かにゼネの言う通りだ。


 パッと見た感じの印象だが、首だけ狼の強さは周囲にいるアンノウンよりも少なくとも頭三つは飛び抜けている。

 四腕狒々程ではないが、そもそも今の俺らが挑んでいい相手じゃないんだろう。


 だけど——、


「なんだ、ゼネ。もしかしてビビってんの?」


「まさか、そんなわけがあるか。そう言うお前はどうなんだ?」


「はっ、バカ言うなし。寧ろテンション爆上がりだっつーの!」


 低レベル+初見ボス攻略とか激るに決まってんだろ!


「つーことでお前ら、手短に作戦伝えんぞ。俺はあの狼に張り付きながら、奴の攻撃を受け止める。ゼネは隙を見て攻撃、ティアは俺らのサポートを頼む。最初は完全に防御に徹するけど、行動パターンが把握できたら俺も攻撃に参加する」


「承知した。一応、お前が攻撃に転じるまでは引き気味に戦っておく」


「オッケー! なら、とりあえずアラヤの介護を優先にするね!」


「おい、言い方」


 ……まあいいや、作戦内容はちゃんと伝わってそうだし。


 いつでも回復アイテムを取り出せるようにインベントリを開いておく。

 即死の攻撃を喰らうかタブレットポーションが枯渇しない限り、ずっと耐久してやる構えだ。


「それじゃあ……こっからが正念場だ。気ィ引き締めろよ!!」


 二人に呼びかけつつ、俺は首だけ狼へと単身突撃を仕掛けた。




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要するにこのオーバードは二連戦するタイプのボスですね。

攻略するには、連携を得意とする多数の敵を相手にするのと、突き抜けて強いエース個体を相手にするそれぞれの対応力が求められます。

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