三位一体の下剋上

 背中をぶった斬られた事で黒飼い主の口元が大きく歪む。

 口以外はのっぺらぼうみたいになってるから細かい表情までは窺えないが、それなりに効いていそうなのは伝わってきた。


「おっと、悪い。タイマンじゃなくて二対一だったわ」


 でも、先に増援を出したのはお前の方だからな。

 間違っても卑怯とは言わせねえぞ。


 不意打ちによって体勢を崩しながらも黒飼い主はゼネに狙いを定め、報復に黒い衝撃波を繰り出そうとする。

 だが——、


「おい、テメェの相手は俺だろ」


 それよりも先にプロヴォーク発動、強制的にターゲットを俺に変更させる。

 直後、黒飼い主は急に思い立ったようにぐるりと顔を向け、もう一度俺に対してさっきの黒い衝撃波を放ってきた。


「っ!」


 今度はパワーガードとリベンジガードを併用した防御で衝撃波を受け止める。

 ついでに若干ではあるが身体に伝わる衝撃を受け流してやれば、さっきよりも格段に被ダメ量が減少していた。


 ——上手く防御出来れば更にダメージを減らせるのは、本当にありがてえ仕様だよな……!!


 黒飼い主の攻撃が終わったのと同時、


「アラヤ、ナイスカバーだ」


 ゼネの斬撃がもう一度黒の飼い主に強襲する。

 流石に二度目の攻撃は警戒していたからか、今度はゼネ側に黒モヤシールドを展開するが、


「今度はこっちがお留守だぜ!」


 ゼネに意識を割く事で生じた隙を突いて、再度スプレッドショットを放つ。

 しかし、即座に俺の攻撃に反応した黒飼い主は、こっちにも新たな黒モヤシールドを展開してきた。


「うげっ!?」


 ——チッ、シールド二つ同時に出せんのかよ!


 内心、つい舌打ちを鳴らしてしまう。


 ただ、想定外の行動ではあったものの、不幸中の幸いと言うべきか、さっきよりも見るからに黒モヤシールドの強度が落ちている。

 どうやら一度に展開出来るシールドの出力には限りがあるようだ。


 そんで威力のあるゼネの攻撃を防ぐことを優先して、逆に威力の低い俺の攻撃は最低限の強度で凌ごうって魂胆なんだろうが……残念だが、その見通しは甘いと言わざるを得ない。


 つい口角が釣り上がる。

 炸裂した散弾はシールドを打ち砕き、黒飼い主の胴体を撃ち抜いた。


「はっはっは、馬鹿が! さっきよりも威力が上がってんだよ!」


 そのやけに高性能がAIが逆に仇になったな!!


 リベンジガードで威力に補正が入った散弾をもろに喰らったのと武器の特殊効果が相俟って、黒飼い主が完全に仰け反る。


 生まれた絶好の攻撃チャンス——それをゼネが見逃すはずもない。

 ゼネはシールドを上手く避け、先に足元……アキレス腱辺りを斬り裂いて黒飼い主の膝を地面に突かせると、


「——ダウン!!」


 間髪入れずにガラ空きの四肢を全体的に斬り刻み、最後にうなじ付近に斬撃を叩き込んでみせた。


「うっわ、ゼネ君えげつなあ……」


「お前も大概だろ。それより——畳み掛けるぞ」


「あいよ!」


 黒飼い主の次の動き出しに警戒しながらも次弾を装填し、追撃の散弾をほぼほぼ零距離からお見舞いする。


 これほど一方的に攻撃できる機会はそう多くはないはず。

 今の内に出来るだけHPを削っておきたいところだ。


(にしても……ゼネの攻撃、ただの斬撃ってわけじゃなさそうだな)


 ゼネが振るっている二振りの短剣を一瞥しながらそう思う。

 攻撃する際、刀身に発光エフェクトが纏っているからだ。

 これがアビリティによるものか、武器固有の能力によるものかまでは判断がつかないが、どちらにせよMPを消費する事で火力の底上げを図っているのは間違いなさそうだ。


 しかも、見たところゼネの持っている短剣には刃がついていない。

 鈍らというよりは、そもそも戦闘を想定して作られていないと思われる。

 恐らく本来の用途は、魔法の性能を高める触媒といったところか。


 だったらなんでそんな武器をわざわざ装備しているかって疑問が浮かぶが、大方単純にソーサラーで装備できる剣がこれだけだったとかそこらだろう。

 じゃなきゃ普通に切れる剣を装備するはずだ。


 それから何度か攻撃を叩き込んだところで、


「ゼネ! そろそろ周りも警戒しろよ!」


「ああ、分かってる」


 攻撃の手は緩めることなく続行しつつも、念の為、周囲に視線を向けた瞬間だった。

 俺らに袋叩きにされている主人を救おうと、犬型モンスターが四方から一斉に俺らに襲い掛かって来た。


(——やっぱ、そう来るよな!)


「ティア!!」


「はいはーい、まっかせてー!」


 すぐにティアがカバーに入る。

 俺らの周回軌道上をなぞるように走りながらマシンガンを掃射、犬型モンスター共を一箇所に誘導しつつ、動きを止めにかかる。


 しかし、いくらティアと言えど流石に全方位のカバーは無理があるというもの。

 それどころか、一体が囮になってティアの攻撃を惹きつけている間に他三体は射線が通らない位置へと回り込み、安全圏から俺とゼネを排除しようと肉薄して来ていた。


「——っ」


 ゼネが手元に光の弾丸を生成する。

 だがそれは、犬型モンスター共に応戦する為ではない。

 ダメ押し兼スイープ用だ。


 ——お前ら、ティアアイツを翻弄できてると思ってるだろ。


「逆だぞ」


 お前らが掌の上で転がされてんだよ。

 ——最初からな。


 犬型モンスター三体が俺らの少し手前まで到達した途端、それぞれの足元が光ると同時に強烈な爆発が奴らを飲み込んだ。

 ティアが予め仕掛けておいた地雷にまんまと踏み抜いたのだ。


「っし、ナイス!!」


「にひひ、どうだー!! それからゼネくん、後処理任せた!!」


「了解」


 爆発に巻き込まれた犬型モンスター共が後方へ吹っ飛ばされていく。

 身動きが取れなくなったところを狙い、ゼネが光の弾丸を三分割にし、それぞれに向けて射出する。

 そして、心臓辺りを光の弾丸に撃ち抜かれたことがトドメとなり、犬型モンスター三体はそのまま地面に落ちることなくポリゴンへと散っていった。




————————————

ゼネラルの剣が光っているのは、アビリティによるものです。

これにより本来は物理攻撃力が木の棒並みしかない儀礼剣が通常の剣と同じくらいの威力に底上げされます。

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