予期せぬ再会〜Case.G〜

 ——そうか、俺より先に精鋭部隊に入ってたのはやっぱお前だったか!!


 もしかしたら、とは頭の片隅では思っていた。

 そして、それが現実であったことに、熱狂にも似た歓喜が胸の内から際限なく湧き上がっていた。


 そんな感じにテンションが爆上がりする中、


「おーい、ゼーネーくーん!! わたしらも入ーれーてー!!」


「おい、一人で遊んでねえで俺らも混ぜろよ——ゼネ!!」


 俺らの呼びかけに対して、”ゼネラル”とプレイヤーネームが表示されたソイツは、こっちを振り向くなり露骨に表情を歪めてみせた。


「……げ」


「よお、久しぶりだからってそんな嬉しそうな顔すんなって!」


「そうそう。全く、ゼネくんは照れ屋さんだな〜」


「どこをどう見たら俺が喜んでいるように見えるんだ……」


 隠す素振りもなくため息を吐き、眉を顰めるも、次の瞬間には表情が元に戻っている。

 それから、視線を黒い人型アンノウンに向け、


「……まあいい。お前ら、手を貸せ。三人であの黒いの片付けるぞ」


「ああ、元からそのつもりだ!」


「了解! まずは情報整理からだね!」


 すぐに戦闘態勢に入る。


 こうして対峙すると、黒い人型アンノウンの異質さがひしひしと伝わってくる。

 多分、強さとしてはここらにいる普通のアンノウンよりも数段は上だ。


 ——コイツは、オーバードの可能性が高そうだな。


「ゼネ、ロールとざっくりでいいからパラ配分教えてくれ。俺はレンジがクロス、ポジションはガンナー、クラスはタンク。パラ配分はソマガの時と大体一緒な」


「わたしは順にミドル、ガンナー、トラッパーね。パラ配分はアラヤの耐久をMPとTECに回した感じだよ」


「……なるほど。俺は……ロング、ソーサラー、ストライカーだ。パラ配分はアラヤと同じだ。ソマガの頃を思い出してくれ」


「オーケー、把握……ん、んんっ!?」


 え、何そのチグハグなビルド。

 ロールとパラメーター、やってること真逆じゃん。


 ソマガ時代のゼネのパラ配分を大まかに言えば、HPや防御力といった耐久を完全に捨て、攻撃と機動力に特化したピーキーな近接攻撃型だ。

 あの頃と同じであるならMPにも多めに数値は割り振ってるんだろうが、それでもソーサラー……魔法職をやるには少し物足りなさは否めない。


 それに加えて装備している武器が短剣二刀流。

 うん、ちょっと真面目に意味が分からん。


「ちなみに聞くけど、ゼネお前……前衛、後衛どっち?」


「勿論、前衛だ。何か疑問でも?」


「いや普通に疑問しかねえよ。……けどまあ、分かった」


 コイツは何の考えもなしにネタビルドをするようなタイプじゃない。

 何かしらの思惑があるはずだ。

 つっても、現状というより今後に向けてなんだろうけど。


「とりあえず俺がアイツの攻撃を惹きつけて時間を稼ぐから、ティアとゼネはその隙を突いて——」


 言いかけたところで、黒い人型アンノウンが腕を振り払うような動作を取る。

 すると、何もないところから黒いモヤモヤみたいなので形作られた犬型——というよりは見た目は狼に近いか——のモンスターが現れた。


 出現した犬型モンスターの数は四体。

 強さは甘く見積もってもブラッドラビット程度といったところか。


「おいおい……仲間呼びは雑魚の十八番だろ。なんでお前がしれっと使ってんだよ」


「残念だが、どうやらそういうタイプのボスのようだな。となれば……ティア。犬は俺とお前……どっちが片付ける?」


「ん〜、ゼネくん任せた! ……って、言いたいところだけど、ワンちゃん達はわたしが受け持つよ。罠も張っておきたいし。ゼネくんはアラヤに付いてあげて」


「承知した。けど一応、俺もそっちに手を回せる時は殲滅に加わる。まずは頭数を減らすことを念頭に動いてくれ」


「りょっち!」


 応えつつ、ティアはマシンガンを一つに戻す。

 罠を設置するには片手を空けなきゃならないのと単純に誤射対策だそうだ。


「よし、大体の方針は固まったな。それじゃあ……久しぶりの共闘と洒落込もうぜ! お前ら足引っ張んなよ!」


「ふん、誰に言っている。そう言うアラヤこそ足を引っ張るんじゃないぞ」


「よーし、頑張ろー! おー!」


 そして、俺とゼネが地面を強く蹴ると同時、黒い人型アンノウンが一斉に犬を動かし始める。


 ——交戦開始だ。


「雑魚の動きは俺が止める。アラヤ、お前は飼い主の元に突っ込め」


「あいよ!」


 主人を守ろうと俺の前に立ち塞がる犬型モンスターを、


「——光芒弾ルクス・ブレト


 ゼネの手元に生成され、四分割になって放たれた光の弾丸が撃ち抜く。

 直後、畳み掛けるようにしてティアのマシンガンから掃射された弾幕が犬型モンスターの動きを更に鈍らせる。


 二人のサポートで生まれた一瞬の隙。

 俺はシールドバッシュと散弾で犬型モンスターを蹴散らしながら、黒い人型アンノウン——飼い主の懐に潜り込む。


「さあ、俺とお前でタイマンだ。楽しい殴り合いにしようぜ」


 まずは小手調べ——ショットガンを構え、通常の散弾をぶっ放す。

 だが、飼い主は黒いモヤモヤで出来た渦巻き状のシールドを展開して散弾を防ぐと、俺に手のひらを向け、そこから黒い衝撃波のようなものを生み出した。


「——っ!?」


 咄嗟に大盾で飼い主の攻撃を防ぐも、流石はオーバード(?)というべきか——たったの一発でHPがそれなりに削られてしまう。

 けど、少し前に戦った四腕狒々アイツほどじゃない。

 ぶっちゃけアレ並みの強さだったら、即撤退を選んでいたが……この程度であればまだ俺らにも勝ち目はありそうだ。


「つっても、薄い勝ち筋だろうけど……な!」


 クイックリロード。

 即座に次弾を装填し、スプレッドショットを放つ。


 しかし、さっきと同様、展開した黒モヤシールドによって防がれるが、


「おい、いいのかよ、そんなことして。——後ろ、ガラ空きだぜ」


 飼い主が何に勘付くが、反応した時には既にゼネが背後に回っていた。

 咄嗟に反撃を試みようとするも、それよりも先にゼネの強烈な斬撃が背中に叩き込まれるのだった。




————————————

ロールは戦闘スタイルを強制するものではないので、ゼネラルのように本来の想定とは異なる運用もやろうと思えば可能です。

とはいえ、強いかというと答えは間違いなく否なので、戦い方に合ったロールに変更するべきですが、長い目で見れば敢えてそうするメリットもあるにはあるので判断が難しいところです。

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