イレギュラーに重なるイレギュラー

「そんなに前に出過ぎるな! 後ろからの攻撃に巻き込まれるぞ!」


「す、すみません!」


「分かった!」


 アンノウンと呼ばれるモンスターが大量に押し寄せてくる中、今日からこのゲームを始めたばかりの新人の前衛二人を大声で諌める。


「ソーサラー陣は魔法の発動準備を終えたらそのまま待機! 次、敵が攻め込んできたタイミングで一斉に放ってくれ!」


「「「了解!」」」


 ソーサラー三人に指示を出しつつ、手にしたアサルトライフルを掃射し、敵の動きに牽制をかける。


 メインの火力はソーサラーによる攻撃魔法だ。

 広範囲、高火力の攻撃で敵を蹴散らし、発動前後に生じる隙は、自身を含めたガンナー陣三人が常に弾幕を張り続けることでカバーする。


 戦況は未だ劣勢ではあるが、流れはこちら側が掴んでいる。

 このままもう暫く耐え凌げば、この敵が大量に押し寄せる特殊ウェーブも落ち着きを見せるはずだ。


 まだまだ安易な予断は許されないものの、即席野良パーティーの統率を執るプレイヤー——剛武太は、戦況が覆りつつあることに内心胸を撫で下ろしていた。


 本来、彼のランクはBなのだが、


・今回はBランク帯の参加者が多かったこと

・Fランク且つこれが初防衛任務のプレイヤーが大半だったこと

・アンノウンが大量に侵攻する特殊ウェーブが発生していたこと


 これら三つの要因が重なった関係で、臨時の指揮官としてFランク部隊に混ざって戦っていた。


 いつもより獲得できる経験値量などは減ってしまうが、一番最悪なのは防衛線を突破されて任務が失敗に終わってしまうことだ。

 そうなるくらいであれば、多少の経験値を犠牲にしてでも戦力の穴になっている箇所を埋めに行った方が良い。


 それに指揮を上手く執ることが出来れば任務達成時の報酬が多めに加算されるおかげで、剛武太としてもそんなに悪い話でもなかった。


 もう既に多少のイレギュラーは発生しているものの、今の所は順調に戦闘が進んでいる。

 この勢いのまま敵を押し切ることが出来れば——そう思った矢先だった。


『剛武太! 大変だ!』


 Bランク部隊で戦闘に参加しているパーティーメンバーから通信が届く。


「どうした、ネオス?」


『こっちにいるスナイパー経由からの情報なんだが、今そっち側にオーバードが一体向かっている! 憐憫のロボズハンドラーだ!』


「……はあ、嘘だろ!?」


 ——憐憫のロボズハンドラー。

 狼の怨霊の群れを操る人型のアンノウンであり、個と群、両方の性質を兼ね備えた難敵だ。


(まずい……これは非常にまずいぞ……!!)


 剛武太に焦燥が募る。


 防衛任務中にオーバードが襲って来ること自体はそう珍しくもない。

 問題なのは、本来の推奨討伐ランクより下の部隊に向かって襲撃を仕掛けようとしていることだ。


(誘導装置を無視する個体か——!!)


 ロボズハンドラーの討伐推奨ランクはC。

 Bランクの剛武太自身は別として、初心者——しかも今日から始めたばかり——の寄せ集めであるFランク部隊では到底敵うような相手ではない。


(隣のDランク帯の連中に声を掛けるか……いや、それは駄目だ。Dランク部隊合同で戦えば勝ち目はあるかもしれないけど、それじゃあ他のアンノウンを捌けなくなって本末転倒だ)


 一体の敵を倒す為だけに前線が崩壊してしまえば元も子もない。


「ネオス、そっちの部隊……それかAかCランク部隊から何人か戦力を寄越して貰えることは可能か!?」


『すまん、無理だ! どこもアンノウンの相手で手一杯だ! そっちに戦力を回せばこっちが火力戦で押し負ける! 特殊ウェーブさえ乗り切れさえすれば、今すぐにでも駆け付けるんだが……』


「くっ、それまでこちら側の戦力だけでやり過ごせということか……!!」


 特殊ウェーブの発生、オーバードの襲撃。

 この二つを同時に対処しなきゃならないだけでも相当厄介だというのに加えて、Fランク帯のプレイヤーが一人、戦闘が始まって早々、独断で敵陣に飛び込んでしまっている。


 腕にかなりの自信がある事は窺えるが、単騎での突撃は些か無謀が過ぎるというもの。

 その事に気づいた剛武太が制止を試みるも、件のプレイヤーは聞く耳を持たずアンノウンの大群の中へと消えてしまっていた。


(戦闘記録を確認する限り、まだ倒されてはいないみたいだが……どうしてあれで生き残れているんだ?)


 甚だ疑問に思う。

 それくらい剛武太から見ても彼のビルドは異様だった。


 ロング、ソーサラー、ストライカーと如何にも後衛魔法職のようなロールをしているのにも関わらず、パラメータ配分はATKとSPDに多く割り振られ、使用武器は短剣状の儀礼剣二刀流と高速近接アタッカーのそれだ。

 あまりにもロールとパラメーター配分、装備の構成が噛み合っていない。


(それでもまだ生存しているという事は……なるほど、別ゲーからの参入者か)


 それなら合点が行く。

 しかし、それでも件のプレイヤーが落とされるのも時間の問題だろう。


 位置的にオーバードと接敵する可能性が高いからだ。

 いくら経験者といえど、低レベル単騎で格上のオーバード撃破は無理がある。


(彼には悪いが、せめて増援が間に合う程度まで時間を稼いでくれることを祈るしか——)


 なんて思っていると、


「……ねえ、ちょっと! あれ!」


 ガンナーの一人がふと何かに気づいて大きく叫ぶ。

 彼女が視線を向けている先を目で追えば、そこには盾とショットガンを装備した男プレイヤーとマシンガンを二丁持ちした女プレイヤーの二人組が、密集陣形を組みながら勢いよく敵陣の中に突っ込んでいた。

 オーバード対策に少しでも戦力が欲しい現状としては、願ってもない増援だった。


 そう——あの二人がFランクプレイヤーでなければ。


「いや、増援が来ることを願いはしたけど……ああ、もう。せめて犬死にだけはしないでくれよ……!」


 剛武太は、苦虫を潰したような顔で祈るように呟くのだった。




————————————

防衛任務中は、参加プレイヤーのステータスや装備構成を確認できます。

それとランクはプレイヤーネームの色で判別可能です。

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