初めての防衛任務

 転送装置で要塞に場所を移し、建物を出て未開領域との境界線の前まで移動すれば、近くにいた防衛戦線の隊員らしきNPCが俺らの存在に気が付き、切羽詰まった様子でこちらに駆け寄ってくる。


「なあ、そこの傭兵二人! あんた達が総長が派遣したという精鋭部隊の人間で合っているか!?」


「ふっふっふ……いかにも! 不届きをやっつけに来たよ!」


「そうか。なら……早速で悪いが手を貸してくれ! ちょっと前から大量のアンノウンが押し寄せて来ているんだ。今は少しでも人手が欲しい!」


「お、なんか来て早々面白そうなことになってんな」


 前方に視界をやれば、かなりの数のプレイヤーと何人かのNPCがあちこちでアンノウンと戦闘を繰り広げていた。


 見た感じプレイヤー側が優勢ではあるが、頭数では敵が大きく上回っている。

 大体三倍……いや、もっと多い——五倍くらいか。

 よほどのヘマをしなきゃ大丈夫そうだけど、それでも物量差で押し切られる可能性は拭えない。


 タイミング的に俺らが依頼を受けた事がトリガーになったのか、それともただ偶然タイミングが重なったのか……どちらにせよ、良い稼ぎ時ではありそうだ。


 両手に武器を取り出し、戦闘態勢に入ってから、


「それで、俺らはどこへ向かえばいい?」


「陣形の一番左翼側に向かってくれ! そこがFランク隊員の持ち場になっている。後はあんた達の自由に動いてくれて構わない!」


 NPCがそう言った直後、マップ情報が更新される。

 なるほど……そこに向かえば良いってわけね。


「それと……あんた達と同じ精鋭部隊の傭兵が一人で前線に踊り出てる。戦い振りを見ている限りそれでも問題ないとは思っているが、想定外の事態が発生する可能性もある。出来れば同じ精鋭部隊同士、サポートに入ってくれると助かる」


「了解。んじゃまあ、経験値とお小遣い稼ぎも兼ねて一丁暴れるとしようか」


 ——ついでに、先行してるであろう精鋭部隊のプレイヤーの顔を拝みにもな。


「だね! ではでは……いざ、出陣だー!!」


「っしゃあ!!」


 ティアの掛け声に合わせて未開領域に足を踏み入れ、指定の持ち場に向かい戦場を意気揚々と駆け抜ける。


 陣形は守り重視——扇状に広がるように展開されていて、中央が一番高ランクのプレイヤー、端に行くに連れて低ランク帯プレイヤーが配置されるようになっている。

 それに合わせて迎え撃つアンノウンも変わっているようだった。


 どうやって敵を綺麗に仕分けているのか、その理屈は分からないが、恐らくプレイヤーの実力に合わせたゲーム的配慮だってことはすぐに想像がつく。


 実際に身体を動かして操作するフルダイブの仕様上、プレイヤースキルである程度のレベル差はカバーできるとはいえ、低レベルを補うにも限度があるからな。

 仮にやれたとしても、少し前に四腕狒々を相手にした時みたいに数十秒時間を稼ぐくらいが精一杯だろう。


 だから幾ら精鋭などとご大層な名前が付いていても、Fランクという木っ端の俺たちが主要な戦場から外されるのは当然なわけで、


「——つまり、俺らは高ランク帯のプレイヤー達に付けられた安いおまけってことか」


「ん? アラヤ、どうかした?」


「いや、ただの独り言。それより現地着いたらどう戦う? この混戦具合だと、俺もお前も持ち味発揮できなさそうだぞ」


「……確かに」


 敵をなるべく近寄らせないということに重きを置いているからか、戦闘はストライカー系のガンナーとソーサラーを中心とした中〜長距離での火力戦がメインとなっている。

 アタッカーはその援護をしつつ、射撃と魔法の包囲網を潜り抜けた相手を処理するといった感じで、あまり積極的に前に出て戦っているわけではなさそうだ。


 俺は元々の戦闘スタイル的に、ティアは罠を設置する為に出来るだけ前に出て戦いたいところではあるが、下手に前に出過ぎると後方から流れ弾を喰らう恐れがある。


 だったら敵の侵攻が落ち着くまで俺は前衛組に、ティアは後衛組にそれぞれ一時的に加わって戦うのが無難ではあるが……それだとあんま経験値が得られなさそうなんだよな。


 このゲームの戦闘で得られる経験値は、パーティーを組んでいる組んでいない問わず、参加したプレイヤー全員に対して一律に分配されるようになっている。

 だから野良プレイヤーの陣形に加わるということは、戦闘の安定度を高めるのと引き換えに獲得できる経験値量を減らすことに繋がる。


 出来ることならこの任務でガッツリ経験値を稼ぎたい身としては、なるべく俺とティアだけで敵を片付けたいところだ。


「となると……取るべき手段は一つか」


「ですな〜。それじゃ、アラヤ……防御は任せていい?」


「ああ、バッチ来い。代わりにメイン火力は頼んだぞ」


「もち! 任せなさい!」


 キラキラと目を輝かせながらティアはもう片方の手にもマシンガンを形成する。

 それから敵の数が少ない壁際に視線を向けてから、


「あそこから行こっか」


「あいよ。じゃあ、行くぞ……」


 俺らは互いに顔を合わせてから、ニヤリと笑みを浮かべて声を揃える。


「「——強行突破!!」」


 そして、敵陣の裏から奇襲を仕掛けるべく、ギアを一段階上げて戦場を駆け抜ける事にした。




————————————

敵が都合よくランクに合わせた持ち場に侵攻してくるのは、それぞれの部隊に帯同しているNPCが所持している誘導・忌避装置によるものです。

一定の強さの敵を引き寄せ、それより弱い敵は寄り付かせなくする装置を使うことで、それぞれの部隊の実力に見合った敵と戦えるようになっています。

ですが、装置を持ったNPCが倒されてしまったり、ごく偶に装置の効果を無視するイレギュラーが現れたりすると、戦場は混沌と化します。陣形が守り重視になっているのは、これも理由の一つだったり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る