防衛基地本部とご挨拶
セプス=アーテル中枢区のそのまた中心。
防衛線戦の本部基地はそこでどっしりと存在感を放っていた。
「うっわ、でけえ……」
「うんうん。近くで見ると迫力すごいね〜」
およそ高さ百メートル、幅四百メートル、奥行き百五十メートル程のちょっとだけ台形っぽいシルエットの建造物。
四方をコンクリにも似た特殊な装甲で覆われた外壁は、ビルっていうより超大型シェルターって感じの外観をしている。
実際、アンノウンが防塞を突破してきて街まで侵攻してきた時の第一避難先になっている——なんて事がTipsに書かれていたはずだ。
確かにこんだけ頑丈で巨大な建物なら避難先になり得るだろうな。
ちなみに第一があるということは当然、第二、第三の避難先も存在し、探索機関の本部とハンター協会の本部がそれぞれ避難先になっているらしい。
視線を周囲に向けてみれば、基地本部ほどではないがビルに似たシルエットの巨大な建造物が東西に聳えているのが確認できた。
「ここにゼネくんいるかなー?」
「どうだろうな。でも、あいつがいるとすれば、ここが一番可能性が高いのはまず間違いないだろ」
ゼネは俺やティアと違って、チュートリアルとかオリエンテーション的なイベントは最後まで律儀に遂行するタイプだ。
鬼軍曹が装備を整えてから本部に来いって指令をアイツにも言い渡してたのなら、それを最優先に行動しているはずだ。
……まあ、アイツが今日からこのゲームを始めてたらって前提の話だけど。
「とりあえず中に入ろうぜ」
「そだねー。さてさて、中はどんな感じになっているのか拝見と行こうかね〜」
入り口の二重になった分厚い自動ドアを潜れば、まず広々としたエントランスが俺たちを出迎える。
「おお〜、これはまた豪勢ですな」
「確かに。てっきりなんか、こう……もっと殺風景っつーか、殺伐とした感じかと思ってたけど……意外とオシャレだな」
なんというか、雰囲気がドラマとかに出てくる大企業のオフィスビルみたいだ。
ここだけスクショを切り取って、何も知らない人にどっかの会社のエントランスと言って見せたら、なんかそのまま信じてくれるような気がする。
なんて思いつつマップを開けば、基地内の階層ごとの細かな構造がウィンドウに映し出される。
「地上二十五階、地下五層——おいおい、でかすぎだろ。一体、何人収容させるつもりだよ?」
「ん〜、規模的には余裕に数万人……もしかしたら十万人単位で入るかも。少なくともソマガ全盛期の時にいたアクティブユーザーは全員入るんじゃないかな」
「なあ、その例え止めようぜ。なんか虚しくなるから……」
なんなら最終日のアクティブだったら、このエントランスだけで余裕に収まるぞ。
確かサ終直前の同接数はギリ百人満たないくらいだったはずだしな。
……え、同接少なすぎだろって?
………………まあ、うん。
………………うん。
……ああ、そうだよ!
その頃にはもうこっちに殆どユーザー吸われて、出戻り勢すらいなかったんだよ!
正直、かつての古巣を懐かしみに、去って行ったユーザーがインして来るんじゃないかとちょっとだけ期待したけど、全然そんなことはなかった。
実際にサガノウンをプレイしてこっちのクオリティの高さを現在進行形で目の当たりにしているから、今なら戻ってこなかった奴らの気持ちも分からんでもないけど、だとしても一日中閑古鳥が鳴き続けていたのは流石に予想外だったぞ。
はあ、思い出したらなんだか余計辛くなってきたな……。
けど、それよりも今は防衛任務だ。
怒りとも悲しみとも言い難い複雑な感情を振り払い、気を取り直してTipsが指示する目的地に向かうことにした。
辿り着いた先は、Fランク特別作戦会議室と呼ばれる部屋だった。
「……あ゛ー、やっと着いたか」
「意外と時間かかったねー」
「まあ、エレベーターとクソ長通路があったもんな」
建物の規模が規模だから、場所によっては数百メートル歩かされることになる。
一応、建物内限定でのファストトラベル機能はあるから、毎回あっちこっち歩き回なきゃならないなんて事態にはならないが、外と同様、ワープ地点には一度訪れる必要はある。
「巨大建造物ってロマンはあるけど、代償に移動が不便になるのは考えもんだな」
——ダンジョンとかなら話は別だけど。
ぼやきつつ、部屋に入れば、
「よく来たな、命知らずの鷹共! こうして貴様らと直に顔を合わせるのは初めてだな!」
筋骨隆々で強面のおっさんが仁王立ちで俺らを出迎えた。
刃物のように鋭利な目付き、立派に蓄えられた口髭、額から左頬にかけて残る深い傷跡——いかにも歴戦の猛者って感じがぷんぷん漂っている。
この声——もしかしなくても……うん、間違いない。
「へえ……どうもどうも、アンタが本物の軍曹さんか」
「やっほー、こちらこそはじめまして〜」
あのAI……ちゃんとモデルとなったNPCがいたのな。
そんでやっぱ癖強えな、この鬼軍曹。
軍曹はティアを一瞥すると、
「——なるほど、貴様がさっき新人訓練を圧倒的な内容でクリアした鷹か。やはり戦闘の経験をある程度積んでいたようだな。吾輩のAIが珍しくたじろいでいただけのことはあるな」
「えへへ、それほどでもあるかな〜」
「あるんかい」
それから軍曹の視線が俺に向けられる。
「それと貴様は……」
おっ、俺は何言われるんだろ?
「……貴様ァ! 一体今までどこをほっつき回っていた!」
「ええっ、怒られんの!?」
「当然だ、馬鹿者! 念入りに準備をするにも時間をかけ過ぎだ!」
いやいや、チュートリアルが終わってからそんなに時間は経って……いや、普通に結構経ってんな。
そりゃ寄り道に寄り道を重ねてたわけだし当たり前か。
にしても……やっぱ、NPCの作り込み凄えな。
こっちの行動次第でここまで会話内容が変わるものなんだな。
「やーい、怒られてやんのー」
「貴様がのんびりそこら辺を散歩している間にもう一人の鷹は、我がセプス=アーテルに侵攻を仕掛ける不届きな輩共を再び狩りに出かけたぞ!」
「……ああ、そういや俺より先に部隊に入った奴がいるんだったか」
つーか、二度目ってやり込んでんな。
それほど報酬が美味いのか、単純に戦闘目的なのかは分からんが、少なくとも腕に自信があるってことは窺える。
「……まあいい。早速、貴様らにも防衛任務に参加してもらう! 内容は簡単だ! 街の南方にある要塞に移動し、我がセプス=アーテルへの侵攻を仕掛ける不届きな輩共に自らの行いの愚かさをその命を以て分からせてやるだけだ! 作戦地点への移動は別室にある専用の転送装置を使うといい! 準備が出来次第、速やかに現地に急行し、貴様らの力を見せつけてやれ!」
「はいよ、了解」
「イエッサー!」
初の防衛任務ついでに、そいつの顔を拝みに行くとしようか。
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ミッション『セプス=アーテル防衛任務』が発生しました。
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ガリアード・ウィル・ランザベイン
セプス=アーテル未知脅威防衛戦線・本部精鋭部隊総長。
本部の精鋭部隊を纏める何気に結構偉い人。新人合同訓練場の教官AIのモデルになっていて、訓練で目覚ましい結果を残したプレイヤーの情報は本人に通知されるようになっています。
実は彼にもパラメーターが設定されていて、数値的にはレベルカンストしたプレイヤーと肩を並べるほどだとかそうじゃないとかなんて噂が流れている。
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