示される少女の実力

 ——十分くらいして。


「全部終わったよ〜! いえい!」


 ティアが晴れやかな笑顔でピースサインを決めたのは、修了試験を合格し、シミュレーションルームから戻ってきてすぐのことだった。


「……うん、なんとなくこうなるんじゃないかとは思ってたけど。マジで秒殺するとはな……」


 レベルと装備の暴力のおかげで、ほぼ全ての戦闘が瞬く間に終わっていた。

 途中、話を聞いた感じ、こっちのステータスに合わせて敵も幾らか強くなってたっぽいが、如何せんティアの実力がそれを上回りまくっていた。


 唯一、苦戦してたのはハーリスタスくらいか。

 いくらマシンガンといえど、奴の堅牢な甲羅をぶち抜くのは容易ではなかったようだ。


 ……まあ結局、地雷設置して弱点の腹部を爆破して片付けたらしいけど。


 拘束だけじゃなくて普通に火力も出せるし、普通にトラッパーって優秀なクラスのでは……なんて思わなくもないが、きっとティアの実力がそう錯覚させてるだけだ。

 俺がティアの戦闘を真似ても、すぐになんか違うってなる未来は見えている。


「——ところでさ、なんかすごーく見られてるような気がするんだけど……」


 ふとティアが周りを見渡しながら言う。

 ティアの感じる視線……それは気のせいとか自意識過剰ではなく、実際に周りにいたプレイヤーからの注目を集めていた。


「あー、そりゃ多分あれだ。さっきの修了試験を目の当たりにしたからだろうな」


「え、そうなの?」


「ああ、一つ下の階にここより広めの仮想訓練室があってな。そこでお前の無双っぷりがバッチリ中継されてたぞ」


 チュートリアルの後になって気づいた事だが、この新人合同訓練場は下の階にも続いていて、広めのシミュレーションルームはそこに造られている。

 ティアが修了試験を挑みにシミュレーションルームに転送されたタイミングで試しに様子を見に行ったら、偶々ティアの戦闘の模様が始終映し出されていた。


「ボス三体を相手にノーダメ撃破。加えてTA並みの戦闘内容。そんなん見せつけられたら誰だって注目するだろ」


「ん〜……言われてみれば、確かにそうかも。けど、えへへ〜……周りに注目されるってすごく久しぶりのことだから、なんか照れますな〜」


 ティアの三体撃破までの一連の流れは、俺から見ても鮮やかな手際だった。


 戦闘開始と同時に落とし穴を仕掛け、他二体の攻撃を避けつつ、追撃して来たランページジャガーを綺麗に罠に嵌めると、即座にヴィイミーに接近。

 初期武器と貰ったマシンガンを二丁持ちに切り替え、アビリティを発動しつつ全弾ぶっぱすれば簡単にヴィイミーの撃破に成功する。


 続け様に新たな罠を設置し、両腕に抱えたマシンガンをそれぞれ乱射。

 左手の初期武器マシンガンでまだ落とし穴から抜け出せてないランページジャガーにダメージを与え、右手の貰ったマシンガンでガルーラダを撃ち落としにかかる。


 腰撃ちとは思えない命中精度の高さで両方同時にダメージを与えていき、ランページジャガーが罠から抜け出した瞬間、初期武器マシンガンを破棄——ガルーラダの撃墜に専念し始める。


 一見すれば対処するべき相手を間違えているようしか思えないが、これはランページジャガーを誘い込む為の罠だ。

 隙を見せればそこを突いてくるであろう敵の行動パターンを利用し、敢えて接近してくるように仕向ける。

 そして、予め設置しておいた地雷を踏ませ、爆破したところでターゲットをランページジャガーに変更——動けなくなったところを容赦無く撃ち抜きトドメを刺せば、残すはガルーラダとの一騎打ちだけ。


 ここまで来れば後はヌルゲーだ。

 程なくして炎と弾丸による撃ち合いを制し、ガルーラダを地上に墜とした後、ダメ押しに再発動させた攻撃アビリティによる弾幕を浴びせれば、ポリゴンの粒子になって爆散——ティアの圧勝で戦闘終了となった。


(……やっぱソロでも普通に強えな)


 改めてティアの実力の高さを実感させられる。


 同じ順番で敵を撃破したはずなのに、俺とは戦闘内容が大違いだ。

 戦闘スタイルとかステータスとか前提条件が違うからっていうのも理由の一つだろうけど、やっぱ——、


「やっぱ飛び道具があると、空中にいる敵に対しても安定して強く出れるな……」


「え?」


「ん?」


 ティアがアルカイックスマイルを浮かべる。


「……ねえねえ、アラヤくん。一つ良いことを教えてあげよう。アラヤくんの使ってる武器はね、実はね——」


「言うな」


「空中とかの離れてる相手にも有効なんだよ」


「言うなつったよな? あとそのニヤケ面やめろ」


「あはは、はーい」


 素直に答えるが、ティアのにまにまとした笑顔はそのままだ。


 多分、向こうとしては俺を煽ってるつもりなんだろうけど、もうこれしきの煽りなら簡単に流せるぞ。

 もう何年お前らのクソエイム煽りを受け続けてると思ってる。

 これで顔真っ赤にするほど俺は子供じゃねえんだ。


 だから——PvPが出来るようになったら、完膚なきまでに散弾お見舞いして叩きのめしてやるから覚悟しとけよコラァ……!!!


 込み上げる怒りをスマートに抑え、


「……それはそうと、鬼軍曹殿にはどの部隊に入隊だって言われた?」


「精鋭部隊だって。『貴様は特別に我がセプス=アーテル防衛戦線……その精鋭部隊への入隊を認めようではないか! 光栄に思うがいい!』……みたいな感じに言われたよ」


「ま、当然か」


 これでティアが通常の部隊に配属されようものなら、真面目に精鋭部隊の入隊条件が分からなくなるところだ。


「それじゃあ、チュートリアルも終わったことだし本部に行くとするか」


「そうだね。ゼネくん、いるかな〜?」


「どうだろうな。確率は高そうだけど」


 入れ違いになる可能性も十分に考えられる。

 まあでも、防衛任務がどんなのか気になるところではある。

 次の目的地は防衛基地本部のままで問題ないだろう。


「ま、細かいことは行ってから考えよっか」


「だな」


「じゃあ、本部に向かって……ゴーゴー!」


 こうして、周りがティアに視線を向ける中、俺らは訓練場を後にするのだった。




 ——ただ一人、俺の事もじっと見つめる視線があったことに気が付かないまま。




————————————

流石に鬼軍曹もティアがここまで無双するとは思わず、戦闘終了後はちょっとだけたじろいでいた模様。

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