報酬を受け取って
地獄のロッククライミングを完遂し、無事に武器屋に戻れば、依頼人の女性NPCは並んだ俺らを見て目を丸くしていた。
「——へえ、驚いた。キミら元から知り合いだったんだ」
「まあね〜。それはもう前世からのマブダチよ」
「あはは、面白いことを言うね。それで……依頼の品は取ってこれた?」
「ああ、ほらよ」
インベントリから回収した魔晶を取り出し、カウンターの上に差し出す。
それぞれ回収した魔晶の数は、俺が一個でティアは五個。
先行していたとはいえ、なんでティアがそんなに集められたか理由を一言で説明するなら、一方的なハメ殺しを成功させたからだ。
詳細を聞く限り、ティアのロールとプレイヤースキルがあってようやく成立する戦法ではあったが、トラッパーのクラスも使い手次第でかなり化けそうな予感がする。
まあ、玄人好みっていうかかなり上級者向けにはなりそうだけど。
「……これは、凄いな。本当に未開領域に入っただけでなく、魔晶を持って生還するなんて。頼んでおいて聞くのもどうかと思うけど……キミら、本当に新人の傭兵?」
「一応は。本当はもう少し持って帰るつもりだったんだけど、ちょっとしたイレギュラーが発生しちまってな。今日のところはこれくらいで勘弁してくれ」
「ううん、十分過ぎるくらいだよ。一個だけでもこっちとしては大助かりなのに。これで、あの子らにも……うん、キミらに頼んで正解だったよ」
そう言って女性NPCは満足気に目を細めた。
今更だけど……NPCの作り込みよう半端ねえな。
ちょっとした表情や仕草がAIとは思えないっつーか、リアルの人間とそう変わらないレベルだぞ、これ。
これはサガノウンが覇権を取って、ソマガが影に埋もれていったのも納得だわ。
一度こっちを手を出すと、よほどの理由が無い限りソマガをやる理由がマジで見つからないもん。
実際、ちょっと覇権ゲーとやらをやってくる、なんて言い残して二度とソマガに戻って来なくなったプレイヤーも少なくなかった。
おかげでサービス末期のランクマッチにいた上位層=よほどの物好きor逆張り厨って共通認識が生まれてたくらいだ。
「それじゃあ、約束の報酬なんだけど……個別で支払った方がいい? それとも仲良く半分ずつの方がいい?」
女性NPCの確認に、
「「それは勿論」」
即答。
俺とティアの声が重なる。
「「半分ずつで(個別で!)」」
……あ゛?
「おい、ティア。さっき分け前寄越すつったよなコラ」
「あはは、ちょっとした冗談だってー。アラヤ、お顔が怖いよー」
「ったく、誰のせいだと思ってんだ……」
ついため息が溢れる。
俺らのやり取りを目の当たりにして、女性NPCは空笑いを浮かべている。
「えっと……半々で良いのかな?」
「うん、それでいいよ。アラヤには借りがあるから」
「了解。なら……はい、これが約束の報酬だよ」
————————————
ミッション『闇商人への魔晶納品』をクリアしました。
以下の報酬を獲得しました。
・30000ガル
・『G/hP』永続割引権
————————————
おお……これは、中々美味いんじゃないか。
報酬金が30000ガルってことは、魔晶一個で10000ガルってことだもんな。
ティアのウィンドウに表示されている金額も30000ガルになっている辺り、その計算で間違いないと思われる。
これは上手くやれば簡単に十万オーバー出来そうだし、またやることがあれば今度こそガッツリ稼がせてもらいたいものだ。
というか交渉次第で報酬内容もちょっと変動させられるのか。
ロールプレイ勢とかしたらやり込み要素の塊というか、研究し甲斐がありそうだ。
それと……マップ情報に書かれてる店名と報酬に書かれてる店名違くないか?
確かマップ情報だと『クラッシュ&バッシュ』って店名だったはずだ。
けど報酬に書かれているのは『G/hP』——不具合なのか、それとも何かしらの理由があったりするのか。
まあ、いいや。
後でちょっと調べてみよう。
「……改めて、お礼を言うよ。ありがとうね、二人共。おかげで凄く助かったよ。また必要になった時は、依頼を引き受けてくれたら嬉しいな。それと銃を新調したかったらウチの店を贔屓にしてね。待ってるよ」
「ああ、その時はガッツリ割引き利用させてもらうよ」
「わたしもー! じゃあ、またね〜」
こうして俺たちは武器屋を後にして、次の目的地に向かうことにした。
道中、貰った割引権の内容を確認したら、まさかの全商品三割引きというイカれたことが書かれていた。
いくらなんでも三割引きって値切り過ぎだろ。
いやまあ、俺からすればこの上なくありがたいんだけど。
とはいえ、滅茶苦茶破格かっていうとそうでもない。
大盾を新調する際に別の武器屋に行ったけど、『G/hP』ほど値段が張ってなかったからな。
多分、あそこ普通の店と比べてデフォの価格が高く設定……悪く言えば、ぼったくってやがる。
なんでそんな店が存在してるのか気になるところではあるが、きっと何かしらの存在意義っていうか、絡繰があるんだろう。
ま、何にせよ永続割引権があるおかげで、結果的に銃はあそこの店で買うのが一番安上がりになったから別にいいか。
——なんてことをティアと話しながらやって来たのは、新人合同訓練場。
ここを訪れたのは、ゼネ探しの前準備の為だ。
多分ゼネがいそうな場所に行くには、ティアも新人訓練を修了させる必要があるような気がする。
そうじゃなくても、防衛任務を受けれるようになるにはチュートリアルのクリアが必須だからっていうのもある。
『——よく来たな! 右も左も分からぬ役立たずの傭兵……いや、貴様は少し腕に自信がありそうだな。……まあ、いい。今から貴様により強き翼を授ける為、吾輩が手解きをしてやろう! 光栄に思え!』
「……うん、話に聞いてた通り中々キャラが濃い軍曹さんだね」
「だろ。……でも、俺がやった時とセリフが違えぞ」
俺の時は未熟な雛鳥とか、一匹の鷹とか言ってたのに。
けどよく考えてみれば、自然に会話ができるAIだもんな。
プレイヤーのステータスに合わせてセリフが変わってもそこまで驚くほどのことじゃないか。
「とりあえず実戦訓練っていうのと後から出てくる修了試験をクリアすれば良いんだよね?」
「ああ、戦うのは未開領域で出てくる敵だけど、お前なら楽勝だろ」
「もち! じゃあ、サクッと終わらせてくるね〜」
そう言って、『実戦訓練:I』を選択すれば、ティアはシミュレーションルームへと転送されるのだった。
————————————
ティアがやった戦法
Step1.一匹浮いている敵を見つけて誘い出す。
Step2.設置しておいた落とし穴に嵌める。
Step3.敵が罠にかかったら急接近し、攻撃アビリティを発動しながら急所に向けて全弾零距離ぶっぱ。
↓
WIN!!
これを何度か成功させているうちに「普通に銃ぶっぱだけで勝てるのでは」などと調子に乗って弾幕ばら撒いて戦い始めた結果、流れ弾がオーバードに命中し、命懸けの鬼ごっこが始まりました。
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