居合わせた理由

「……あ゛ー、なんとか撒けたか」


 最初に飛び降りた地点までどうにかこうにか辿り着いたところで、俺は思いっきり仰向けになって倒れるように寝転がる。

 同様にティアもぜえぜえ息を切らしながら大の字になって倒れていた。


「もう走るの無理ぃ、当分動きたくないよ〜。アラヤ、見張りしといて〜」


「やだよ、自分でやれ」


「むぅ、ケチー」


「うるせえ、自分で蒔いた種だろうが」


 言い返せば、ティアは唇を尖らせながらもゆっくりと起き上がる。

 とはいえ、エリア端は他と比ベて出現しているモンスターの数が少ないから、そこまで警戒しなくても問題はなさそうではある。


「それはそうと……よお、久しぶりだな、ティア。まさかこっちでお前と再会できるなんてな」


「そうだねー。まあ、わたしはまた会えると思ってたけど。……流石にこんな状況でとは思ってなかったけど」


「俺もだよ」


 できればもっと落ち着いた状況で会いたかったものだが、まあこれはこれで俺ららしくていいか。


 呼吸を整えてから俺も起き上がり、ティアに向けて拳を突き出す。

 ティアは俺の行動に一瞬首を傾げるも、すぐに意図を汲み取ると、にっこりと満面の笑みを浮かべて拳を突き出す。


 前はジェスチャーだけで終わってしまったが、今回はそうじゃない。

 ちゃんと互いの拳をトンと突き合わせれば、俺もティアも自然と唇が釣り上がっていた。


「……ところで、なんでアラヤがここにいるの?」


「それはこっちのセリフだっつーの。あと、なんであの狒々ゴリラに追いかけられてたんだよ?」


「んーとね……簡単に言えば、魔晶ってアイテムを集めに、かな。それを集めれば、報酬金をくれるだけじゃなくて、武器一つプレゼントしてくれるってNPCがいてね。それでここにやって来たってわけ」


 ……んん?

 なんかものすごーく身に覚えのある話だな。

 一応、確認してみるか。


「なあ、それもしかしてさ……その依頼をしたNPCって武器屋にいた女の人か? 裏路地にある薄暗い店にいる片目が隠れた金髪の」


「うん、そうだけど。……え、ってことは、まさかアラヤも!?」


「ああ、俺も同じNPCから依頼を受けてたところだ」


 そういえば、俺以外にも誰かに依頼をしてるって言ってたな。

 傭兵ちゃんって言い方的に女性プレイヤーかもとは思っていたが、その人物がティアだったとは予想だにもしてなかった。


 ……いや、そもそも予想しろって方が無理があるか。

 示し合わせたわけでもないのに同じゲームを始めて、同じ陣営を選んで、同じ店に行くなんてこと普通なら有り得ないからな。


 ——でも、相手がティアなら話は別だ。

 ティアとはソマガ時代から何度も偶然のエンカウントを繰り返してきたわけで、ゲームが変わったくらいでは今更驚きはしない。

 そして、ティアとこうして再会できたってことは、恐らく——、


「はえー、すごい偶然もあるもんだね〜。……あ、あとゴリゴリくんに追いかけられてたのは、流れ弾が当たったからだよ。いやー、調子に乗って弾幕ばら撒いてたらまさか近くを通りかかっていたゴリゴリくんに当たるとは思ってなかったよねー」


「それは……うん、災難だったな。普通に自業自得だけど」


「え〜、もうちょっとは可哀想なわたしを慰めてよー」


「うるせえ。だったら俺を鬼ごっこに巻き込むんじゃねえよ。危うく俺も死にかけたじゃねえか」


「……てへっ☆」


 ………………(無言の脳天チョップ)。


「あだっ!? ちょっと何すんのさー! 暴力はんたーい!」


「可愛い子ぶって許されようとしたのがムカついた。それと俺のおかげで生き延びたんだから後で分け前寄越せよ」


「ひどい、横暴だー!」


「俺からすれば、お前の自分勝手さの方がよっぽど横暴だっての……」


 さっき俺が死んでたらMPK扱いされてもおかしくなかったんだぞ。

 思わずため息が溢れる。


 まあ、なんだかんだ俺もティアも無事に生存したから結果オーライではあるか。


 不満を露わにしていたティアだったが、ふと何かを思い出したように表情をスッと元に戻してから、


「……そういえばさ、アラヤってもうゼネくんには会ったりしてる?」


「いや、まだだけど。そっちは?」


「わたしもまだ。ゲーム始めてからすぐにここに来たから」


「おま、チュートリアルガン無視かよ……」


 ゲーム的には普通にアリではあるんだろうけど、だからって自由過ぎだろ。

 ……あれ、それじゃあ鬼軍曹が言っていた精鋭部隊とやらに入ったもう一人はティアじゃないってことか。

 だとしたら、俺の知らない人物が入ったっぽいな。


 けどそれが当然というか、そこまで行動がシンクロしてたら逆に怖い。


「ゼネくんもこのゲームやってるかなあ?」


「俺とお前がやってるんだ。十中八九アイツもやってるだろ」


 確証はないが、自信を持って断言できる。

 ゼネもティアと一緒で、偶然のエンカウントを重ねた末に行動を共にするようになった間柄だ。

 まず間違いなくサガノウンを始めてはいるだろう。


「……だよね! それじゃあさ、街に戻ったらゼネくんを探してみようよ!」


「手掛かり何もねえのにか?」


「うん! 大丈夫、わたしとアラヤがこんな場所で再会できたんだから、ゼネくんとも簡単に再会できるよ!」


 根拠としては薄いが、ティアの言葉には妙な説得力があった。


「……それもそうだな。そんじゃ、一度帰ってゼネ探しと行くか」


「ラジャー!!」


 そう応えながらティアはビシッと敬礼して見せる。

 本当ならもう少しここで魔晶集めをするつもりだったけど、一つは入手できたし、今はゼネを探す方が優先だ。


 しかも、場所的にも帰るには丁度いいしな。


 ただ、一つだけ問題があるとすれば——、


「よし……気を引き締めて登るか」


「……だね」


 最初に飛び降りた高さ百メートル近い断崖を登らないといけないことか。




————————————

不法侵入した以上、正規ルートで帰ろうとすると関門で取り締まられるので、違うやり方でエリアを脱出する必要があるわけですね。

それと、基本的に未開領域内ではファストトラベルはできないようになっています。

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