全力トラップ&サバイブ

 足元に張り付くようにして四腕狒々の攻撃を掻い潜る。

 パンチ、ラリアット、裏拳、アムハン……絶え間なく繰り出される攻撃は、どれもほんの僅かにでも気を抜いたら一瞬でやられるほどの速度だ。

 集中力を限界まで研ぎ澄まし、都度適切な対処で奴の攻撃を耐え凌ぐ。


「チッ……!!」


 ほぼ完璧に盾で攻撃を防いでもダメージが発生してしまう。

 だけど避けオンリーでやり過ごすのは、少なくとも今のステータスじゃ不可能だ。


 コイツ……巨体に見合わず、動きがクッソ速えんだよ……!!


 たかだか二十秒が、今は果てしなく長く感じる。

 普段なら気付けばすぐに経過する程度の時間なのに。

 クソ、まだ終わらねえのか……!?


 返しの散弾をぶっ放した後、歯噛みする思いでインベントリから回復アイテム”タブレットポーション”を取り出し、即座に口の中に放り込む。

 速攻で噛み砕いて飲み込めば、失われていたHPがほぼほぼ全快する。


 直後に四腕狒々のラリアットをパワーガードで受け流すようにガードする。

 その時だった。


 少しだけ構え方が甘かったのか、今までで一番の衝撃が全身を貫き、大盾に手の施しようのないレベルの亀裂が入る。


「ぐっ、しまっ……!?」


 瞬間、回復したばかりのHPが半分ちょっと削れ、大盾は無惨にも破損……ポリゴンの粒子へと変わり果てた。


 ——やらかした!!


 大盾がぶっ壊れたのはまだいい。

 このゲームの武器は実際の物質じゃなくてマナで構成されている。

 新たにMPを消費さえすれば、すぐに形成し直せる。


 問題は今の防御で俺が大きく体勢を崩してしまったことだ。


 これだと四腕狒々の次の攻撃に対して、ガードも回避も間に合わない。

 このままじゃ確実に次の攻撃で確実に俺は死ぬ。


 ほんの一瞬で良い……奴の行動を一時的に止めることが出来さえすれば、態勢を整え直せる。

 だけど、その隙を生み出す手段が無い以上、状況としてはほぼ詰んで……違う、まだチャンスは残っている。


 成功するかはギャンブルだが、やらなきゃなす術なく殺されるだけだ。

 試すだけ試して、後のことは天運と乱数に委ねるとしよう。


 ——ここで少しだけ話は変わるが、これまで三つ以上武器を持ってなかったから使うことのなかった仕様がある。

 それはメインとサブウェポンそれぞれの装備枠には、同時に二つまで武器をセットできるというものだ。


 一度に呼び出せるのは一つずつまでだが、状況によってメインとサブの武器を切り替えることでより柔軟な戦い方ができるようになる。

 武器がマナで構成されている設定も、装備した武器が持ち運び式じゃなくてプレイヤーの意思で召喚できるシステムになっているのも、きっとこの仕様の為だったのだろう。


 そして、無銘の散弾銃を入手したことでベンチ入りとなった旧式散弾銃は、現在サブウェポンの空きスロットに眠らせてある。

 つまり——、


「捨て身のフルアタ喰らいやがれ!!」


 ここでサブウェポンに呼び出すのは旧式散弾銃。

 二丁持ちにして放つのはスプレッドショットだ。


 当然ながら、MP消費が二倍に増える分、同等に威力も底上げされる。

 二丁のショットガンから放たれた散弾は、四腕狒々の右肩と左の腹部それぞれに命中し、四腕狒々を大きくよろめかせることに成功する。


 これで第一のギャンブルには勝った。

 だけどまだこれで終わりではない。

 軽く怯ませただけだと、あれが……アムハンが飛んでくる。


 杞憂で済んでくれれば良かったのだが、俺の嫌な予想は見事に的中する。

 四腕狒々はひっくり返りそうになりながらも両腕の拳を合わせ、強引に振り下ろそうとしてくる。


 すぐに体勢を戻して回避を試みるが、俺も俺で無理矢理ショットガンをぶっ放したせいで、反応に対して身体が追いつかない。

 ——敗北を悟る。


(チッ……ダメだったか)


 けど、やれるだけのことはやった。

 ティアとはまた離別することになるけど、同じゲームにいることが分かっただけでも収穫だ。

 その内、またどっかで今みたいな感じに遭遇するだろ。


 などと考えながらデスを覚悟した瞬間だった。


 後方から重い銃声が轟くと、大量の弾丸が四腕狒々の頭部を撃ち抜いた。

 元々バランスを崩しかけていたところにダメ押しの弾幕を喰らったことで、四腕狒々は完全に体勢を崩し、遂に仰向けになって倒れた。


 一瞬、何が起こったのか分からなかったが、咄嗟に背後を振り向けば、


「お待たせ〜! 準備完了したから戻っていいよ〜!」


 銃口から硝煙が上がったマシンガンを構えたティアがブンブンと手を振っていた。


「サンキュー、ティア! 今のはマジで助かった!」


 今のがアシストが無かったら間違いなくやられていた。

 どうにか九死に一生を得たな。


 俺はサブウェポンを旧式散弾銃から大盾に戻しながら、一目散にティアの元へと全力ダッシュで駆け寄る。

 すぐに合流し、


「時間は稼いだぞ! 後はどうする!?」


「勿論……全身全霊の本気で逃げる!! できるだけの罠は仕掛けたけど、失敗したら仲良くお陀仏だからそこのところよろしくね〜!」


「そうかよ、クソッタレ!! じゃあ、成功することを祈ってお互い無様に走り切ろうぜ!」


 そんなわけで命懸けの逃走を再開する。

 後方では起き上がった四腕狒々がこちらに向かって追撃を仕掛けようとするが、ついさっきまで俺らがいた場所を通過しようとした瞬間——四腕狒々の巨体を丸々飲み込むほどの巨大な落とし穴が発生した。


 四腕狒々はそのまま落とし穴に落下、胸部より下が穴に埋まってしまう。

 すぐに抜け出そうとももがくも、穴の中に何か仕掛けがあるのか身動きを取れずにいた。


 あの様子だと、どうやら上手く罠に嵌まってくれたようだ。

 これなら逃げる時間を十二分に稼げる。


 落とし穴がどんな仕組みになるのか気になるところだが、今は逃げることに専念するとしよう。


 そして、四腕狒々の脅威から俺らは、命からがらどうにか逃げ延びることに成功するのだった。




————————————

クラス:トラッパー

 フィールドに様々な罠を仕掛けることで戦闘を優位に進める上級者向けクラス。

 多人数での戦闘でこそ本領を発揮するが、使い手によっては一対一でも十分に運用が可能。ポジションをソーサラーにすると設置型の魔法を習得しやすくなる。

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