予期せぬ再会〜Case.T〜

 獅子の面をした頭部と真紅のたてがみ

 大猿……いや、ゴリラみたいな体格と鈍色の体表。

 それから案の定というべきか、例に漏れずコイツもかなり巨大で、パッと見でも全長が十メートル以上もある。


「近くで見ると存在感半端ねえな……!!」


 アイツ基準で考えると、スラッグスライムがただのスライムに、ただのスライムが道端を歩く蟻に思えてしまう。


 考えるまでもなく、現時点では絶対に戦っちゃいけない部類の奴だ。

 もし真っ向から戦闘になれば、ほぼ確実にお陀仏にさせられるのは避けられないだろう。


 四本腕のモンスターに圧倒されつつも、必死に逃げているプレイヤーには同情の念だけ送ることにして——って、


「……あっ」


 絶賛逃走中のプレイヤーが俺が狙っていたハーリスタスの近くを横切った。

 直後、ブルドーザーよりも余裕で破壊力があるであろう獣人モンスターの突進が通り道にいたハーリスタスを吹っ飛ばした。


 ハーリスタスはちょっとだけコミカルに宙を舞うと、真っ逆様になって俺の目の前に落下。

 敢えなくそのまま力尽き、ポリゴンへと爆散していった。


「あああーっ!? 俺の獲物おおおーっ!!」


 思わず声を大にして叫んでしまう。


 ……あ、でもドロップアイテムは回収できる。

 自分で倒した時は、自動でインベントリに収納されたはず。

 モンスター間での同士討ちだと発生する仕様なのか?


「ま、いいや。戦わずに済んだし結果オーライってことで」


 とりあえず魔晶があることだけ確認して、と。

 ……よし、オッケー。


「それじゃあ、巻き込まれる前に退散するか……ん?」


 ふと顔を上げると、マシンガンを担いだプレイヤーがこっちに向かって走って来ていた。

 しかも、笑顔で大きく手を振りながら。


 当然——後方に四本腕の獣人モンスターを引き連れて。


「おーい! ひっさしぶりー!」


「は、久しぶり?」


 初対面なのに妙に馴れ馴れしいな。

 俺、このゲーム始めたばっかだぞ。


 それに声をかけてきたアイツも俺と同じ初期装備の服装をしている。

 ということは、アイツも始めたてのルーキー……って、なんでそんな奴がここにいるんだよ。


(……つーか、この声……どっかで聞き覚えが——、っ!?)


 思った刹那、気が付く。

 女性プレイヤーの顔立ち——それと頭上に表示されているプレイヤーネームに。


「——ティアか!?」


 名前、容貌、声、使用武器。

 その全てがソマガで共に戦い、最後の時を過ごした戦友のそれと一致していた。

 ソマガの時はこれにプラスで短杖を装備していたが、持っていないのはロールの構成上の問題だろう。


 まあ、それはいいとして——、


「おいおい、マジかよ……!!」


 まさか、こんな場所で再会できるとは。

 やっぱりソマガがやれなくなったとなれば、ここにやって来るよな。


 予想が的中したこと、かつての戦友と再会できたこと。

 それは大変喜ばしいもので、心の底から嬉しさが込み上げてくる。


 しかし、それ以上の感情が俺の胸中を占めている。


「わあ〜、やっぱりアラヤだった〜! じゃあ、再会早々で悪いけど……あのゴリゴリくんから逃げるの手伝ってー!!」


「ざっけんなあああっ!! 俺を巻き込むんじゃねえ!!!」


 つーか平然とトレインしてくんなっつーの!!


 無視して逃げたいところだが、既に俺もターゲットを向けられてしまっている。

 ——応戦するしかない。


 突如として、命懸けの鬼ごっこの火蓋が切って落とされる。


「クソっ、後で覚えとけよ……ティア、ロールは!?」


「ミドル、ガンナー、トラッパー! アラヤは!?」


「クロス、ガンナー、タンクだ!」


「じゃあ、前で足止めよろしく! わたしはその間に逃げる用の準備をするから!」


 流れるように立ち位置を入れ替えるや否や、俺はプロヴォークを発動、四本腕のモンスター……四腕狒々(仮)のヘイトがティアに向かないようにする。


 恐らく、今の耐久だとまともに受け止めれば速攻でHPが尽きる可能性が高い。

 パワーガードでガード性能を上げつつ、衝撃を受け流すような構えで攻撃を防ぐ必要がありそうか。


「何秒稼げばいい!?」


「四十……いや、三十秒!」


「了解! 絶対間に合わせろよ!」


「うん、任せなさいって!」


 短く言葉を交わし、俺は目の前の脅威に備える。

 早速、右ストレートをパワーガードとリベンジガードを同時発動させた大盾で受け流す。


「って、重っ!!?」


 ちゃんと踏ん張んなきゃ簡単に吹っ飛ばされるぞ、これ……!!


 しかも、これでも衝撃を殺しきれずに二割くらいダメージを食らってしまっている。

 これは何発も安定して受けるのは無理そうだ。


 なら……こっちが取るべき行動は反撃だ。

 大したダメージにならなくとも、動きを多少封じることは出来るはず。


 重要なのは、こっちが防戦一方にならないこと。


「っ!」


 スプレッドショットを発動——四腕狒々の顔面を狙って散弾を放つ。

 視界を潰せれば、攻撃を当てにくくなるはず……そういう算段だったが、ここでクソエイムを発揮する。

 放たれた散弾は、四腕狒々の顔面から少し右下——左肩に逸れてしまう。


 が、それが逆に功を奏する。

 一秒にも見たいない短い間ではあるが、四腕狒々の動きを止め、丁度繰り出そうとしていた左ストレートの勢いを弱めることに成功する。


 無名の散弾銃の特殊効果とスプレッドショットが噛み合ったか!

 それなら——!


 パリイを発動させ、ほんの少しだけ威力の落ちたであろう左ストレートを受け流しながら弾き、四腕狒々の体勢を大きく崩してみせる。


「っらあ! パリイ決まった——って!?」


 しかし、喜んだのも束の間。

 地面に片膝をついてよろめきながらも、四腕狒々は空いていた両腕の拳をくっつけハンマーのように振り下ろしてきた。


 反射的にこいつをガードするのは流石に止めるべきだと判断。

 大盾を構えながら後ろに跳んで回避する。


 組んだ拳が地面に衝突した途端、爆弾を炸裂させたかのような轟音が響く。

 拳を中心にして地面が砕け、破片が辺りに飛び散る。

 多分、あれもモロに食らえばダメージになっていたことだろう。


「この野郎、油断も隙もねえな……!!」


 でも、この一瞬の気も抜けない緊張感は悪くない。

 なんか、こう……闘志が湧き上がってくる。


「来いよ、あとちょっとだけ遊んでやるよ」


 これでもタンクの端くれだ。

 残り約二十秒、死ぬ気で耐えてみせる——!




————————————

モンスター同士で争いが起き、どちらかが力尽きた場合、その場にドロップアイテムが発生します。

ただし、近くにプレイヤー(恐らく戦闘エリア圏内)がいることが条件なので、たまたま道端にアイテムが落ちていたというケースはほぼ無いです。

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