弾薬には限りがあるので

 ガンナーがアタッカーより最も優れている点は、距離を取って戦えるということ。

 逆にガンナーの弱みは、MPを弾丸にしている関係上、攻撃リソースに限りがあることだ。


 だからMPが枯渇してしまえば、ガンナーの火力はガクッと落ちるだけでなく攻撃手段もかなり制限されることになる。

 対策はMPの上限を増やすとか、MPを回復させるアイテムを用意しておくとかが挙げられるが……もっとシンプルなやり方があると俺は思っている。


 それは——、


「弾を撃たずに直接ぶん殴れば解決だよなァ!!」


 ショットガンの銃身を握り締め、グリップ部分で襲いかかってきた巨大蜂のモンスター——ワスプの頭部を思いっきりぶん殴る。


 本来の近接武器の威力には遠く及ばないだろうが、それでも鈍器代わりにはなるはず。

 という予想からの実験的な意味合いを兼ねた攻撃ではあったが、一定のダメージ量はあるようで十発くらい殴り続ければ、ワスプは力尽きポリゴンへと散っていった。


「……よし、実験成功っと」


 チュートリアルのラストバトルの時、盾殴りでガルーラダにトドメを刺したように、近接攻撃用の武器でなくてもちゃんとダメージ判定はあるんじゃないかと思っていたが、どうやら俺の予想は当たっていたようだ。

 これなら弾を節約しながら目的の未開領域までの戦闘をやり過ごせる。


 勿論、MPを回復させる”活性アンプル”は買えるだけ買い込んでおいたが、ここで使わず本番にとっておいた方が良いだろう。

 あと一個あれば倒せたのに——なんて悲しい結果にならない為にもな。


 尤も、回復アイテム一個の為に逆に大ダメージを喰らったり、乙ったりしたら元も子もないが。

 けど、そこは油断さえしなければ大丈夫だろ。


「一応、俺のは近接系のビルドだし……な!!」


 ——敵襲。


 突如として俺の首元目掛けて飛び掛かってきた狼っぽい見た目をした異形のモンスター——トウテツの攻撃を大盾で捌き、返しにショットガンで殴りつける。

 即座に二体目のトウテツの足元を狙った噛みつきをジャンプで避け、生じた隙を突いて背中に踵落としをお見舞いする。

 続けて三体目の突進は身を翻して躱しながらショットガンを叩きつけ、四体目の鋭い爪による引っ掻きは大盾で真っ向から防ぎ、そのまま押し込むようにシールドバッシュを叩き込んだ。


「おーおー……群れバトルか」


 一対四……いや、今の攻撃に参加しなかったのが一体いたから、一対五か。

 雑魚だから許されてるけど、戦闘に慣れてないプレイヤーからすれば結構キツそうな相手だな。


「んー、どうっすかな」


 本来であれば多分、ソロではなくパーティーを組んで戦うべき相手だ。

 ソロで戦うにしてもこの数の差なら散弾解禁して、とっとと片をつけた方が安定だろうけど……、


「でも、ここは敢えて——」


 ——近接攻撃だけで切り抜ける!


 今度は俺から攻撃を仕掛ける。

 大盾ガードの強行突破で接近しつつ、ショットガンの殴りつけと蹴り技でトウテツにダメージを与える。


「おっ、クリティカル! ラッキー!」


 ショットガンの殴打を当てた瞬間、強い手応えがあった。


 ——なるほど、クリティカルは素殴りでも適用されるのか。


 最低限のATKしかない俺の近接攻撃は基本的に低火力だけど、クリティカルが入れば話が変わる。

 TECは高ければ高いほどクリティカル威力を上昇させる——つまり、クリティカルを発生させさえすれば本職の近接アタッカーに迫るダメージ量を叩き出せる。


 ……流石にATK、TECどっちにも特化させたような火力馬鹿ビルドのそれには及ばないけど。

 だとしても雑魚敵相手ならこれで十分だ。


 トウテツの群れは数こそ厄介だが、仕掛けてくる攻撃は連携もクソもない。

 落ち着いて対処すれば大した脅威にはならない。

 あらゆる方向から続々と繰り出されるトウテツ共の攻撃を一つずつ確実に防いで、いなして、弾いて、たまに躱して、盾で銃で蹴りでカウンターをぶち込んでいく。


「ハハッ、意外と盾の練習にはもってこいだな!」


 ソマガがサ終して以来、盾を使った本気の攻防をやってこなかったから丁度いい機会だ。

 ついでに未開領域に行く前の軽い肩慣らしとして、不届きにも襲撃を仕掛けたコイツらにはサンドバッグになってもらおうか。




 そんなわけで数分後。




「はい、これで一丁上がりぃ!!」


 最後のトウテツの突進をパリイで弾き、体勢が崩れたところにフルスイングしたショットガンを叩き込めば、ようやくポリゴンの粒子となって散っていった。


「ふう……ようやく終わったな」


 HPの減少はなし、と……ノーダメ撃破に成功したか。

 ま、この程度の相手に被弾してるようじゃ、この先やってけないだろうから、これくらいやれて当然なんだけど。


 念の為、敵が近くにいないことだけ確認してバトルリザルトを確認する。

 経験値やらドロップアイテムやらの下にいつもと違う表記があることに気が付く。


「……お、新アビリティ覚えたか」




————————————


アビリティ『パリイ』を習得しました。

アビリティ『リベンジガード』を習得しました。


————————————




 レベルアップをしたわけではない。

 ということは戦闘中で特定の条件を満たせば、それでもアビリティは習得できるようだ。


 今の戦闘はこれでもかってほど防御しまくったからな。

 けどガードと同じくらいショットガンでぶん殴ったり、蹴りを喰らわせたりしたにも関わらず習得したのが多分防御に関するものだけなのは、きっとクラスの影響によるものだろう。


 俺のクラスがタンクじゃなくてストライカーとかだったら、攻撃系のアビリティを習得してたかもな。


「名前で何となく効果は察せるけど、性能がどんなもんか確認しておくか」


 ということで、説明文を開いてみる。


「……あー、なるほどね」


 パリイはガードに攻撃を弾いて敵の攻撃を体勢を崩す効果を付与し、リベンジガードは防御後の攻撃ダメージを上昇させる効果を付与するようだ。

 概ね予想通りのスキルではある。


 どちらも防御スキルではあるが、実質的な火力を底上げする能力。

 複数の敵を一度に相手取るのは面倒だったが、おかげでこれらを習得できたと考えれば、敢えて近接縛りで戦った甲斐があるというものだ。


 多分、格上相手にも有効な能力っぽいしな。


「よし、それじゃあ気を取り直して未開領域を目指すとするか」


 それからも雑魚敵は盾と銃の殴打だけで片付けながら、目的地に向かって移動を再開するのだった。




————————————

ロールについてPart2

[クラス]

 戦闘の立ち回りの傾向に影響を及ぼすクラスは基本的に、

・ストライカー(攻撃)

・サポーター(支援)

・タンク(防御)

・ヒーラー(回復)

 この四つから選ばれることが多いですが、戦闘スタイルによっては上記以外のクラスが選ばれたりすることもあります。ただし、ちょっとクセがあるので使いこなすには慣れが必要です。

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