甘い蜜には抗えず

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ミッション『闇商人への魔晶納品』が発生しました。


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「——じゃ、そういうことだから。よろしくね、傭兵くん」


「……ああ、分かった」


 女性から詳細な説明を受けた後、俺は頷いて応える。

 結論から言えば、依頼を引き受けることにした。


 ……そうだよ!

 金と物と見返りに見事に釣られたよ!


 武器一つと割引きの優遇という甘い誘惑には抗えなかった。


 これはリスクよりリターンの方が大きいと判断するべきだ。

 とはいえ、これが罠だという線は今でも拭えないが、その時はその時。

 騙された俺が悪かったと割り切って一から出直すだけだ。


 始めたばかりの今ならそんなに失うもんもないしな。

 それに手の施しようがなければ、最悪データリセットしちまえばいい。


「……それじゃあ、依頼を引き受けたんだ。約束の武器を一つ貰っていいか?」


「うん、いいよ。どの種類の銃が欲しい?」


「散弾銃だ」


「オッケー。……はい、これどうぞ」




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『無銘の散弾銃』を入手しました。


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 インベントリに直接収納されたか。

 早速、渡された武器の詳細を確認してみる。




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『無銘の散弾銃』

 どこの企業で製造されたのかも不明な型なき散弾銃。とにかく頑丈で使い手を選ぶ事なく、あらゆる環境下でも扱うことができる。

 放たれる弾丸は敵をその場で仕留める宣告となる。

・怯み性能上昇

・仰け反り性能上昇


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「これは……なかなかに悪くないんじゃないか」


 ショットガンは元々手数で攻める武器ではないし、他の銃よりも連射性能も優れない分、敵をその場に釘付けにできるであろうこの二つの特殊効果は非常に噛み合いが良い。

 流石にハメ殺しみたいなことは出来ないだろうけど、僅かな間でも動きを止められるに越したことはないはずだ。


 二丁持ちにしたらワンチャン一方的にハメれそうだけど、もう一個あったりすんのかな。

 一応、確認だけでもしておくか。


「ところでさ、これもう一つ欲しいって言ったら買えたりする?」


「ごめんね、それ一つしかないんだ。昔、ここにいた傭兵が置いていった物だから」


(……あれ、もしかして中古品押し付けられた?)


 まあでも、初期武器よりは性能高いっぽいし良いか。

 あとなんと言ってもタダだし。

 なのにここで文句を言うのはナンセンスというものだろう。


「了解、それならそれでいいや」


 メニューを開いているついでに武器構成を組み替えてから、俺は依頼された魔晶を集めに店の外へと歩き出す。


「そんじゃ、ぼちぼち行ってくるわ」


「行ってらっしゃい。……あ、そうだった。キミ以外にも魔晶集めを頼んだ新人の傭兵ちゃんがいるから、出会っても喧嘩しないで仲良くしてね」


「……おう、分かった」


 俺以外にも目先の利益に眩んだ愚か者がいたか。

 というか、他のプレイヤーにも依頼してたんだな。


 なんて頭の片隅で思いつつ、今度こそ店を後にするのだった。






   ◇     ◇     ◇






 丸々残った予算を使って回復アイテムの調達やら大盾の新調を終えた後、俺は街の南側にあるフィールドを移動していた。


 目指すはこの先にあるアンノウンが大量に生息するエリア——未開領域。

 雑魚敵みたいな感覚で超格上の敵がそこら中を闊歩しているというガチもんの高難易度エリアらしい。


 チュートリアルで戦ったくらいの強さだったら楽勝だけど、多分本物のアンノウンはもっと強いと思われる。

 最短で向かうよりは、道中の雑魚敵を狩ってレベリングしながら目指すのが無難だろう。


「それに……新武器と新戦法の試運転もしておきたいところだしな」


 低レベル攻略も挑戦してみたい気持ちもあるけど、無駄にデスを重ねることになりそうだから却下。

 そもそもデフォで低レベル攻略してるようなもんだから、レベリングはやっておくに越したことはないはずだ。


「……にしても、街の外に出たら一気に景色が変わったな」


 辺りを見渡しながら呟く。

 拠点の中はかなり現代的な造りになって発展していたが、一歩フィールドに出れば一転、草木一本生えていない寂れた荒野が広がっていた。


 視界に映るのは、街の南方——未開領域に向かって走っていく車両に、ちらほらと見受けられる野良のプレイヤー、それからそこら中を徘徊している雑魚モンスター。

 マジでびっくりするくらいに殺風景な光景だ。


「ようやく北の陣営が不人気な理由が分かった気がする」


 これじゃあ冒険のやり甲斐がないというもの。

 特にエンジョイ勢とか初心者のようなライト層には選ばれにくい環境だと思う。


「——ま、だからこそ俺はここを選んだんだけど」


 時には逆張り精神も大切だよな、うん。

 それはそうと、ちゃっちゃと目的地まで行くとしよう。

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