チュートリアルの次は

『——適正個体ガルーラダ、ランページジャガー、ヴィイミーの全撃破を確認。これに伴い修了試験を終了します。お疲れ様でした。三十秒後、ロビーへと転送します』


 あれ、なんか帰還までの時間が伸びてる。

 なんて思いつつ、今し方投げ捨てたショットガンを探していると、鬼軍曹の声が聞こえてくる。


『合格だ! 実力を示したな、傭兵よ! これで貴様は未熟な雛鳥から一羽の鷹へと成った! その功績を讃え、貴様を我がセプス=アーテル防衛戦線……特別に精鋭部隊への入隊を認めようではないか! 有り難く思うがいい!』


「……その感じだと、やっぱこっちに拒否権はねえのな。熱烈な歓迎どうも」


 まあ、別にどっちでもいいけど。


「それで……俺はこれから何すりゃいいの?」


『貴様には後で防衛任務をくれてやる! 我がセプス=アーテルに侵攻する不届きな輩共を蹴散らすのだ! 作戦開始までにはまだ時間がある。貴様はそれまでに準備を整えておけ! 貴様のその貧弱な装備では容易く蹴散らされるのが関の山だからな! それから作戦準備が整い次第、本部に来るがよい! そこで詳細な作戦内容を説明する!」


「なるほど」


 つまりここからは一旦、自由行動ってわけか。


 プレイヤーの任意である以上、鬼軍曹の指示に従うもよし、ガン無視して自分のやりたいようにするのもよし。

 けど、ひとまずは拠点内を見て回りつつ装備を一新するとしよう。


『修了認定試験はこれで以上だ! 戻ったら次の戦いに備えておけ!』


 ここで鬼軍曹は一度言葉を区切り、


『——しかし、今日は豊作だな。何せも精鋭部隊に入れるに相応しい人材を発掘できたのだからな』


 誰に言うでもなく、そんなことをボソリと溢した。


「……ん、二人?」


 今コイツ、二人って言ったよな。

 もしかして精鋭部隊って入るのに条件があったりするのか?

 そんで、俺の前にその条件を達した奴が一人いる……そういう事か。


「おい、それって——」


 しかし、鬼軍曹に言葉の意味を問う前にタイムリミットが訪れる。

 口を開きかけたところで俺はロビーへと転送されてしまうのだった。




————————————


ミッション『新人訓練を修了せよ』をクリアしました。


以下の報酬を獲得しました。

・5000ガル

・新人訓練修了証書

・セプス=アーテル防衛戦線精鋭部隊証


————————————








 チュートリアルを終えてから暫くして、俺は拠点内をぶらついていた。


 冒険をするにも防衛任務に参加するにも、まず回復アイテムのような消耗品とか装備類を充実させておきたい。

 その為、ショップを回るついでに拠点の中を散策しているわけだが——、


「想像以上に広いな……!」


 防衛基地やハンター協会といった自治に関する主要な施設がある中枢区。

 街の入り口であり、食糧プラントや武器開発施設が多く建てられた工業区。

 回復アイテムから武器、カフェやアパレルショップまで各種ショップが並んだ商業区。

 宿屋とか自宅(※購入の必要あり)のような宿泊施設や住居がある居住区。


 これら四つのエリアが中枢区を取り囲むようにして拠点は構成されている。


 多分、隅から隅まで探索しようとすると、一つの区画が終わるのにすら半日はかかるくらいの広さはある気がする。

 事実、徒歩だと中枢区から商業区に移動するのにすら結構時間がかかっていた。


 救いがあるとすれば、ファストトラベル機能があることか。


 一定の間隔でランドマークが設置されていて、そこを一度でも訪れればマップ画面から一瞬で転移することができる。

 この機能が無かったら、間違いなく移動だけで時間が溶けるクソ仕様だったぞ。


「ソマガだとちゃんと実装されてただろうか……?」


 機能自体はあっても、各エリアに一つみたいな感じになりそうだな。

 なんとなくだけど、あの運営ならそうする気がする。


「……ったく、そういう配慮の無さがサービス終了にさせたんだぞ」


 などと愚痴ったところで、目的地に辿り着く。


「……ここか」


 ガンショップ——『クラッシュ&バッシュ』

 大通りから外れた裏路地にひっそりと構えられた、銃系統武器を専門にNPCが切り盛りする武器屋だ。


 戦闘においてまず大事になるのは火力だ。

 例えタンクであってもそれは変わらない。

 それに攻撃は最大の防御——殴り合いにせずに倒せるのであればそれに越したことはない。


 というわけで早速入店。


「……あれ、お客さん? いらっしゃい、よく来たね」


 壁に色々な銃が飾られた薄暗い店内。

 中にいたのは、椅子にもたれながらタバコを吹かした女性だった。


 右目を完全に隠した金髪、切れ長な金の瞳、全身に纏うダウナーな雰囲気。

 なんというか女性から好かれる女性って感じの容姿をしている。


「武器を見に来たんだ。カタログを見せてくれるか?」


「いいよ。はい、どうぞ」


 女性が答えると、目の前にウィンドウが出現する。

 見てみると、アイテム名や値段といった取り扱っている武器の大まかな情報が記載されてあった。


「ふーん……結構品揃えがいいな」


 ハンドガンやマシンガンの他にグレランやら火炎放射器まで売ってある。

 けど、とりあえずはショットガンを見るか。


 散弾銃カテゴリのページに切り替え、ラインナップを確認する。




————————————


・シェルブレイカー:6000ガル


・ダンシングハイブ:12000ガル


・鬼ヶ島:21500ガル


………………

…………

……


————————————




 ——いや、高え!!!


 有り金全部叩いて買えるのが一番安いやつかよ。

 ううむ……これは、ちょっと想定外だ。


「はあ……どうすっかな」


 武器以外にも買っておきたいものはある。

 戦闘の安定性を求めるのなら、せめて回復アイテムはある程度確保しておきたいところだ。


 だけど、先行投資として今ここで武器を買ってしまうのも悪くはない。

 火力を上げて敵を撃破しやすくすることで、結果的に金策を楽にするって考えもできなくはない。


「……悩みどころだな」




————————————

精鋭部隊の入隊条件

・基礎訓練をクリアせずに修了認定試験を合格する。

・一度も倒されることなく修了認定試験を合格する。


精鋭部隊に入隊するとそれなりにゲームを有利に進められますが、RTAでもしない限り、無理に入る必要はないです。

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