耐久とゴリ押しのフィニッシュスマッシュ

 HP残り四割、MP残り三分の二。

 それから撃破対象はあと二体……か。


「リソースがキビいな……」


 ヴィイミーはハメ殺しができたからこの程度のMP消費で済んだけど、ガルーラダとランページジャガーも同じように倒せるかというと微妙なところだ。

 特に前者。


 ランページジャガーはさっきの攻防とかブラッドラビット戦の時みたくカウンターで散弾ぶっ放せば良いけど、問題はガルーラダだ。

 ずっと頭上を飛び続けているアイツをどうやってこっちの土俵に誘い込むか、その方法を見つけないと、千日手みたくなりかねないぞ。


「撃ち落とす……は、無理だな」


 ショットガンの射程圏内ではあるが、単純に俺のエイムじゃ当てれる気がしない。

 スプレッドショットで命中する確率を引き上げるってのも一つの手だけど、アビリティを発動させた弾丸って通常の弾よりもMP消費量が増えるから効率自体はあんま良くねえんだよな。


 ——ったく、直接攻撃しに来てくれたら色々頭を悩ませずに済むのに。


 けどまあ、今は考えても答えが出なさそうだし、ガルーラダは一旦放置してランページジャガーに狙いを絞るとするか。

 ガルーラダのことはひとまず後回しだ。


 大盾を構え、モンスター二体の攻撃に備える。


 相変わらず上空から飛ばしてくる炎の熱風を避けつつ、隙を見て攻撃を仕掛けるランページジャガーにカウンターの散弾をぶち込む。

 さっきまでは三体からの攻撃を捌かなきゃならなかったから反撃する余裕が無かったが、ヴィイミーが居なくなった現在であれば安定して殴り返せる。


 なんだかんだアイツの放つ闇の引き寄せ球が足を取られて一番厄介だったからな。

 機動力を奪われることを気にする必要がなくなれば後はこっちのもんだ。


 ランページジャガーの攻撃を大盾で去なす度に俺は散弾を炸裂させる。

 速攻で片付けたいからスプレッドショットで攻撃したいところではあるが、燃費の観点から放つのは通常弾だ。

 スプレッドショットはここぞという場面に温存しておく。


 初見の戦闘で下手に戦闘時間を伸ばすと事故率は上がるけど、俺のビルドは耐久戦に強く安定性にも優れた受け寄りの型だ。

 時間をかけてじわじわチクチクダメージを与えていく戦法とは相性が良い。


 そうしてガルーラダの攻撃に警戒しつつも少しずつ着実にランページジャガーのHPを削っていき、MPが残り二割まで差し掛かろうとした辺りでようやくランページジャガーを撃破に成功する。


「っしゃあ!」


 ランページジャガーの肉体が消滅するのを横目で確認しながら、俺は上空へと視線を向けた。


「——おい、いつまで高みの見物決めてやがるんだよ。いい加減こっちに来て遊ぼうぜ」


 指で手招きすると同時、俺はあるアビリティを発動させる。


 ”プロヴォーク”——敵のヘイトを一身に集める所謂、挑発のような効果を持つ。

 クラスをタンクにしているからこそ習得できたアビリティだ。


 これで直接攻撃とかのパターンに切り替わってくれたらいいが……。


「、っ」


 ——来る!


 発動から数秒。

 早速、効果が現れる。




「キエエエエエエエエッ!!!」




 ガルーラダは大きく翼を羽撃かせると、更に上空に舞い上がり——さっきよりも出力が上がり、範囲が広くなった炎熱波を繰り出してきた。


「って、ちがーう!! そうじゃねえええっ!!!」


 咄嗟にUターンをかまし、ジャンピングダイブで攻撃範囲から逃れる。


 ……あ、足先に炎が掠った!


 瞬間、HPが更に一割以上消失し、残りHPが四分の一近くになってしまう。


「うっわ、最悪……!!」


 残念ながら挑発で直接攻撃を誘い出す作戦はどうやら逆効果だったようだ。


 ……つーか、さっきからあの炎攻撃の威力高すぎだろ。

 耐久に寄せてなきゃ秒で消し炭になりかねないぞ、あれ。


 ともあれ、これで残るHPはおよそ四分の一、MPは二割程度。

 そろそろ本格的に追い詰められてきた。


「さてと……ここからどうやって巻き返すか」


 依然、ガルーラダが地上に降りてくる気配はゼロ。

 だけど、戦闘中ずっと空を飛び続けるってことはないはずだ。


 それだと近接アタッカーは、終始アイツに手も脚も出ない状態になるからな。

 修了認定試験とはいえチュートリアルなんだから、流石に何かしらの救済措置があると思われる。


 とりあえず被弾をしないように注意しながら、突破口を考えるとしよう。


 攻撃のタイミングに細心の注意を払いつつ、ガルーラダの動きを観察する。

 何度か飛んできた炎熱波を避けているうちに、ふとある事に気が付く。


「……あれ?」


 全身を纏う炎が弱まってる……?

 気のせいか……いや、間違いなく最初より炎の勢いが落ちてる。


 最初は新品のガスバーナーみたいだったのに、今ではもう燃料切れが見えてきたような感じになっている。

 あとなんとなくだけど動きも鈍くなっているように見える。


 もしかして……これがアイツの弱点だったりするのか。


 試しにもう一度、プロヴォークを発動させてみる。


(さて、これでどうなるか……?)


 発動から程なくして、ガルーラダがさっきと同様に翼を大きく羽撃かせる。

 しかし、今度は一段階強力になった炎熱波を飛ばすことはなく、繰り出したのは通常時と変わらない威力のものだった。


「なるほどな……身に纏った炎がそのまま残量みたいになってんのか」


 加えて、今の攻撃で全身を覆っていた炎が消え去っていた。

 ようやく流れがこっちに傾いた気がした。


「おい、次はどうすんんだ? 特攻でも仕掛けんのか?」


 というか、どうかお願いですから直接攻撃してきてください。

 もうこれ以上、飛び道具で攻撃されたらこっちの身がもたないから。


 そんな俺の祈りが通じたのか、次にガルーラダが取った手段は、待ちに待った念願の直接攻撃——上空から急降下で勢いをつけた高速の突撃だった。


「来たな!!」


 衝突のタイミングに合わせてパワーガードを発動させる。

 大盾で真っ向からガルーラダの攻撃を受け止める。


 刹那、全身に重い衝撃がのしかかる。

 威力を相殺し切れず、肉体が耐えられる限界以上の負荷がかかる。

 更にHPが残り一割になるまで減少してしまうが、それは向こうも同様だった。


 盾で殴りつけたわけでもないのに、ガルーラダは車両に轢かれたかのような勢いで後方に吹っ飛んでいく。

 全身を何度も地面を叩きつけられ、それでも勢いが止まることはなくゴロゴロと転がることでようやく動きが止まる。


 ——これ以上にない絶好の攻撃タイミングだった。


 すぐさま俺はクイックリロードを発動させながらガルーラダの元へと接近し、ショットガンの銃口を直接ガルーラダに突きつけ、スプレッドショットによる散弾を撃ち放つ。


 ここからはもう消耗度外視だ。

 完全ゼロ距離からありったけの弾丸を叩き込む。


「いい加減、これで終わりに……しようぜ!!」


 MPが完全に底を突くまで引き金を引き続ける。

 しかし、弾丸を全て撃ち切ってもまだガルーラダの息が残っていた。


 だったら——、


「おまけの一撃喰らいやがれえええっ!!」


 ショットガンを投げ捨て、右手に大盾を持ち替えてから俺は、渾身の盾殴りをガルーラダにぶちかます。

 盾との衝突でダメージを喰らったのなら、盾で攻撃してもちゃんとダメージ判定はあるはず。


 そう読んでの攻撃だったが、俺の予想は当たっていたようだ。

 貧弱ATKによる一撃だったが、攻撃をもろに喰らったガルーラダは動かなくなると、そのまま肉体をポリゴンの粒子に崩壊させるのだった。

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