初戦闘とクソエイム

『——実戦訓練:Iを開始。間も無く、シミュレーションルームへと転送します』


 今度はさっきの鬼軍曹ではなく、キャラメイク時のアナウンスがどこからか聞こえてくる。

 直後、初期リスポーン地点に移動した時みたく一瞬視界が白く染まると、俺はバスケットコートよりやや広いくらいの空間に立っていた。


「ここは……さっきプレイヤーが敵と戦っていた部屋か」


 床は白いパネルで埋め尽くされていて、壁と天井は半透明なガラスのようなもので出来ているみたいだが、ここからだと外の様子は窺えない。


 もしかしてワールドとは独立した空間になっているのか?

 そんでそれを立体映像として訓練場の部屋に映し出しているって感じか。

 アナウンスもシミュレーションルームって言ってたし、その可能性は十分ありそうだ。


「というかVR仮想現実にフルダイブした状態でシミュレーションルーム仮想空間に入るってよく分かんないことになってんな、これ」


 なんて呟いていると、


『来たか、未熟な雛鳥め! 貴様にはこれからスラッグスライムを倒してもらう!』


 再び鬼軍曹のアナウンスが聞こえてくる。

 それから少し遅れて、前方に光のエフェクトに包まれながら敵MOBが出現する。


 現れたのは高さ二メートル程の半透明な青い液体で形作られたゲル状の生物。

 ウミウシのようなシルエットをしたスライムだった。


 あれが記念すべきサガノウン初戦闘の相手か。


「うわっ、スライムにしてはでっけえ……」


『こいつは我がセプス=アーテルに侵攻を仕掛けてくる不届き者の一体だ。生半可な実力で挑もうものなら返り討ちに遭うのが関の山だろう! さあ、武器を取れ、未熟な雛鳥よ! 基礎訓練をすっ飛ばすその生意気さが蛮勇か無謀かどちらなのか我輩が見定めてやろう!』


 ……あれ、基礎訓練やってないの見抜かれてる。

 まさかチュートリアルの進行具合でセリフが変わったりするのか?

 だとしたら作り込みの凝りよう半端ないな。


 ——ま、何にせよ……だ。


「それなら目にもの見せてやるよ!! 鬼軍曹殿!!」


 戦闘態勢に入ると同時に身構えると、俺の意志に反応して右手にショットガン、左手に大盾がそれぞれ生成される。

 左手にずっしりとした重さが乗っかり、ちょっとだけ身体が前に傾く。


「おっとと……」


 想定だともっと軽いもんだと踏んでいたが、意外と重いな。

 ……いや、俺の筋力が足りてないのか。


 必要ないと思って攻撃ATKの数値をかなり低く設定したけど、それが裏目に出たようだ。


 ATKの高さが俗に言うSTR筋力的な役割も兼ねているか後で調べてみるか。

 けど、とりあえず今は目の前の敵に集中しよう。


「まずは一発!!」


 ショットガンを構えると同時に先制攻撃。

 景気付けにスラッグスライムに向けて散弾をぶっ放す。


「……ん?」


 しかし、弾丸は一、二発掠めただけで他は全て明後日の方向へと飛んで行った。




 つまり——思いっきり外した。




 あれれー?

 どしたー?


「おかしいな……TEC特化にしたはずなのに」


 正直に言うと、俺はそんなにエイムが良い方ではない。

 ショットガンをメイン武器を据えているのも、その低いエイム力を補う為だ。


 加えてこのゲームのアバターの操作性は他と比べてもずっと良く、精密動作性を高めるTECにステータスを伸ばしてある。

 それに俺とスラッグスライムまでの距離はおよそ二十メートル。

 十分、ショットガンの有効射程圏内のはずだ。


 にも関わらず外したってことは……、


「この銃……もしかしなくても欠陥品か!?」


『馬鹿者!! 貴様の腕が絶望的に悪いだけだ!!』

「うっせえ! 言ってみただけだ!」


 滅茶苦茶癪だが俺がクソエイムだってことは、俺自身が一番よく知ってんだよ……!!

 何せ、ゼネとティアに超絶馬鹿にされ続けてきたからな……!!


 ——アラヤ……お前、擁護のしようがないくらい射撃センスないな。

 ——ええ〜、なんでその距離でまともに当てられないの? たった十メートルちょっとだよ?


 みたいな感じに。


『喧しい!! 口よりもまず手を動かせ!!』


「理不尽だな、おい!!」


 というか、なんか自然に会話が成立してるのはスルーするべきか。

 指摘したらまたとやかく言われそうだし。


『さあ、敵の攻撃が来るぞ! 備えろ!』


「——っ!」


 咄嗟に大盾を構えると、スラッグスライムはその見た目に見合わぬ速度で飛び跳ねながら接近してくる。

 数瞬して大盾とスラッグスライムの巨体が衝突する。


「ぐっ、重っ……!!」


 液体で構成されてるとはいえ、二メートル近くもあればそりゃ重量もそれなりになるか。

 だけどな——、


「生憎、敵の攻撃を真っ向から受け止めるのには慣れてんだよ!」


 僅かに角度をつけて勢いを殺しつつ、スラッグスライムの体勢を崩す。

 パリイ系の能力がなくとも、ただの突進を崩すくらい造作は無い。


(隙が生じた……今がカウンターのチャンス!)


 くどいようだが俺はクソエイムだ。

 でも、例えクソエイムでも確実に弾丸をぶち込む方法はある。


 やり方は至極単純。


「狙う必要もないくらい近くでぶっ放せば解決だよなあ!!」


 ——超至近距離での射撃。


 飛び道具の利点を完全に捨てる代償に、確実に高火力を叩き込む。

 ただ、ショットガンは元から射程距離が短く、距離を詰めればより威力が絶大になるから他の銃武器と比べればデメリットがデメリットにならない強みがある。


 銃口をスラッグスライムに押し付け、散弾を炸裂させる。

 一発撃つごとに発生する一瞬のオートリロードを挟みつつ、動きが止まったスラッグスライムに向かって引き金を引き続ける。


 弾はプレイヤーのMPを消費して自動で生成されるから、弾丸の消費は気にする必要はない。

 ここはソマガでも似たような仕様だったから、ゲーム的にこっちの方がやりやすいのかもしれない。


 まあその分、一定のMPを確保する必要はあるけどな。

 だからステータス配分の関係上、純粋な攻撃力でいえばガンナーよりも近接戦闘をメインにするアタッカーの方が分があると思われる。

 じゃなきゃ、射程距離的にガンナーの方が有利過ぎるしな。


 それから更に数発散弾を命中させれば、スラッグスライムの肉体はポリゴンの粒子となって四散、そのまま消滅していった。

 こうして最初こそ躓いたものの、サガノウン初戦闘は快勝を飾るのだった。




————————————

ロールについて

[レンジ]

 戦闘時の適正距離を示すレンジは、

・クロス(近距離)

・ミドル(中距離)

・ロング(長距離)

 の三つに分類されます。

 どのレンジを選択するかによって使用可能武器が変わってきますが、複数のレンジで装備可能な武器があったりします。また、使い込んだ武器種であれば適正外のレンジに変更したとしても、引き続き装備することが可能となっています。

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