427話 ぼくたち以外の人たち

「お、飯か。 ずいぶん早いな」


「こ、これから戦いなんじゃないかな……だって、この大神殿ごとぜんぶ浮いたんだもん……」


「……だよな。 よし、気合入れて食べるぞ」


びっくりするくらいに暗い世界。


洞窟の中から上に出てきたらしいけど……ぼくたちの知ってる地上じゃない。


改めてここは、別の世界なんだなぁ。


そんな不思議な気持ちで、みんなでご飯を食べた。


「……うし、ないないの時間だ」


「うん、狩りしてないないしないとね」


かちゃかちゃ。


女神さまが、乗って来たのにたくさんの弓と矢を置いてくれている。


これで戦えってことなんだろう。


そうしてぼくたちが使いやすいのを束にしていくあいだに、アルテさまは空高くに昇っていって――。


……ぱぁっ。


「……すげぇ」

「綺麗だね……」


たぶんアルテさまがいるだろう場所――雲の上から、この前の洞窟で見た金色の光が降り注ぐ。


それはまるで、暗い世界を照らすよう。

ううん、手元が見えるくらいに明るくなってるんだ。


しばらくすると、遙か遠く――周囲の一面が、かすかだけど燃える光。


「――おい、アレク!」

「う、うんっ……!」


魔物の遠吠えが聞こえ、ぼくたちはすぐに矢をつがえる。


「――あたしたちの出番だ」





よく分からなかったけど、ものすごい数。


それが、出てきているらしい。


「で、ノーム様がこれ使ってあたしたち連れてってくれんのか」

「あ、ありがとうございます……たくさん狩れるようにがんばりますっ」


【期待】


ぴこん。


不思議な乗り物を、今回はノームさまが動かしている。


……アルテさまのよりずっと穏やかで、乗ってても怖くない。


なぜかキャシーお姉ちゃんはちょっとつまんなそうな顔してたけど、今度はみんな寝ちゃったりもせずに洞窟の前に――わらわらと、どこに撃っても当たるくらいに魔物が溢れてた。


「よーし! 今回はいつもみたく撃っては逃げてしなくても良いんだ! 存分に撃ちまくれ!」

「お姉ちゃん、最初に張り切って体力と魔力使い切っちゃわないようにね……?」


遙か遠くでは、ときどきまた綺麗な光がはじけている。


そんな不思議な感覚の中――ぼくたちは、みんなそろってくたくたになるまで戦い続けた。


【~♪】


……ノームさま、ずっとご機嫌な顔して乗り物動かしてたな。


おかげで当てやすかったし、乗ってて気持ち悪くならなかったし、何より役に立てたから、ぼくたちも嬉しかったけど。





「ふぅ……昨日の夜のもキいたわ」

「どうしてアルテさまってあんなに気持ちいい匂いするんだろうね……」


ほんとは、いけないことだって分かってる。

なんだか悪いことだって。


でも、やめられないんだ。


最初にお姫様たちがやり始めて、あんまりにも気持ち良さそうな顔してるからって一緒に混ざってから、ずっと。


ひと晩でも嗅がないと、なんだかむずむずするんだ。


そんな、次の日。


珍しくアルテさまに正面から向き合って、両手を握ってるノームさま。


「……なんかどきどきするな」

「うん……」


「あれか? 母ちゃんと父ちゃんみたいにおっぱじめんのか?」


「? 始める?」

「……あー、アレクは見てなかったか。 いや、その方が良いのか?」


他の人たちも、みんなわくわくして見守る中……ぴこぴこって短い言葉でアルテさまにいろいろ伝えたらしいノームさま。


いつもどおりなアルテさまが、いつも通りに優しい笑顔で応える。


――その瞬間、ぼくたちの心臓はわしづかみにされた。


「……ノームさまが……」

「ああ、やっぱ好きなんだなぁ」


村で、ずっと好きだった人に好きだって伝えられたお姉さんが、言えたって喜んでたときの顔にそっくりなノームさま。


「……ノーム様も女だったよな? 女と女じゃ、子供はできねぇぞ?」


「良いんじゃないかな……女神さまだもん、女の人同士でも」

「まぁな」


けど、その次の瞬間には――突風が吹いたかって思うと、アルテさまが消えていて。


「え……え?」

「おい、あれを見ろ!?」


お姉ちゃんが見つけた先。


そこには――すごく遠いから見えにくいけど、


「……人?」

「人、居たのか……! マジか……!」


【乗】


……ふぃぃぃん。


振り返ると、顔の赤みもそのままに、あの乗り物を起こしているノームさま。


「よーし行くぜみんな!」

「……うんっ」





「誰だろこいつら」

「言葉は通じないみたいだね……」


なんだか血だらけになった場所で、血を浴びて――ケガはしてないみたいだけど――立ち尽くしてる人たち。


「お、アルテ様がなんか言ってら」

「た、たぶん、この人たちをこれに乗せて……ってことかな……」


「だな。 喜べアレク、めっちゃ重要な仕事任されたぜ!」

「アルテさまたちに、お姫様たちみたいなあいさつの仕方……アルテさまたちの知り合いかなぁ」


そうしてぼくたちは、乗り物が静かに地面に立ってから――武器とかを寄せて、その人たちを立たせて、乗せる。


言葉は通じないみたいだけど、そんなのはここに来てからずっとだから。


「なぁ、アレク。 ひょっとして言葉が通じにくかったのは、こうやって知らない人間同士でも仲良くなれるために……いや、無いな。 済まねぇ、忘れてくれ」


ぽつり。


お互いに手とか顔、声っていうか音だけで大体言いたいことが分かるようになってるのを実感したのか……お姉ちゃんが、どこか遠くを見つめながらそんなことを言ってた。



◆◆◆



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