426話 町ごと浮かんだ!?
「良いなぁー、名前」
「うらやましいね、お姉ちゃん」
「ええ……とても羨ましいです」
「わたしたちもまだなのに……」
「い、良いじゃないっ! なぜかアル様の方が知ってたんだから! しかも1回切りだし!!」
みんなでキャシーを取り囲んで、とりあえずで嫉妬してるってことは伝えとく。
だってよ、あたしたちの中であの子だけずるいじゃん?
いやまぁ、助けられた立場で言うのもアレだけどさ。
最近は年上としての覚悟か、それとも元の性格なのか、気がつけばあたしたちのまとめ役みたいになってきている赤髪のキャシー。
けど、ちょっとつつけばすぐに元通り――最初この世界に来てちびってた、あたしたちのキャシーそのまんまだ。
そんなあたしたちは、夕方とあって風呂。
しかも普通の風呂じゃねぇ、なんとばかでけぇ神殿の中の湯浴み所って感じの……なんかこう、すげぇところだ。
「お湯自体は、家にしていた場所のあれと似ていますね」
「うん……浸かってるだけで切り傷とかなくなってく……」
なんであたしたちだけかって言うと、女神様たちは2人で話しているから。
しかも今日はノーム様がでっかくなってまともに話せるようになってるみたいなんだ……積もる話もあるだろうって、子供なりの配慮。
「恐らくは、魔力はすでに貯めていたのでしょう。 けれど、あのような場面のために半身のノーム様は使わずにいた。 そう考えられますね」
「アルアさま……あんなにすごい魔法使ったから、すごく疲れてそう……」
「魔力って使い切りそうになるとすっごく怠くなるし眠くなるのよね。 ゲーム的に言うとSPかMP使い切った状態なのかしら」
たまたま5人とも話せる時間みたいで、みんな思い思いに脈絡もなく言いたいことを行ってる状態。
けどこんな時間が、あたしたちにはぴったりなんだ。
「けどやっぱそっくりだよなぁあの双子女神。 胸の膨らみ方とかまで。 ホクロとかあったらおもしろいんだが、首から尻まで真っ白な肌だしな」
「お、お姉ちゃん……」
「良いだろ、あたしたちはまだガキなんだから」
「あんなに目と毛の色素が違うのに、体はおんなじなのよね……不思議。 人種とかの違いはなさそうだし……うーん」
ちゃぷり。
服の脱ぎっぷりは2人とも同じだったし、入り方も同じだった。
んで、あたしたちみたいな黒髪のノーム様は普段より嬉しそうで……密かにおんなじ色の髪ってだけで親近感湧いてるのが、あたしたちきょうだい。
人って単純だよな、似てるってだけで簡単に好きになるんだからよ。
いや、アルテ様が嫌いってわけじゃないぜ?
万が一、人柱になれって言われたら喜んで従う程度には好きだし尊敬してるからな。
ただ髪の色が近いから、なんとなくで「もっと」好きなだけだ。
まぁ何日かすれば見慣れるだろうし、気にしなくなるかもしれねぇけどさ。
「……でも、このビル。 こんなに大きいのに、誰も居ないのね」
「だな。 空から見たときも誰も居なかったし、近くにも気配はないみたいだ」
「こんなにおっきな町なのにね……」
みんな、ぐったりとした体を湯で温めるので精いっぱいだ。
だって……あんな、鳥みたいにしっちゃかめっちゃかに飛び回られたんだぜ?
あたし、死ぬかと思ったし死んだかと思ったよ……なぜか女神様たちとキャシーだけけろりとしてたけどさ。
「これほどの大神殿なのに……」
「み、見た目もかなり古いですし、何よりあの石碑が……」
そうだ。
石碑だ。
町の真ん中、普通なら広場になってる場所の――いや、なっていて、その中心にあんなバカでかい石碑があったんだ。
まず間違いなく、あの双子女神様たちの信徒が作った礼拝所なんだろうけどなぁ。
……てか、あの石碑より背の高い神殿とか、一体何百人で何十年かけて作ったんだろうな……?
◇
それからの神殿――いや、この場所丸ごと「聖域」って言った方が良いっぽいってお姫様が言ってたな――での暮らしは、これまでよりも格段に良くなった。
なにしろ魔物たちが寝床を奇襲してくる心配なんてしなくて済むくらいの高くて頑丈な塔に寝泊まりしてるからな。
むしろ体がなまってきたもんだから、みんな、どうにかして「狩り」に行きたいって伝えようとしたくらいだ……まぁ伝わらなかったけど。
そんな町を、今日も散歩の時間だ。
「すごいよね、お姉ちゃん……ここって」
「ああ。 魔物の出る洞窟とのあいだの壁も塞がってたしな」
前を話しながら――手と手を繋ぎながら歩いている双子の女神様、あとそのときの担当の誰か1人。
「あ、見て。 また不思議な金属落ちてた」
「お、どれどれ……ん。 帰ったら渡すか。 アルテ様、喜ぶぜ」
「う、うん……!」
もう魔物の襲撃はない。
その安心感で、気がつけば全員、気が向くところへ行ったり近づいたりしながら好き勝手するようになっていた。
ときどき女神様たちが見てくれてるし、何か用があれば呼んでくれるしな。
新しい土地を調べて回るこのわくわく感は、お姫様だろうと変わらないらしい。
「今はキャシーお姉ちゃんが面倒見てるね」
「さすがに魔物居ないんじゃ魔法ぶっ放さないだろうけど……やっぱ怖いからなぁ」
うっかりぶっ放されてあの壁をまた壊されたら、空飛ぶ魔物とかまでこっち来かねないもんなぁ。
……普段はぼーっとしてるようにしか見えないからなぁアルテ様は……こともすると、くしゃみとかしてうっかり爆破とかしかねないし。
あの女神様、普段はあたしたちより年下みたいにぽややんとしてるからなぁ……。
「けど、いつまで居るんだろうね、ここ……」
「さぁな。 あんだけの戦いしたんだ、魔力回復させんのに何年か掛かるかもな」
「……安全だしごはんはおいしいけど……お日さまの光とか森、ないかなぁ」
「あー、確かになぁ。 こうも薄暗いと……ん?」
女神様たちの会話はあたしたちのそれよりものんびりしたもので、いつもぽつぽつって感じだ。
なのに今日は珍しく話し込んでいたと思ったら――手招きしてる。
「何か、あるのかなぁ」
「また何かうまいもん出す壁の亀裂見つけたのかもな」
お姫様たちも駆け付けてきて、みんなで群がって。
あたしたちはもちろん――ノーム様の片手と羽をいただきだ。
◇
ぐぃぃぃん。
上と下に連れてってくれる箱が動いている。
「結局いつもの塔か……」
「まだ半分くらいしか探検してないし、今日はその残り……あれ、なんだか上まで行ってるね?」
ちーん。
不思議な鐘の音とともに、勝手に開く扉。
「屋上だったね」
「ひなたぼっこ……はできねぇし、一体何すんだ?」
――にゅるんっ。
「お、あれは空飛ぶ謎の物体」
「ぼく、あれ怖い……」
「けどよ、あれ出したってことは……『狩り』行けんぞ?」
「……我慢する!」
「かり!」
「ないない」
「ふんす」
他の3人もやる気に満ちている。
だよな、そろそろ――って。
「いやいや、武器とか持ってきてねぇぞ? 一応女神様の、あの汚ぇ袋に予備は入ってるだろうけどよ」
「あ……」
――ほんと、何するつもりなんだ。
その時点でよく分からない嫌な感じがした。
けど、まさか。
「……!?」
「ゆ、揺れてる!? いや、あの箱みたいに下から押されて……!?」
――その後まさか、真っ暗な地上によ。
町ごと箱にして上に行くとか……やっぱ女神様たちはちょっとズレてるんだよなぁ……。
「ふぇぇぇ……」
「……漏らしてねぇよな? アレク」
ついでにあたしも、さっき済ませてなきゃやばかったくらいにはびびったよ。
◆◆◆
本日「ヘッドショットロリハルちゃん」改め「幼女になった僕のダンジョン攻略配信」が発売されました。
重ねまして、最初から追ってくださった方々、途中から読み進めてくださった方々――最近になって130万字にもなっている、どえらい量を読破してくださった方々。
皆様のおかげで、今日を迎えられました。
今後も楽しいハルちゃんの愉快なお話を続けて参りますので、どうぞよろしくお願いします。
ただいま17章ですが、最低でも19章までは平日毎日投稿を続けて行く予定です。
「ハルちゃんがこれから何やらかすのか気になる」「おもしろい」「TSロリっ子はやっぱり最高」「続きが読みたい」「応援したい」と思ってくださった方は、ぜひ最下部↓の♥や応援コメントを&まだの方は目次から★★★評価とフォローをお願いします。
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