366話 【魔王戦争最終盤】4/白い家にて

【え? じゃ、ノーネームちゃん、やろうと思えば一瞬で地球から異世界へないないを?】


【あっ】

【しかも、空母を含めて20隻以上の船を……】

【ノーネームちゃん、無理しないで】

【それだけ過酷な戦いなのか……】


【まぁなぁ、ここで負けたら今度こそ終わりだもんなぁ】

【追加戦力……まぁ必要だよね】

【しかも、軍関係者なら多分この配信も見てるだろうから、着いた瞬間に状況把握できるしな】


【ハルちゃんとノーネームちゃんの世界だけじゃなくって、他の世界も巻き込んでの最終決戦だもんね】

【あ、配信画面  地上でも、次々と武装した人たちがないないワープから飛び出して来てる】


【あ、明らかに地球のダンジョン潜りっぽい人たちも】

【え? じゃあ、今手が空いてるやつは】


【……俺、いつでも行けるよノーネームちゃん】

【俺も】

【治癒魔法使えるし、私も行けるからね】


【だってよ、もしかしたら運良くハルちゃんの真下に出られてはいてなななななななな】


【何それ素敵  あ、もしかしてノーネームちゃんもノーーーーーーーー】


【ガタッッッッッッッ】


【草】

【あーあ】

【煩悩まみれで草】

【そして速攻ないないされてて草】

【なるほど、早くないないされたいならセクハラかませと】


【お前ら……行くならせめてちゃんと準備してからな……】

【いいな! 間違ってもセクハラコメントで武器も持たずにないないされるんじゃないぞ!!】


【つまり、準備してからならセクハラができるということでよろしいか】

【よろしくないが?】

【バカなこと言ってないで早く用意しなさい!】


【草】

【ひどすぎて草】

【もはや安定の視聴者】

【ハルちゃんの配信だからね……】


【あと、普通に地球のダンジョン化の方も大切だからな、ないないはほどほどにしとけ】

【だな】

【ノーネームちゃんも重いって言ってたし、ほどほどにな  マジで】

【一応こっちも大規模な戦闘中だしなぁ】


【ダンジョン化したところにいた民間人の救助、万が一に備えての待機、そして異世界での魔王決戦  よりどりみどりだぞ】


【不謹慎だけど、ちょっとわくわくしてきた】

【奇遇だな、俺もだ】

【俺たちでも力になれるって思うと、なんか元気出てくるよな!】

【ついに俺たちがハルちゃんたちの役に立てるんだもんな……!】





『――分かった。 私も今、画面で状況を確認した。 ……ああ、問題ない。 「以前に想定済みとして伝えてある通り」だ。 ……ああ、すぐに向かう』


かしゃん。


ベッドサイドへ受話器を置いた壮年の男性。


彼は、ただでさえ短い仮眠を妨げられて披露している様子で、顔もむくみ、疲れの色が強い。


『……お父様……申し訳ありません』

『良いんだよ。 これは、私たちの決定でもあるんだ』


電話の音を聞きつけてか、スーツ姿のままベッドに横たわっていた彼の元へ――年齢的に孫とも見える少女が、ドアを控えめにノックして入ってくる。


『なにより、私の大切な「娘」の頼みごとでもある。 たとえ議会から追及されようとも、私の独断ででもしていたさ』

『……お父様』


窓の外は暗闇で、明かりは心許ない空間。


グレーの髪を撫でつける――疲労のせいか、一気に老年に踏み入れたような「父親」に近寄って来た、ナイトガウンの少女。


年の頃は高校生ほどの、彼女たちの住む国では珍しくないものの「ファーストファミリー」として絶大な人気を誇る彼女。


スクールではトップ層に君臨している美しい顔に、スポーツで鍛え抜いた上に「ダンジョン潜り」としても活躍している、女性らしい体つき。


――そして長い長い「赤髪」を称えている彼女は、「父親」とは全く似ていない顔をしていた。


『これで、私たちが――合衆国がすべき仕事は』


『はい。 1年前の、「ダンジョンそのものが意志を持った可能性がある」ドラゴンへ「2発の新型兵器の使用」、そして今回の「空母打撃群の召喚」。 ……ここまでが、私たちの知っている範囲ですから』


『そうか……終わったか』

『……ごめんなさい。 この後の――魔王襲来まで、知っていれば』


『知らないものは仕方がないさ』

『ありがとう、ございます。 ……このあとのことは』


『問題ないだろう。 配信画面を見たまえ』


少女が手にしていたスマートフォン――その画面には、その国の言葉でのコメントが読み切れない速さで広がっており。


『どうかね?』

『「合衆国万歳」とか「よくやった」とか「異世界へ初めて軍を派遣したのは我が合衆国だ」、と』


『だろう? この国は、そういう性質があるからね』


彼は、『それが悪い面でもあるのだがね』と苦笑する。


『今回の我が国の活躍に、1年前の罪悪感も手伝い――後の調査で「私が大統領権限であの艦隊をあの地点に誘導していた」と知られようとも、むしろ支持率も上がるだろう。 何しろ、あちらで手が足りないからと引きずり込まれた、紛れもない「援軍」だからね』


『お上手ですね』

『君たちには劣るとも』


立ち上がった「父親」は、静かに赤髪の少女を「愛娘」として抱きしめる。


『娘の頼みなんだ、父親として聞かない理由がない』

『お父様、私はお父様に引き取ってもらっただけの』


『政治的な理由での養子だろうと、私の娘には関係ない。 普段から妻もそう言っているだろう? それがたとえ――――』


ぎゅっ。


抱擁が、苦しいくらいに優しくなる。


『――――「この世界の人間でない」としても、だと』


そっと抱擁を解かれた少女は――つい先ほども配信画面の隅の方で「ハル」と「ノーム」から要救助者を受け取った、幼い少女の面影を残していて。


『たとえ――消えてしまうとしても、その瞬間までは私の大切な娘だ』

『……はい、お父様』


涙をにじませた顔は――憂いを知っているもので。


『……ところでだな、娘よ』

『はい、お父様』


服を整え直した彼は、先日から抱いていた、特大の疑問を投げかける。


『……そんなに……素晴らしい芳香なのか?』

『この世の全てのかぐわしさを凝縮しています』


『それは、常識的な範囲で近づいても?』

『はい。 あらゆる存在が――少なくとも私たちの世界の生物なら、抗えません』


『だから君は、これまで1人もボーイフレンドを』


『あのお方と比べてしまったら、どんな素晴らしい男性も――ただの洟垂れ小僧、です』


『悪い言葉もすっかり覚えてしまったね……だが、それなら楽しみだ。 謝罪という形でも、彼女と会うのが』


『お父様? お母様に愛想を尽かされないようにがんばってくださいね? あの香りは、それほどまでに魅力的で蠱惑的で――悪魔的ですから』


『ははっ、異界とは言え神に対して悪魔とは。 ああ、努力するよ』

『問題ありません』


少女は、少しだけ大人びた顔で、言う。


『私は――――背教者ですから』



◆◆◆



『ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。』https://kakuyomu.jp/works/16818023211929600076も同時投稿中。男の娘にもご興味のある方は、ぜひお読みくださいませ。



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