360話 羊飼い仲間

【けど、3億5千万のモンスターとか】

【あの、地球で確認されたモンスターでも、せいぜい10万単位なんですけど……】

【億単位て……】

【助ける異世界のもひっくるめてるだろうしなぁ】

【ハルちゃんたちの住んでた?この世界の分が大部分だとは思うが】


【それでも無理って思えない大戦力】

【地球上でいちばんドンパチしてた時期の戦力を全部かき集めて並べても、とうてい敵わない数の陸海空戦力が集まってるからな】


【それこそ大量破壊兵器を、後先考えずに撃ちまくらないとってレベル……】

【ひぇぇ】

【これが……ノーネームちゃんがやりたかったこと……?】

【だろうな】


【通常戦力……いや】

【世界中――文字どおり、いろんな世界の「人間」】

【力なき人々も、力はあっても単体じゃ敗れるはずだった人々も】

【集めて並べて、ハルちゃんの旗の下に揃わせて】

【元凶たる魔王軍の本隊(仮)を、叩くための戦いか】


【これが……神話?】

【そうだよ?】


「おさけ」

「しまう」


「はいはい」


こくり。


「しまう」

「はいはい」


ちょびっとだけ残ってたのを飲み干したら急かしてくるノーネームさん。


もう、最後の1杯くらい良いじゃん。


ノーネームさんのけち。


【草】

【あの、肝心のハルちゃんが】

【ノーネームちゃんがないないさせたからセーフ】

【草】


たぁん。


どぉん。


どどぉん。


軽いものから重いものまで、鋼鉄の塊から発射される火薬の衝撃音。


うるさいって思ってのは最初だけ、ちょっとすれば耳がマヒしてなんにも感じなくなる。


その代わりに、肌とか内臓、羽とか髪の毛の毛先で感じるようになってきた砲撃音。


たたたたたっ。


ひゅううううん……どぉん。


空では、たくさんの飛行機が陣形を組んで、湧いて来る飛行系のモンスター、居ないときは地上のモンスターへ爆弾落としたり機銃掃射したり。


まるで戦争だね。


まぁ「これの規模をずっと小さくしたもの」が、ダンジョン攻略なんだけどね。


そう思うと、地球でも10年以上のあいだ、ずぅっと戦争し続けてたことになるんだ。


もちろん相手が人間じゃなくなってるから、そのへんはどうなのか分からないけども。


【戦争映画も真っ青な大決戦】

【なんなら今後、この映像使って作れそうなレベルまである】

【普通にドキュメンタリーでも満員御礼だな】

【来年のアカデミー賞とか総なめしそう】

【するだろうなぁ、いろいろな理由で……】


【相手はモンスターだしな、遠慮は要らないし】

【しかもでかいのが多いから映えるしな】

【各地? 各世界? 同一個体かどうかすら分からない、魔王による人類圏への侵攻】


【それに押し込められ、じり貧だった人類に一筋の光だもんなぁ】

【数十年経ったら完全に伝説になるやつ】

【未来永劫、人類が存続する限りには語り継がれるだろうな……】


「ほいっと」

「ほい」


戦いはみんなに任せて、僕たちは近場でポップした人たちを昨日の通りにさくっと救助。


『ほい!』

『ほいっ』

『あるあ……♥♥♥♥』


【あの、白髪妹ちゃん】

【指摘してやるな……】

【あれは心酔してる顔だ】

【ハルちゃんの匂いにな!】

【草】


【いいなぁ】

【幼い子供が完全にやられてやがる……】

【早すぎたんだ……腐ってやがる……】

【しあわせそう……】

【草】


さっきから、ワープしてきた陸上型のモンスターへもひっきりなしに砲撃とか空爆してくれてるけども、味方への――僕たちへの被害を出さないよう、遠くのでっかいのを優先するように切り替えたらしい。


近くへは小さい兵器による砲撃とか、ドローンでの近接戦とか。

それも、僕たちが近くによるとさぁぁっと引いてくれるから安心だね。


だから僕たちは昨日と同じように羊飼いしてれば良い。


「これ、あと何回やれば……ん?」


すっ。


イスさんにぎりぎり乗るかどうかって人たちを押し込めようとしてたら、横から差し出される腕。


「あ、ありがと……え?」


『――――――、――――……』


にこり。


笑顔を向けて来ていたのは――羽が生えてる人。


【!?】

【あー、確か昨日ハルちゃんたち助けてたわ、羽生えてる人】

【人……人?】

【綺麗】

【羽の生えた……女の子?】


【女の人も居るな】

【男も居る】

【やだイケメン】

【全体的に顔が揃いすぎている】


【なんか半分くらい、ひじょーにセンシティブな】

【水着って言うかヒモって言うか】

【大丈夫? BANされない??】

【ノーネームちゃんの強制配信を切断できるとでも?】

【眼福】

【ありがたやありがたや……】

【草】


【えっちな格好してる男女、あの、中にはツノとか尻尾とか生えてるんですけど】

【ノーネームちゃんに召喚されてハルちゃんに救われたんだ、どんな見た目だって「人間」だろ?】


【そうだな】

【言葉が通じなくても、意思が通じる  それが、人間だもんな】

【積極的に「人」を助けようとしてるんだから「人」だよな】

【「人」の定義、もう変わったね】

【地球の「外」を見たからな】


【ハルちゃんみたいに羽が生えてるタイプの人間……いくつも世界があれば居るのか】

【エルフ?】

【お耳は尖ってないみたいだが】

【あ、でも、今のハルちゃんくらいしか身長ないみたい?】


【でも大人の女性っぽいのも居るよ?】

【ぱっと見ただけで数種類居るのか】

【……そういう種族では?】

【シルフとか、そういう系統……?】

【まぁ、身長が半分と倍までは誤差だから……】


「……ん、ありがと」


思ったよりも小さい人だったから大丈夫かなって思ったけど、その人は難なく助けたばかりの人を抱き上げる。


周りを見ると、その人と似てる人たちがわんさかと。


「……もしかして、一緒にやってくれる?」


『――――、――――……』

『アル、――――――……』


なぜか頭を下げて口々に何かを言い出してるけども、多分そういうことなんだろう。


救助者を抱っこした人はぺこっと頭を下げて、すぐに町の方へ飛び始めたし。


「じゃ、こっちです」

「こっち」


イスさんがいっぱいになった子供たちも町へ送り出し、僕たちは別の集団へ飛び始める。


「イスさんに載せて、いちいち町と行ったり来たりしなくて良くなれば……相当の時間の短縮になりそうだね」

「たんしゅく」


そうすれば、もっと早く助けられる。


1人でも多く――助けられない人が出ないように。

そんな、理想論を――1秒でも長く実現し続けるために。


だって、僕の大切な――――――。


……大切な?


………………………………。


……うん、人命は大切だよね。


だからずっと、ダンジョンでの救助要請にもコスト度外視で応じてたんだし。


そのおかげ……おかげ?で、るるさんたちとも知り合えたんだし。

知り合えたっていうか、押しかけられて連れてかれたっていうか。


うん、ちょっとおかしい気がしたけども、僕の……人間としての普通の感覚だったね。



◆◆◆



お盆でお休みしたばかりで恐縮ですが、またないないされてきますので次回の投稿は土曜日となります。来週からは普段通りの週6投稿に戻ります。



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