331話 神話の戦い 3

『GAAAAAA――――――――――!!!』


無数の咆吼が、惑星を破壊せんと放たれる。


獄炎はそれぞれ引き合い、混ざり合い、渦となり――それらがさらに収束することにより、巨大な火の矢を形成。


『ジャッジメント』


それに対するは、思い思いの武器を放つ、金色の光。


純粋なエネルギーにして質量を持った両者の攻撃は、惑星の表面からほんの少しだけ離れたところで衝突。


「あっつ!? ――く、ない!」

「やはり、ノーネームさんが守ってくれているのですね……」


瞬時に飲み込まれる4人だが、爆風すら届かず、ただただまぶしいだけの数分を過ごすのみ。


【見えない】

【しょうがないだろ、トンデモ攻撃の衝突だ】

【これ、ハルちゃんたちのホーリージャッジメントより……】


【ノーネームちゃんのはえびるじゃっじめんとだぞ!】

【かわいいいいいいいいいいいいい】

【草】

【えぇ……】

【オートないない継続中で草】


全員が、爆発の晴れるときを待つ。


次第に光量が落ち着いてくると、そこには――。


【ひぇっ】

【なぁにこれぇ……なぁにこれぇ……】


「あれだけ居っても、まだ足りぬか」

「……ドラゴンの数が、多すぎます」


数を、半分ほどに減らした「ハルの同族」。


先ほど居たはずの場所へ、ひらひらと集まり出す彼ら彼女は……どう見ても「半壊」。


中には、意識を失ったか、それとも羽を失ったか、そのまま惑星へと堕ちていく姿。

それから少し遅れ、飛ぶ力を失った巨体たちも同じ運命を辿っていく。


「ノーネームちゃん! あの人たち! あの人たち、助けないとっ!」


「……ダメです、応答がありません」

「そんなぁ……!」


【ああああああ】

【ああああああ】

【ハルちゃんのお兄さんとかお姉さんかもしれない人たちが……】

【あんな攻撃でも、まだ足りないのぉ……?】

【魔王軍の総力、やばすぎない?】


【何がやばいってさ  これ、ドラゴンだけの攻撃よ? それも、見た限り群れの何割かの】


【あっ】

【そうだった……】

【他の戦力も、ダンジョンとか地上に……?】

【できるだろ、自分たちがワープしてきたんだ、部下を動ける場所に転移させるなんてことも】


「ハルの同族」が陣形を整え直す猶予を与える意志などない「魔王軍」は、容赦なく再度のブレス攻撃を展開。


ドラゴンたちもそれなりに被害を受けたようだが、それでもまだまだ後続が追いつき続け、広がり続け――それは、惑星の表面と相対するように、覆うように、光を遮っていく。


【もうおしまいだ……】

【ああ……】

【物量差がありすぎて……】

【この星も、地球も……】

【こんなのが来たら、ヘタすれば宇宙空間からのロングレンジ攻撃だけで地上は……】

【あっ】


今度の反撃は弱く――炎の矢は、瞬時に金光を飲み込む。


その勢いはまったく衰えないままに、金と銀と白でできたヒトガタたちを飲み込み、そのままに惑星表面へと蝕んでいき。


――ぱりん。


見えない力で押し戻され、薄く広がり――ほんの数秒で、惑星表面を覆っていたローポリゴンの1面が、砕け散る。


「……バリア、じゃったな」


「でも、それも、今……」

「……ハルさんの……ハルさんの……」

「このままじゃ、この下の大地も……!」


幾分か減衰した炎は、けれども勢いをそのままに――いや、惑星の重力と合わさり、むしろ加速しながら地上へと降り注がんとしている。


惑星の規模と比べると――その光景を眺めている人間からは比べられないほどのサイズゆえに、その落下していく速度は非常に遅く感じ、見ている人間の時間感覚を狂わせる。


「……ハルちゃん、ノーネームちゃん……っ」


もはや、見ていることしかできない。

もはや、祈っていることしかできない。


無力感。


――どさっ。


ちほが、膝をつく。


「……ちほ……」

「ちほちゃん……」


「――あの、炎の先。 島が、島が……人が、たくさん住んで、いたら……!」


「……うむ。 スケールが狂っているが、北海道ほどはあるじゃろうな。 いや、もっとかもしれん」


【北海道が、まるごと……】

【宇宙からのブレスで……】

【これ、やばくない?】

【島もやばいし、衝撃波で周囲も……】

【おろろろろろ】


【地球最後の日は、こうなるのか……】

【魔王軍……初手全面降伏論でなんとかってレベルだな……】

【情けをかけられて、ちょっとでも見逃されたら御の字か】


【ハルちゃんを捕まえて引き渡すとかいう、不敬にも程があるはずだった勢力の言うことが……】

【でもこれ、魔王たちが最初から破壊を目的にしてたら、俺たちの命も……】


あと少し。


もう少し。


彼らはただただ、上空の視点からはるか下の地上を破壊していく矢を眺めていることしかできない。


――もう、だめだ。


その映像を見ているものの大半が、力を失い、崩れ、吐き、発狂し、泣き叫ぶ。


けれども魔王軍の総力は矮小な人間の感情など知るよしもなく、そのまま地表を――――――――――。


『――――――――――ホーリー』


『えびる』


だが。


ぽつりと、小さな――けれども、確かに耳に届く声。


それは、映像を見ている誰しもが、恐らくはここ数ヶ月で身内以外で最も耳にしていた声。


『――――――――――ジャッジ』


すべての人間が耳を疑った瞬間に――炎の矢の先に、金と黒の渦が展開。


それはまたたく間に炎の勢いに追いつき、押し、押しのけ、亀裂を作り。


『めん、と』


――数秒の沈黙の後、まばゆい炎をさらにまばゆい光が飲み込み――上空へ向け、魔王軍へ向け、放たれた。



◆◆◆



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