330話 神話の戦い 2

光。


光が、惑星表面から放たれる。

それはまるで黄金の糸、黄金の矢。


あっという間に百を超え、千に迫るそれらは、1本1本が空へ空へと飛翔し――宇宙より飛来した黒の塊に衝突せんと突き進む。


しかし衝突の直前、ドラゴンたちはスピードを緩めることなく――彼らの目の前にシールドを展開。


その瞬間に爆ぜた光は、4人が思わず目を閉じるほどの光量。


そこから遅れ、ドラゴンたちの鳴き声と衝撃音が、るるたちを襲う。


「きゃっ!?」

「すごい音と揺れ……」


「足場は安定しておる、身を屈めておけば大丈夫じゃ」

「は、はいっ」


【うおっまぶし】

【見えない】

【見えないなった】

【だから暗い画面から急に真っ白系はやめてってー】

【洋画でよくあるやつなぁ】


しゃがんで身を守っていたるるが、少しだけ目を開ける。


その先には――先ほどまでの縦列の陣形が崩れて広く展開し、その隙間からぼろぼろと惑星へと落ちていく無数の個体。


「やった……?」

「いや、先鋒の何割も墜とし切れておらんな」


「そんな……あんなにすごい力で……」

「でも、今の、一体誰が……」


【光の矢……ハルちゃん!?】

【いや、すやすやだぞ】

【草】

【ああうん、ノーネームちゃんプレゼンツの寝息配信が続いてるねぇ……】

【リアルタイムでかわいい寝息が聞こえるもんなぁ】


「とにかくハルちゃんは無事なんだね!」


「るる、前へ出すぎよ。 ……そうでしたね、ハルさんの配信も、続いていましたね。 ちほも大丈夫?」

「え、ええ……配信で確認できるのは良いのですが、では……?」


攻撃を受けたからか、シールドを展開しながら惑星表面に沿って広がっていく群れ。


その数は、圧倒的。


まさに、魔王軍といった絶望感。


「……あれ、人が……」


惑星からの青い光を受けてはっきりと見えるようになった、ドラゴンの1体1体。


その巨体は、るるたちのようにかなり離れたところからは矮小にしか見えないが――「そんな距離からそれぞれがはっきり見える程度には大きい」ことが、改めて分かる。


まるで、巨人が降ってきたような錯覚を覚える漆黒の宙。


それに向かい、今度は光の矢ではなく――ドラゴンたちよりもずっとずっと小さく、けれども人間である彼女たちにとっては見慣れた姿が、ぽつぽつと現れる。


「人間……白い服……」

「歴史の教科書であんな感じの服を見たことある!」


「るるのメンタルの都合上見せませんでしたが、今のハルさんはあの格好をしているんです。 ええ、本当にそっくりの」

「ハルちゃんが……?」


「しかも――羽が生えておるな。 どれも、それぞれの身長を超える長さのそれらが」

「ええ。 ……これもまた、ハルさんに……」


1人、2人――100人、数百人、数千人。


弓、槍、剣、盾など様々な武装を手にして星から昇ってきたのは、どう見ても人間を模した存在。


ただし、羽が生えており――そもそもとして、成層圏を越えた宇宙にまで飛んできて生存できている時点で、人間ではないのは明らか。


【ハルちゃん!?】

【ノーネームちゃん……みたいな黒髪は居ないか】

【金、銀の髪……】

【また髪の毛の話してる……】


【でもやっぱ、ハルちゃん……】

【じゃないだろ】

【ああ、どう見ても大人だ】

【しかも男も居る……】

【ってことは……?】


魔力でまばゆく光る髪と羽を揺らしながら魔王軍に対峙するように展開していく、白い布を巻き付けたような服装に金色のアクセサリーを腰のあたりに、腕輪にサンダルとシンプルな服装。


そんな、成人女性、成人男性の見た目をした彼ら。


それらは、誰の目から見ても――特に、女性の方は。


【……ハルちゃんに、似てるよな……?】

【ああ……】

【女の人の方はハルちゃんを成長させた感じに、男の方もどことなくハルちゃんに似てる気が……】


「……ハルちゃんのお父さんとお母さんと、あと、親族の人たち? 家族総出? ご家族団欒? お出迎え?」


こてり、と、見たものを信じられないるるが漏らす。


「ハルちゃんそっくり……綺麗ー。 年末はすごいことになりそう」


【草】

【るるちゃん! 百人単位は家族とは言わないよるるちゃん!】

【どうしてこれで団欒ってワードが出てくるのるるちゃん……】

【なんで異世界で年末に集まるって思ってるのるるちゃん……】


【ああ、俺たちのるるちゃんが戻って来た】

【ああ……!】

【ぶわっ】

【るるちゃんファン、数ヶ月ぶりのるるちゃんに歓喜】

【感動するポイントがずれすぎてて草】


【でも、似すぎてるよな】

【ハルちゃんともだけど、それ以上にこの全員が】

【男女、それぞれみんなほとんど同じ顔……なんなら同じ……】

【美形の顔っていうのは、平均化した顔つきとは言うけど……】


惑星表面を守るように広がった羽の生えた存在たちが、まだまだ膨れ上がる――それらの数百数千倍の数を誇る魔王軍に対峙し、一斉に武器を構える。


『――――――――ジャッジメント』


彼らは異なる言語でそう唱えると、手元をまばゆい金色に光らせて武器を番え――同時に攻撃を開始する。


先ほどの何十倍にも上るだろうその攻撃は勢いよく飛翔し、次々とドラゴンたちへ向かい――。


「! シールドっぽいの、破った!」

「どれだけの威力なのでしょう……」


その攻撃のうち半数程度が今度は防衛機構を破り、先頭の個体から順に破っていく。


【あの……ハルちゃんのホーリージャッジメントほどじゃないけど……】

【ものすごい数の女神様?神様?たちから一斉の攻撃】

【みんな複数の同時攻撃してるし……やっぱハルちゃんの攻撃って……】

【この人……人?たちの……】


「……ハルちゃんの、お父さんお母さん。 それと、ハルちゃんの知り合いの人たち……」


「あれほど似ていますから、もう同じ種族と考えても良いでしょう。 特徴が、何もかもハルさんと同じです」


「成長しすぎているわ……ハルたんのようにもっと幼い個体は居ないかしら……せめて中学生くらいでないと……あっ」


「えみちゃん……」

「帰ったらカウンセリング、倍に増やしますね」


【草】

【えぇ……】

【えみちゃん……】

【なんでそんな感想がナチュラルに出るのぉ……?】

【もしかして:えみちゃん、相当のロリコン】

【それはそれで】


【もしかして:くしまさぁんが治療してる】

【ロリコンって……治るのか?】

【さぁ……?】

【不治の病、それがロリコンだ!】

【えみちゃんは俺たちの希望】

【えみちゃん……】



◆◆◆



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