329話 神話の戦い 1

「の、ノーネームちゃん! もっと近くで……うわぁ!?」


「っ!?」

「急に、景色が……!」


【おろろろろろ】

【ろろろろろろ】

【ノーネームちゃん! ノーネームちゃん!】

【助けてノーネームちゃん!】

【草】


【ノーネームちゃんもハルちゃんも視点移動激しすぎ!!】

【神様たちの動体視力は人間にはムリなの! 加減して!!】

【ノーネームちゃんったらもーろろろろろ】

【良かった、ハルちゃんの急な動きに備えてゲロ袋用意しといて】

【俺みたいにトイレから実況すれば特に問題はないぞ!】

【えぇ……】


るるが「あの地球みたいなのをもっと近くで見たい」と言おうとした瞬間に、4人は「その惑星」に限りなく近い場所へと――転移していた。


「の、ノーネームちゃん……もっと優しくぅ……」

「ノーネームさんは、今でもるるさんの言うことを聞いているんですね……」


「る、るる……迂闊にお願いをしちゃだめですよ……?」

「よーく分かったぁ……」


【草】

【かわいい】

【えみちゃんもふらふらしてる】

【爺は?】

【直立してる】

【すげぇ……】


【あ、これ、よく宇宙ステーションから映してる光景に似てるな】

【でけー】

【これ地球?】

【いや、こんな形の陸地、地球には……】

【それになんか……光ってない?】


彼らの足元には、巨大な球体。


青い海に茶色や緑の陸地、白い雲――そして、編んだ糸のように張り巡らされている、様々な色の「線」とでも表現すべき何か。


それが、まるで低解像度のCGのポリゴンのように、薄く惑星表面を囲んでいる。


「ふむ……魔力じゃの。 恐らくは」

「魔力……それが、星の上空を……?」


「地球で言う、レイラインのようなものでしょうか……とても可視化できるレベルではないと聞きましたが……」


「それが、バリアのようになっているのかもしれんの。 この星の……魔法を駆使した文明の防衛機構というものとして」


「……待って。 ということは、あの魔王軍……この星を、侵略しに来ているの……!?」


【あっ】

【もしかして:前哨戦】

【地球に行くついでの侵略……?】


えみの発したひとことで、みなは言葉を失う。


「……ハルさんのとき。 あのとき、あの地下ダンジョンは地球上のどこでもない可能性があった。 そうですよね?」

「ええ、確か……」


「自爆して予備の体を失った龍――あ奴が、今度こそ自らの肉体と部下を引き連れて……ということかの」

「このままでは、まだダンジョン内……でしょうか……だとしてもそうでなかったとしても、ハルさんたちが……!」


【ゑ!?】

【この星の地下にハルちゃんたちが居るってこと!?】

【確かに、ないないの途中なら可能性は……】

【ノーネームちゃん! ノーネームちゃん!!】

【急いで逃げてー!?】

【逃げるってどこによ!?】


【というかさ……その……ハルちゃんたちって、今……】

【すやすやしてるよ……?】

【草】

【あー、あっちは夜だったわな】

【ちょっと前にいつものサバトが終わったもんなぁ】


「さばと? そういえばえみちゃん、配信、私もそろそろ見ていいの?」

「そんなことより、とにかくノーネームさん! すぐにみなさんを起こして、避難を……!」


漆黒の空を見上げると、もう、ドラゴンの1体1体が見えてくる距離にまで迫っている。


「ふむ……どのような攻撃をするのかは分からんが、あの数はちと不味いのう」

「ノーネームちゃん! ノーネームちゃんってば!!」


【ノーネームちゃんの反応なし?】

【いや、でも、さっきはるるちゃんに】

【ハルちゃんたちの配信も、みんなぐっすりのままだし】


【もしかして:ノーネームちゃんのコピー(仮)、ノーネームちゃん本体に干渉できない】


【えっ】

【あー】

【なるほど】

【その可能性もあるのか……】

【不干渉って言ってたしな……】


「ノーネームさんのコピー……とにかく、なんとか連絡はできないでしょうか」


彼女たちのカメラに向かい、表情をこわばらせるちほ。


「……できないと、せっかくここまで来たのに……っ」


彼女は、ぎゅっと、肩からかけている救護班の装備を握りしめる。


【くしまさぁん……】

【くしまさぁん、なかないで】

【ノーネームちゃん! 起きよう!】

【起きないとハルちゃんでえっちな妄そうううううううう】

【草】



【auto-nainai】



【えぇ……】

【ないないだけされてもなぁ……】

【ていうかさ、このままだとないない先の人たちも……】

【やべぇ、ハルちゃんたち起こす手段ないじゃん】


「……これは、ないないのエラー……つまり、ノーネームちゃんは、私たちをここに運ぶ予定はなかったってこと……じゃあ、なんでこの場面に? 予想外の事態? それともノーネームちゃんに何か……?」


ぶつぶつと、迫る魔王軍に怯えながらも考える、るる。


「そもそも『ないない』ってどこに……? 大切にするって言ってたし、ノーネームちゃんはハルちゃんが好き……ウソなんかつかないはず……」


「さすがに儂でも、宇宙空間では動けぬしのぅ……」

「魔法でも……いえ、私たちの、それも補助的なものでは、あれらに傷ひとつ着けられないでしょうね……」


【もうだめだぁ……おしまいだぁ……】

【え? おしまい? え?】

【俺のないないされた親父とおふくろと妹は?】

【私の親族郎党は……?】

【草】

【お前ら……】

【かわいそう】


【でも、こんな大群が宇宙から押し寄せてきて、そのまま地上を焼き尽くしたら……】

【物量だよなぁ……】

【ドラゴンってブレス使えるし……】

【なぁ……?】


【ここをさくっと攻略して、次の目的地は地球とか?】

【あるいは地球ですらも、ただの中継地点とか】

【じょばばばば】

【怖すぎる】


刻々と迫る――次第にそれぞれの鱗の色がはっきりしてきたドラゴンたち。


色とりどりのその巨体たちは、もはや絶望の象徴。


――こんなの相手は、ムリだ。


そう感じ、打ち込む手の動きが止まり、次第に勢いが衰えるコメント欄。


「……ノーネームちゃん? あなたは、何を見せたかったの?」


ぽつりと、そうつぶやく、るる。


その瞬間、


『――――――――ジャッジメント』


どこからか。



「遠いはずなのに耳元で聞こえる」声が、その魔法の名前を発する。


その途端――惑星の表面が輝き、一斉に金色の光が飛び出し――魔王軍の先頭へ、まるでひゅうと飛んでいく矢のように向かっていった。



◆◆◆



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