283話 【悲報・やっぱり始原だった】

「さて、ノーネームちゃん。 この老いぼれも……ふむ」


片手を長いあごひげに当て、少々思考する彼。


「儂は死人。 以後の発言のすべては、儂という人間の残骸が発したもの。 公的にはそうなる……間違いないの?」


鋭い視線が――かわいそうな大臣に直撃。

彼は何回も首を振ると、そのまま泡を吹く。


【大臣かわいそう】

【かわいそう】


「良し。 ではの」


その場の全員に対して、腕を軽く上げて別れを告げる老人。


そして。


「――わし、死ぬ前に1度だけで良いからハルちゃんと一緒に風呂に入ってじゃな、本来なら小学校の後半にもなるとおなごなら嫌がるようになるのにあの気にしなさで平気で一緒に入ってもらってじゃな、ちっちゃくてかわいいハルちゃんと洗いっこして『おじいちゃんの体じゅうにある傷、男らしくてかっこいいですよ』って言ってもらってじゃな、できたらあの子を養子にして毎日『おじいちゃん』と読んでもらいながら世話をしてもらって、なんならめんどくさがりなあの子にわしの剣技スキルを伝授し、嫌がらないのなら儂がこの10年で築いてきたすべてを受け継がせてじゃな、あとついでに毎日添い寝したり毎日でも風呂入ったりしてじゃな、あ、そうじゃ、さらに言うならばあの子が成長して魅力的な女性になるまで毎日あの子の成長を風呂で確かめその蠱惑的で天使的な女神の肉体が完成するのを――――――――」


「………………………………」


「………………………………」


「………………………………」


「………………………………」


「………………………………?」


「………………………………?」


「………………………………?」


「………………………………?」


高らかに話していた彼の声が消失し、さらには彼自身も喪失して数十秒。


「………………………………?」


「………………………………?」


「………………………………?」


「………………………………?」


その場の誰もが、自分の耳と現実を疑う。


……そして。


【草】

【えぇ……】

【悲報・じじい、やべーじじいだった】

【草】

【草しか生えない】

【あの、今ものすごーく良い場面だったはずなんですけど……】

【怪文書を口頭で言うとか】

【今何分かかった!?】


【まさか、正当な手順でないないされるとは……】

【正当な手順でないないだって!?】

【草】

【やめて、おなかいたい】

【ちょ、ちょっと待って? 今の、ダンジョン協会会長兼始原のリーダー的な最重要人物が放った言葉なの!?】


【なぁにこれぇ……なぁにこれぇ……】

【本当になんだよこれ!!!】

【草】

【じじい、やりやがった】


【あねご♥「ずるーい! あたしもハルきゅんとお風呂入りたーい! 触りっこしたーい! ……なんでないないしてくれないの!?」】


【草】

【姉御ぉ!!】

【みんなが「どうしようこれ……」ってなってる国会でんなコメントしてんじゃねぇ!!】

【もうめちゃくちゃだよ!!】


【ああ、やっぱ始原ってちょっとおかしかったんだな……】

【あの、これ、全世界中継……】

【知ってる】

【もうだめだ……】

【ああ……】

【この国そのものがちょっとおかしいってバレちゃった……】

【あ、大丈夫、それは結構前からだから】

【草】





【あの、遺された人たちが大変なことに……】

【そらそうよ……】

【なんか発狂して退出させられたのが十数人とか】

【そらそうよ……】

【多分マジメな人ほど致命傷ってね】

【それな】


【あんだけの感情と恐怖のジェットコースターを実地で浴びたんだ……察してやれ】

【情緒破壊されてそう】

【大丈夫、ハルちゃんの配信観てたら慣れるから】

【それもそうか】

【草】


【なお世界中のニュース番組や配信サイト】

【ただいま絶賛発狂中】

【そらそうよ……】

【なまじ、みんなハルちゃんの配信とかの解説を毎日やってある程度知っちゃってるからね……】

【知らないのは幸せってこともあるんだね】


【やっぱり始原はちょっとおかしかったね!】

【ちょっと……?】

【ちょっとだよ?  ハルちゃんに比べたら】

【ああ……】

【主神だもんな!】


【ていうか巻き戻してさっきのとこ何回も見てるんだけどさ  爺さんたち、「10年前からハルちゃんのことを」って言ってるよな……?】


【言ってるな】

【考えたくない】

【考えて】

【やだ】

【やだぁぁぁぁ! もうやだぁぁぁぁ!!】

【あ、マジでごめん】

【草】

【かわいそうに……】


【もしかして:ハルちゃん、10年前からぶらり地球の旅してた】

【えぇ……】

【ありうる……ハルちゃんならありうる……!】

【ちょっとのつもりが10年とかやってそう】

【やってそう】


【ぶらり地球1周おしゃけとグルメ巡り?】

【ありありと浮かぶな!】

【で、10年くらいして「ちょっと飽きたから久しぶりにダンジョンで狩猟生活してみよっかな」とか言ってそう】

【言ってそう】

【AIで出力する?】

【お願い】

【草】


【あのさ】


【やめて】

【だめ】

【帰って】


【ぼくがかいたほうこくしょ!!! いっしょうけんめいがんばってかんがえてかいたはるちゃんのほうこくしょ!! いちねんかんずっとなんかいもなんかいもかきなおしてきたほうこくしょ!!! ほら!! ごじゅっせんちもあるの!!!!】


【草】

【かわいそう】

【ガチでかわいそすぎる】

【今からそれに何の価値もなくなる可能性があるからな……】


【でさ】

【やめてあげない??】


【10年前のダンジョン出現のときにハルちゃんが来たなら……10年前も、魔王軍……撃退してくれてた?】


【えっ】

【あっ】

【え? ハルちゃんもしかしてガチで女神様?】

【どうやらその可能性が高くなってきたな……】

【繋がってしまったな……】

【いやいや……いやいや】


【でもハルちゃん、そんなことひとことも】

【言うと思うか?】

【ごめん、俺がどうかしてたわ】

【草】

【言わないよねぇ……ハルちゃんのあの感じだと】


【「めんどくさいから」で自分の功績すら忘れてそう】

【忘れてそう……】

【なんなら女神だったことさえ忘れてそう】

【ありえる……ハルちゃんならありえる……!】

【呑んだくれて記憶飛ばしてそう】

【草】


【あのさ】


【またぁ……?】

【もうやめて】

【おしえて  おしえて  あたらしいほうこくしょかくの  たのしいの】

【かわいそうに……】


【ハルちゃんって、元々JKサイズ?だったんでしょ? それが願いのなんちゃらでちっちゃくなっちゃったって……それって、魔王軍と戦って弱ってただけなんじゃ  願いのなんちゃらだって、ノーネームちゃんへのお願いだし……そもそもノーネームちゃんさえ、ヘタすればハルちゃんと一緒に異世界から……?】


【   】

【   】

【   】

【   】

【   】


【あーあ】

【そっとしといたげて】

【まぁ発想が飛躍しすぎだとは思うが】

【ハルちゃん研究家たちにとっては充分過ぎる理論だな!】


【ハルちゃん研究家たち(各国首脳部】

【ハルちゃん研究家たち(全世界のダンジョン関係研究者】

【ハルちゃん研究家たち(全世界の俺たち】

【とうとうハルちゃん自身が動かなくてもこうなるのか……】


【まぁ時間の問題だったし】

【今後はハルちゃんだけでなく始原の動向もチェックしなきゃいけない関係者たちかわいそう】


【発狂したくなければ情報を追っかけるのやめなきゃいけない  でも気が付くと次の配信とかコメント欄とかで新事実とか新説がぽんぽん飛び出す】

【かわいそう】

【かわいそう】


【ハルちゃん……女神でも天使でも良いからさ、この人たちを救ったげて……】



◆◆◆



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