225話 光る弓矢、和弓形態

【けどさ、羽で飛んでるにしては視界が安定してね?】

【飛んでるのは魔法なんだろ】

【あー】

【羽はお飾りか】

【多分「飛ぶ」って意識すると羽ばたく程度なんだろうな】


【まぁサイズ的に、例え幼女でも浮かび上がらせるのにはもっとデカい翼必要なはずだし】

【そもそも浮く羽が生えてる時点でもう普通の人間じゃないし……深く考えてもムダだよ】

【それな】


【ハルちゃんだもんな!】

【草】

【もう、それでいいよね】

【結局天使とか女神になる前からなんにも変わってなくて草】

【やっぱ最初からちょっとおかしかったんだよハルちゃんってば】


僕は浮かんでる。


後ろではばさっばさっと動いてる羽。

僕が動かしてる羽。


周りを見てみると……君たち、まーた這いつくばってるの。

好きだねぇ……。


【子供たちがひれ伏している】

【そらそうよ】

【自分たちを救った天使がおもむろに浮かんだんだ、そりゃあ平伏もするわな】


ふわふわと浮いてる僕。


なんとなく落ちないって感覚があるから、そのまま吹きさらしの窓になってるとこのヘリに足を引っかけ、ちょっとだけ外の空間へ。


「む。 索敵能力高い……あ、そういやさっき上から見てたときも、かなり離れてたのに見上げられてたっけ」


【こわいよー】

【怖すぎて草】

【ここ、何十メートル上空みたいなのに、地面を周回してるモンスターたちが】

【全部立ち止まってこっち見てる】

【マジで怖くて草】


【え?  異世界の魔物、索敵能力からしてケタ違いなの?】

【あっ】

【……ハルちゃんって、真横スニーキングしてもモンスターに気づかれないようにできる隠蔽スキルあったよな……?】

【い、今は使ってないだけ……だよな……?】

【天使の輪っかが光ってるから……だよな……?】


【いやいや  中級者ダンジョンで初心者が歩いてても、こんな距離から発見されないぞ】

【もしかして:本場のモンスターたち、やばい】

【レベルもスキルもケタ違い……】

【ひぇぇ……】


【こんな環境でドロップ品は低品質とか……】

【なんなの?  この殺意】

【ダンジョンそのものが厳しすぎる】

【この世界のダンジョンの外……人類居るの……?】

【なんならこの子たちが最後の生き残りでもおかしくない】


モンスターたちは僕を見上げて……威嚇してきてる。

けども飛行系は居ないらしく、特に何をしてくるでもない様子だ。


『あるてー』

『のーむー』


ノーネームさん?


「……居たんですかノーネームさん」



【当然】


【♥】



【ノーネームちゃんかわいいいいいい】

【ちゃっかりハルちゃんの肩に乗ってるノーネームちゃん】

【ちょこんとしてかわわわわわわわ】

【肩出しなハルちゃんの肩に乗るって言う役得ノーネームちゃん】

【きゃわわわわわわ】


【ハルちゃんそっくりだから! ハルちゃんと瓜二つだからかわいいな!  お、これならないないされない】

【草】

【そんな抜け道が!?】

【なるほど……あくまでハルちゃんを健全に愛でる分にはOKなのね】

【どんな理屈よ!?】

【だってノーネームちゃんだぞ?】


肩の上にへばりついてるノーネームさん。

落ちちゃわないか気になるけど……羽とかあるし、多分大丈夫なんだろうね。


「別にいいけど……落ちないでね?」


でも言っとく。

もし落ちてったらかわいそうだし。



【♥】


【♥】



とりあえずノーネームさんの頭を指の腹でなでなで。

撫でるたびにハートマークが浮かぶのがかわいいね。


「……そうだ、モンスター」


肩乗りノーネームさんを愛でてる場合じゃないって思いだした僕は、あらためて目をつぶって「あのとき」の感覚を思い出す。


……こうやって飛びながら。


確か――「普段通りに攻撃する感覚を両手に送った」はず。


「……あ、出た」


両手に魔力が流れる感覚に目を開けると――そこには、あのときの光る弓矢。


【うぉ、あのときの】

【マジか……】

【ハルちゃん、本来の獲物はそれなのね……】

【弓矢か  遠距離攻撃手段としては王道だな】

【投石、弓矢  銃が登場しても現役の攻撃手段だもんな】


【ダンジョンのおかげでむしろ一般的になったまである】

【なんならハルちゃんの配信のおかげでスリングショットが輝いてるまである】

【あ、ハルちゃんのおかげでスリングショットの連盟さん、受付制限するレベルで申し込み殺到だってよ】

【草】


【まぁ、これ観てたらねぇ……】

【スリングショットが格好良く見えるよね……】

【見てる母数が違うからな】

【母数(全世界・数十億】

【ヤバい展開のときはダンジョンに興味ない人でもくぎ付けだもんな!】

【ここからは弓矢が大人気になっていくのか……】


左手に長い弓、右手に数本の矢。


それらは自然に馴染んで……僕は矢をつがえ、まだ男だったころに通った、公民館の道場で習った通りに和弓の引き込み方をする。


ぎり。


ぎりぎりぎりぎり。


【ハルちゃん、今、右手になんにもつけてなかったよな……?】

【なんでカケと弦の音がするんですかねぇ……?】

【ハルちゃんハルちゃん、これ洋弓……洋弓はこんな音しないの……】

【ふぇぇ……】

【ハルちゃんは……もうなんか、遠距離攻撃の概念なんだ  きっとそういうの超越してるんだよ】

【もうそれでいいや……】


【打ち起こしからして和弓のやり方なんよ】

【天使も和弓を使う時代か……】

【万能なハルちゃん】

【ハルちゃんならもうなんでもありなんだよ……】


洋弓とは違って、右も大きく引き込むスタイルの和弓。


なんでも飛距離と貫通力を重視してるんだとか、そんなのを聞いた覚えがある。


それでいてなによりも、使う力に対しての威力が洋弓よりも高いんだって。

そんな説明が気に入ったから覚えてる。


「……とりあえず、消えてくださいね。 あの子たちが怖がってるんで……すっ」


きゅんっ。


弾けるような音がして、矢が放たれる。


弓がくるりと後ろへ回りながら矢をさらに押し出して加速度が付くのが――一瞬の時間でよく見える。


いつもとは違って、自然に威力が加算される矢。

そんな矢は、細い細い光の弦に押され――。


「「「――――――ギャアアアアア!!!」」」


「わ。 きれい」


【草】

【ハルちゃん……とうとう本性が出て来たね……】

【あの、何十体のモンスターに同時で矢が……】

【昨日のみたいに、途中で矢が分裂したのか?】

【シャワーみたいになってる……】

【なぁにこれぇ……】


【これがホーリージャッジメントか……】

【しゅごい】

【これが遠距離スキルの到達点……】

【まぁ人類に再現できるかは分からないけどな!】

【まぁハルちゃんだし】

【さすハル!】


土煙がもくもくしてしばらく……晴れてくると、モンスターが居た場所がめり込んでて。


「結晶になってる……じゃあ、ここのダンジョンは普通の感じ……」


【やっぱそうか】

【じゃああのダンジョンはなんだったんだよ】

【分からん】

【地球のダンジョンもああなってるのは確認されてるし……地球のどっかだったんじゃね?】


【でも地震はどこでも……ああ、トカゲがやらかしたか】

【あー】

【あのイモリのせいで誤解しかけたぞ!】

【おのれ爬虫類!】

【両棲類とか細かいことはどうでもいい! あのヤモリめ!】

【草】

【そこでいつもの流れよ】

【だってハルちゃんが遠いとこ来ちゃってる元凶だもん】



◆◆◆



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