211話 なんか出せた
ものすごく広い空間。
ばかみたいに広い空間。
さっきの宇宙みたいなのとは違って、物質的に広い。
物理的に広い。
印象としては……って言うか遠くに天井も壁もうっすら見えるから、きっと洞窟……つまりはダンジョン内の大部屋。
……壁が1辺しか見えないってのは大部屋過ぎるけどね。
ワンフロアまるまるって言われてもおかしくないくらいだ。
そんな薄暗い空間の地面に這う、無数の影。
モンスター。
モンスターの大群。
それらのちょっとだけ上には羽ばたいている飛行系モンスターたち。
……それらが豆粒みたいにしか見えないって時点で、僕たちの上にあるはずの天井はとんでもない高さってこと。
つまり、この部屋もまた……普通じゃない広さ。
「……準備してた魔王さんの手下さんたちでしょうか」
【こわいよー】
【一面モンスターとか地獄過ぎる】
【しかも奴ら、行進してるよな……?】
【ああ……並んでるわけじゃないみたいだけど、走らずに団体行動してるな……】
【おいトカゲ! 卑怯だぞ!】
【そうだそうだ!】
【爬虫類はこのノーネームちゃん見習え! かわいいいいいいい】
【草】
【ノーネームちゃん、こんなときくらいいいでしょ!?】
【ノーネームちゃんのこだわりは一流】
幸いにして、ひゅうううって絶賛加速しながら落ちてる僕たちはまだまだ高いところに居るし、まだ気が付かれていないらしい。
モンスターたちはゆっくりもぞもぞと、どこかへ向かって静かに進んでいる。
【あの先に何があるんだ】
【そりゃあもう 地球へ向かうんじゃない?】
【ひぇぇ】
【あんなの来たら、地方どころか小国なんて数日で壊滅だぞ】
【うちの国だってあっという間だな……】
【倒】
【?】
お人形さんになったノーネームさんが見上げてくる。
……無表情でセリフだけ浮かび上がるのって地味に可愛いね。
「……そうですね。 よく分かんないけど、元の体に近づけたみたいですし」
女の子の体、しかも幼女になった直後は、とにかく筋力体力不足に悩まされたし、レベルもスキルも落ちてた気がする……測定してなかったから分からないけども。
そこから数ヶ月であっという間に元に戻るどころか追い抜いたけども、そうなる前の男の僕は、もうちょっとだけ高かったはずなんだ。
【やっぱりハルちゃん……】
【近づけた ってことは】
【朗報・ハルちゃん、もっとおっきくておっきかった】
【悲報・ハルちゃん、もっとおっきくておっきかった】
【やめて……これ以上成長しないで……】
【幼女なハルちゃんがしゅきなの……お願い……】
【BBBBBBBBBBB】
【キャンセルキャンセル!!】
【進化しないで、幼女に戻って】
【お前ら、ハルちゃんが喜んでるんだから喜んでやれよ】
【だって、あのつるぺたっぷりが最高だったんだ……】
【だってハルきゅんが……】
【うう……】
【つらい】
【死滅しかけているハルちゃんロリ派・ショタ派】
【かわいそうに】
「……魔法……魔力……範囲魔法……極大……」
体の中の感覚に意識を集中すると、さっきまでとは全然違う感じ。
体の中が広くなっているような、窮屈だったのが楽になってるような。
僕は、初級魔法しか扱えなかった。
いわゆる適性ってのが僕にはなかったもんだから、魔法はろくに使えなかったんだ。
地味に楽になる系の筋力増強とか隠蔽とか索敵とか、基本弱っちい体を底上げする系の……つまりは魔力ってのがよく分からなくても体を強化するのだけを知っていた。
けども。
「……懐かしい……」
なんだか、昔は使えていたような。
そんな、不思議な感覚。
【ハルちゃん、攻撃魔法まで使えたんだ……】
【堕天してたあいだは使えなかったのね】
【懐かしいってことはそうだな】
【もしかして:ただでさえやべー幼女ハルちゃん、さらにやばくなる?】
【大丈夫、幼女じゃなくなってるから】
【そういう問題じゃないが】
【草】
お腹の中の、子宮。
そこから――体相応に広くなってるそこから、体全体に広げるように貯まっていた魔力を流し込み始める。
【あ】
【下の】
【モンスターたち、こっち見てる】
【こわいよー】
【数千……どころじゃない、数万数十万のモンスターが一斉に見てくるとか怖すぎる】
【あ、飛行系がこっちに】
きぃぃぃぃん。
耳鳴りみたいな感覚。
体の中で、魔力が動いている音。
そっか。
魔力って、こういうものなんだ。
【邪魔】
【ダメ】
ノーネームさんがちっちゃな手を下に差し出すと……下の方を飛んでたモンスターたちが、ぼとぼとと落ちていく。
ノーネームさんすごいね。
【あ】
【ちっちゃなノーネームちゃんが】
【ちっちゃなお手々出したら……あの……】
【飛行系がみんな落ちて、その周りも巻き添えに……】
【もしかして:ノーネームちゃんも強化】
【いや、今のノーネームちゃんってばお人形さんじゃん!?】
【なぁ ラスボスとかってさ、強くなると小さくならないか?】
【小さくなって人型になってるし……】
【え?】
【あっ】
【いやでも、それってマンガとかゲームの世界で】
【だってさ 「そもそもダンジョンでさえ10年前まではマンガとかゲームの世界の存在」だったんだぞ?】
下の方で土煙。
「ありがと」
【♥】
【HELP】
【アアアアアアアアアアアアアアア】
【?】
【!!】
【??】
【アアアアアアアアアアアアアアア】
【草】
【ノーネームちゃん、弱すぎない?】
【ハルちゃんに弱すぎて草】
【コメント欄で荒ぶっているノーネームちゃん】
【そらそうよ】
【ノーネームちゃん、ほんとハルちゃんには弱いのね】
【まぁハルちゃんしか見てないレベルだし……】
【るるちゃん相手だって逆らえなかったレベルだしなぁ】
体じゅうに充満した魔力。
それを、両手に集中……いや。
「使いやすい形」に、変化させる。
【ハルちゃんのおてて】
【光ってる】
【いや、なんか出て来たぞ】
【……弓?】
【もう片方は矢だな……金色に光ってる、多分魔力の】
そういえば、最近弓矢は使ってなかったなぁ。
なんか両手に形成された魔力の塊を見ながらそう思う。
「……矢を、たくさん」
弓につがえた矢を、持ち上げてから引き込む。
――1本だけじゃ、せいぜいが数十体。
それじゃ、全然足りない。
だって、あの数――そのまま地球に来たら、誰かが犠牲になる。
そんなの、困る。
そんなの、やだ。
「……たくさんたくさん……全部、撃ち抜いて……」
ぎりぎりぎりぎり。
きちきちきちきち。
弦が立てる音が聞こえる。
力が限界まで貯まっていく音が聞こえる。
「――――――――いっそのこと、『全部撃ち抜いちゃえ』」
◆◆◆
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