141話 はじめてのだんじょんはいしん(真) その3

【ハル「僕は大丈夫です。 ただ少し……合わない靴にしてしまっていて。 ご心配おかけしています」】


うん、ウソじゃない。


僕が大丈夫だと思い込みたいのも、歩きにくいのが買ったばっかの女児靴だからってのもね。


だからセーフ。


【お、コメント】

【途中では珍しい】

【さすがのハルちゃんもコメント見たか】

【ハルちゃーん】

【良かった良かった、体調不良じゃなくって】

【原因も分かってるなら安心できるな】

【さすがはまじめさん】


とりあえずで普段の何倍もの速さのコメントへ、大丈夫アピール。


……で、でも……いつも通りなおかげで……声も出さなくって手も映さなくって、ほんと良かった……!


や、本当にね。


身バレ……幼女バレはしてない……多分。

こっそりと、ほっとひと息。


けど気をつけよ……幼女なときに幼女ってバレて凸られたらなんかいろいろ怖いし……大人のお兄さんたちは怖いんだ。


……両手を上に伸ばして、カメラの向きはしっかりと。


これだけしておけばなんとかなるよね。

うん。


ライフログ的な趣味の配信だもん、ちょっと疑問に思われてたって別にやめなくたって良い……よね?


個人情報には気をつけてたから何にも分かんないはずだし、そもそもここがどこかってのも、これまで話したことないし……。


まぁ近所の人ならなんとなく「この辺のダンジョンかな?」って分かるだろうけども。


分かってから……どんだけ早くても1時間くらい後で潜ってきても、その頃には僕ももっと深いところか、あるいは隠蔽索敵マシマシでこっそり抜けるかのどっちかだし。


う、うん。


休憩したら、声出しちゃわないように……あと、なるべく普段通りを意識してがんばろ……。





「――うむ。 急に連絡をして済まないね」


とある重厚感のある一室で、秘匿回線を用いた電話の声。

その声の主が座る前には「会長」と書かれたプレート。


「ところで『ハルちゃん』だが……うむ、お前さんもか」


彼の手元には、ディスプレイ。


そこには「ハル」と名前のあるユーザーの配信画面、そしてもうひと窓開けたところには――「ハルちゃんこと征矢春海くん」。


「ああ……珍しいから見てしまうタイプだからこそ、妙にハマった彼の配信だが……そうか、頼む」


彼が操作するのに合わせ、配信画面を隠さない程度に広がったアプリには「彼」の個人情報が一覧となって現れる。


征矢春海。

25歳男性、独身。


協会に登録済みのレベルは2年前で、中級者の入り口。


しかし1ヶ月前の協議では「中級者どころか、もう上級者入りしてるんじゃない?」「そりゃそうだ」と結論づけられる。


そもそも初級者になれるのが素質、魔力を持てるかどうかで足きりがあるのに、そこから中級者になり……たったの2年で上級者の域。


「彼」には才能も根性も――適性、相性も「ダンジョン」というものに合ったのだ。


「彼が配信しているダンジョンの詳細は送った。 ……彼に悟らさぬ程度にの。 何、無事なら構わんのだ……しかし明らかな体調不良なら、偶然を装った一般の人間を使い、帰らせて……うむ、頼む」


「10人」の共有する最重要情報を再度確認しつつ、「彼」の住む場所から、現在攻略しているだろうダンジョンを割り出して……送信。


「『盟約』により、徹底的にソロな彼だからこそ干渉は最低限、鑑賞は最大限――だが、独り身な男子というものは得てして自身に疎い。 念のために回復魔法の使えるものも同行させ――」





配信。


時代は全世界総配信時代だ。


改めて考えると異常な世界。

9年前まではあり得なかった世界。


でも、世界は変わったんだ。


それは僕みたいな個人……しかも有名になるとか考えてない趣味も含めると、正しい表現。


今どきの子は、小学生からタブレットもスマホもある。


僕が物心ついてからダンジョンが出現した世界……きっと、僕より下の子たち――それこそ「この体くらいの子」たちにとっては、配信って言うのはごくごく当たり前のこと。


僕の世代にとっては生まれたときからスマホがあるって言う感覚なのと同じで、今の世代にとっては生まれたときからダンジョンと配信がある。


もうすぐ10年だもん。

そりゃそうだよね。


……たぁん。


【ナイスショット】

【いつも通りモンスターは映らないけどな】

【ちょうど良いや、俺もちょっと休憩にしよ】


それが時代の変化だ。


僕たちの世代は「物心ついた頃からスマホがあるからなんとかかんとか」なんて言われてたけども、そんな言葉は数年おきに更新されるもの。


人類なんて単純で愚かだからしょうがないよね。


おまけにダンジョン関係は、国策として子供でさえ投入してるから、やる気さえあれば配信機材はすぐに手に入る。


親たちも、子供が一攫千金だからって万歳だし、ダンジョンで有名になるのはむしろありがたいって言う価値観。


本ばっかり読んでて、同世代の1個上の世代な価値観の僕としては、上司の世代が頭抱えてるのを見て納得もできる。


……これ、ダンジョンが出現しなかった世界からしたら戦時中も真っ青な光景だろうね。


で、そんな世界で、僕ももれなく同じコトしてるわけだ。


そのおかげで生計立てられそうってのもあるし、そのせいでこうなったとも言える。


けどなー。

ダンジョン潜らない手はないからなー。


なまじ適性がなければすんなり諦められたものを、僕はあったもんだから……こうなってる。


ダンジョンは昔からのRPGよろしく前衛と後衛、その中で細かく仕事が分かれて、そこに補助的な戦力として荷物運びとか、食事係とか世話係とかのお仕事が生まれた。


もはやこの世界は、ダンジョン無しじゃ暮らせない。


ある日急になくなったら?


この世界の失業率が10%20%跳ね上がるだろう。

大騒ぎだね。


ほんと、ゲームみたいな世界になっちゃったなって思う。


けどま、なんだかんだ仕事が生まれたら儲かるわけで、僕の小さい頃の大不況も見る影もない。


おかげで副業がもちろん可、ダンジョン配信の予定を好きに組める会社に入ったわけだけど……このままじゃクビだよねぇ……。


「はぁ……」


改めての絶望感に、声を出さないようにため息をひとつ。


男が幼女になったとか頭おかしくなったって思われるだけ。

こんなの上司のおじさんおばさんたちに言っても通じない。


【今日はちょっと変だったけど大丈夫そうだな】

【変だったのは最初の数発だけだったもんなぁ】

【動かないのは普段通りだし……安心した】


【ハルちゃんぺろぺろ】

【おっと、盟約によりノータッチだぞ】

【分かってるって】



◆◆◆



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