40話 僕のバズりってやつはなかなかのものらしい。 え? 違う?

【通称「ハルちゃん」。 普通の配信者とかアイドル系みたいに名字とか公式な設定は無し】


【「ハル」は多分本名?】

【深く追求すると後述の理由により消される可能性ありとの噂】


【ダンジョン配信業界の超新星……というか隕石というか絶滅をもたらす隕石群というか、とにかくやばいやつ】

【たったひとりで何もかもを変えつつある幼女】


 【ロリ・ショタ・合法ロリ疑惑の諸説あるが性格な年齢と性別は不明】

【ただし配信での声から、男でも声変わり前のショタなのは確実】

【↑みたいな一部過激ショタ推しはスルー推奨】


【殺戮の天使】

【呼吸ごとにヘッドショットする幼女】

【幼女の概念を変えた幼女】

【もしハルちゃんがショタなら俺もショタコンで良いや】


【天然さん】

【天然幼女(真性】

【天然幼女(やばいやつ】

【天然幼女(ショタを熱望するやべー勢力含む】


【遠距離職・斥候職のことごとくを発狂させた幼女】

【来年からダンジョン研修の内容総取っ替えな噂】

【良くも悪くも革命をもたらした幼女】


【デビュー配信(るるちゃんショック以前を除く)からたったの10日で同接世界ランク入りのやべーやつ】


【るるちゃんが相方(または保護者、または被保護者、またはヤン……おっと誰か来たようだ】

【「ふたりはるるハル」でのんきに楽しめたのはたったの数時間だけ】


【やべーやつ】

【貧乏属性】

【お父さんっ子】


【海外からの認知度もやべーやつ】


【外国語や機械翻訳で『ハルという子について知りませんか』と来たら黙ってこちらへ通報→<URL>】



「……なんですかこれ」


「ハル」「配信」「ダンジョン」で検索した最初のWiki的なのを上から見たら……なんか変なことになってる。


しかも金髪ロングの女の子なイラストがたくさんあるし。


……どう見てもその大半は……。


「ハルちゃんだね! 人気者だよ!」

「いや、僕こんなんじゃないですよ?」


「え?」

「え?」


「みんな大げさですね。 ……ああ、これが配信の空気ってやつ?」


「……本気で言っているのがハルだよな……」

「ここ数日、本当に本しか読んでいませんでしたものね……」


「?」


ごくごく自然な形で僕の部屋、僕のベッドでくつろいでいる女の子たちが集まってくる。


いや、集まらなくて良いんだけど?


「これ、どうしたらいいんでしょう」

「ハルが不快に思うのなら削除申請を出すが?」

「ああいえ、そうじゃないんです。 ただ何て言うか」


【『始原』と呼ばれる、チャンネルを開設してから1年以内に登録して現在まで支え続ける10人、それに姉御と呼ばれるショタコンが確認できるだろう】


【彼らがハルちゃんの古参と認定されている】

【オフ会でハルちゃんの雄姿を語り合うやべーやつら】

【全員顔見知りらしい】


【唯一でハルちゃんとだけがお互いに知らない】

【コメントで曰く「アイドルとファンは明確な区切りがあってこそ」という高潔さ】


【だからこそハルちゃんについてリアルを追求してはいけない】

【深淵を覗いてはいけない】

【覗いたら……ごめんなさい冗談ですから助け】


「この、男子校の悪ノリそのものです。 僕は共学でしたけど」


「……そうだな、こういうのは男性リスナーが多い気がするな……」

「うん、そうだねぇ……女の子はこういういじり方しないもん」


「そうなんですか? じゃあ女の子はどんな」


「知らない方が良い」

「知らない方が良いと思うよ?」

「知らない方がハルさんのためです」


「あ、はい」


普段はばらばらなのに、こういうときだけ団結する辺りが女の子だよね……ってのは言わないどこ。


確かに男は男なりに、女の子は女の子なりに異性への憧れがあるんだろうしさ。


……例えば男は、もう今の時代は紙の本じゃなく電子書籍で


「ハルちゃん?」

「僕は不快じゃないですけど、結構ウワサだけが歩いててどうしようかって思ったんです」

「……………………………………」

「ね?」


危ない危ない。


何でか知らないけどこの子、特定のことを考えるとなんかじとっと見てくるんだよね。


「……ハルが不快でなければ現状は放置で良いだろう。 そもそも明らかに悪意のあるものや、偶然であってもハルの真相に当たってしまったものに対しては適切な処置をしているからな」


「そうなんですか?」

「ああ、事務所の総力を挙げている」


あー、こういうときに事務所さんってのは助かるよねぇ。

中抜きもとい中間管理職的な……仲介業者的なものへの感謝。


ああいうめんどくさい仕事してくれるならお金も払いたくなるよね。


【本気でハルちゃんの正体を探ってはいけない。 るるちゃんがホーミングしてくるぞ】


【配信中のコメントがBANされるレベルのものでない内容でも、特定の話題への粘着は避けるべき。 頻繁にコメントしていたIDが急に沈黙する件が多発している。 これは深谷るるちゃんの不幸が何らかの影響をお呼びしていると推測される】


「るるさん?」

「私はなんにもしてないもん」

「ほんとですか?」

「ほんとだもん」


ぷいっと顔を背けるるるさん。


……まぁあの子が自分で呪い様ってのコントロールできるんなら、死にそうな目には遭わないだろうし。


「けどほんと、設定盛られに盛られてますね。 誰? って感覚です」

「ハルにとっては都合が良いだろう。 何しろどこまでが本当か分からないのだからな」

「それもそうですか」


木を隠すにはって言う。


実際ここまで属性ばっかりだと、この僕を見てもるるさんたちと一緒じゃなきゃ分かんないだろうってくらいにはね。


……いや、金髪碧眼っていうのは目立つかぁ……いやまあこれは変装スキルでカラーリング変えられるし……。


「それで、次の配信だが」

「出て良いんですか?」


「ハルさんは普段、週に3回ほど配信していましたよね。 別に私たちは止めようとはしていませんよ」

「あ、そうなんですか」


てっきり止められるかって思ってた。

だからこのマンションからの逃走経路とか確認してたのに。


「ただし、ご協力いただけるのでしたら、次はるるさんとの距離を測らせてもらいたいと上司が」

「どういうことですか? 九島さん」


「ハルさんとるるさん。 おふたりともがダンジョンの何かしらで今のような状態になっていますよね」

「そうですね。 僕は女の子に。 るるさんは不幸体質に」


「その不幸体質の方は……ハルさんが罠を避けるよう誘導してくださったので確実ではありませんが、恐らく『避けられないレベルのそれは、おふたりがすぐ近くに居ると発動しません』」


んー?


……………………………………。


……あー、なるほど。


るるさんひとりきりだとドジっ子レベル。

で、僕とある程度近い数階層の距離だと破滅的になってたっけ。


でも直近の配信では手を繋ぐ距離で、僕が罠から遠ざけられた。


「だから、ハルさえ良ければ」

「僕たちの距離をダンジョンの中で検証するってことですね。 別に良いですよ」


「……いいの?」

「と言うか呪い様だっけ? が発動してもケガとかするのはるるさんだし……その対策できてるなら?」


高校生にして両親が大ケガしたって言う、るるさん。


……僕には言わなかったけど、きっと学校とかでも嫌な思いはしたはずなんだ。


「ああ、私たちがるるの周囲を警護する。 今までもそうしてきた。 ハルとるるが同じダンジョンに潜ってしまった最初のときほどのものはなかったしな」


「そうですか」


つまりは同じダンジョンに潜らなきゃ干渉しない。


……あれ、でもそれまでも不幸体質って……まぁいいや、るるさんの世話してきたえみさんの言うことだから何か知ってるんだろうし。


けどもあのときは僕が78階層、この子が77階層――落ちてきてそれだから、たぶん10階層くらい離れたところで大変なことになってた。


その条件とか知りたいってことね。


「それにハルは、やっぱり1人で配信したいんだろう」

「配信と言うよりはダンジョン潜りですけどね。 何て言うか、あの空間が心地良いので」


「……心地、良いんですか……?」

「ああ、配信でも言っていたな……」


「? 狭くて静かで暗くってひんやりしてるとこって良くないですか?」

「……ハルちゃん、お布団に潜って本読んでるときあるもんね……」


何でか知らないけどね。

男のときはここまでじゃなかった気がするけど……まぁいいや。


「あ、始原さんたちが『あんなにしゃべって疲れてないかな』って心配してたね」

「なにしろこれまでは配信で会話をされていなかったようですから」


「特には。 僕、目的がないと言葉を発しないだけな質なので」


特に疲れたとかそう言うことはないけども……ひとりでのんびりが楽しいよね。


「では、次はそのように告知しておこう。 明日か明後日にするか?」

「はい、3日以上潜らないと禁断症状が」


「禁断症状、ですか?」

「はい、手が震えるんです」


いつもしてることを止めると、体がむずむずするよね。

特にこの体は幼いからそういう衝動には敏感なんだ。


「……ハルさん」

「九島さん?」


「アルコール依存症の治療。 受けましょう?」


「え、やですよ絶対どんなことがあってもそれだけは絶対やですそれされるくらいなら隠蔽スキル駆使して逃げおおせますしそれで1年くらいはまた隠れ通します絶対にどんなことがあっても」


「……ハルさん、ほとんどのことは心配するくらいに『それで良いです』なのに、お酒と読書だけは……」


「それが生き甲斐ですから」


生き甲斐だぞ。

なんならお酒止められたら脱走する勢いだぞ。


こんな体になったんだ、もし「極悪非道幼女誘拐犯」ってことにされた場合を考えてセーフハウス的なのは何カ所かあるんだぞ。


教えてないけどね、誰にも。


秘密基地ってのは秘密だから秘密基地なんだから。


【なお、配信で飲酒について発言していたが】

【#####このコメントは削除されました】


「あ」


「こういう感じで完全に抹消はできないものの『さすがにそれは無いな』と思わせられるように記事にも手を入れてある」

「……こういうところにも、全部……?」


「ああ。 おかげでうちの事務員たちの今月の給与は先月の倍だそうだ」

「うちは公務員ですので1円もつきませんけど、みなさん楽しそうです」


ああ、民間と公営の格差。


……機会があったら九島さんとこの人たちに菓子折でも送っとこ。



◆◆◆



40話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


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