4章 実感のない有名な僕と、お忍びリリさんと
39話 お引っ越しって楽しいよね
「なるほど、ここが」
「候補の中からハルさんのご希望に沿うものを選んだつもりですが……」
「なかなか良いと思います。 特に家賃がタダってのが」
「あ、あはは……ハルちゃん、人気者になっちゃったからね――……」
「るるさんのせいですね」
「そうだね! ……じゃないよ! そうだけど!」
今日の僕たちはとあるタワマンってのに来てる。
タワマン。
タワーマンション。
雲の上の存在って言うよりも、そもそも物理的にもお値段的にも高いところに住むのはめんどいって理由で住みたいとすら思ったことないし、ましてや僕がこの歳で住むことになるとは思ってなかった。
そんな、駅前の高いビルの20階のお部屋。
うーん……綺麗過ぎて落ち着かない気がする……。
あのボロいけど広いアパートが気に入ってたんだけどなぁ。
「後日上司から改めて……とのことですが、ハルさんは今、要保護対象になっていますから、警備のしやすさも兼ねています」
「はぁ、たしか外国の人が攫いに来るんでしたっけ?」
「はい……ハルさんの持つ情報があまりにも大きすぎまして……」
ポニーテールのまぶしい九島さんが申し訳なさそうに言う。
「よく分かりませんけどタダで1室貸してくれるなら何でも良いですよ。 タダほど高いものはないんです」
「ハ、ハルちゃーん……ちょっとは悩もうよう……」
「節約は大切ですよ?」
なんでもあの配信の最中、僕がるるさんとかに話してあげたいろいろ。
そのうちの何かが……なんかすごいものだったんだって。
説明されてもよく分かんなかったのは、僕の頭がめんどくさいのを放棄してるのか、それとも頭のいい人の説明は通り抜けやすいのか。
……それとも、脳の処理能力が幼女に近づいているのか。
なんてね。
今のところそんな気配はないけど、ちょっと言ってみたかっただけ。
「ハルちゃんってすごいねぇ」
「配信で完全に呆けていたるるが言うと説得力があるな」
「もー! えみちゃんのいじわるー!」
「冗談だ。 あの配信でるるのファンも増えただろう?」
「どーせ私が不幸しなかったのと、ハルちゃんと一緒だからって理由ですよ――……」
「そうむくれるな。 コラボなんてそういうものだ」
るるさんが……勝手に備え付けのベッドにダイブしてうだうだしてる。
いや、別にいいけどさぁ……君、僕のこと男だって……意識してないよね、そうだよね……。
「でもこれからは私たち、ご近所さん!」
「ホテルに泊まってたときと変わりませんね」
「やったねハルちゃん!」
「そうですね」
「……そっけないようだが、かと言って突き放すわけでもなく……断ることもあるが基本的にはるるには甘く、読書中に髪の毛をいじらせる優しい幼女……」
「ヘンタイさん」
「わんっ!」
「気をつけないとほんと、どっかで漏らしますよ? それ」
「大丈夫だ! 気を張っているときには絶対にならないからな!」
「えみちゃん……」
「えみさん、次回のカウンセリングも来てくださいね」
「ああ。 何を話したのか良く覚えていないが、何となく心地よかったからな!」
……それ大丈夫なの……?
それ本当にカウンセリング?
洗脳とかって言わない?
僕からの評価が初日からヘンタイさん、だけども一般的には美人系で女の子にモテるタイプな子って印象のえみさんは今日も元気だ。
……僕の何がこの子のロリコン魂に火を付けちゃったんだろうね。
僕のせいかなぁ……いや、聞き出した限り元から小さな女の子が好きだったみたいだし、やっぱり最後のひと押しだったんだろうし。
ちょっとは責任感。
ま、まあ、適度にヘンタイ成分を吐き出させてあげれば良いよね。
幸いにしていかがわしいことして来るわけでもないしさ。
……ちょっと残念。
「ハルちゃん?」
「何か?」
「……………………………………」
「それよりるるさん」
るるさんの変な感じは今でもときどき感じる。
例えば今みたいなときに。
……この子も僕みたいにダンジョンの何かで変なことになってるんだ、さらに何か自覚してないものとかあったりするかもね。
◇
「しかし良かったのか?」
「踏んであげてないことがですか?」
「うむ、非常に悩ましいのだが1回でも幼女のおみ足でふみふみされるという極楽を味わってしまうと」
「えみちゃん……」
「……ではなく! 引っ越し! 引っ越しをこちらの業者に任せてしまってということだ!」
「あ、そういうことですか」
そういえばそうだった。
僕のお引っ越し、こっちに来てから全部任せっきりなんだよね。
「楽で良いじゃないですか」
「いや、誰だって他人に見られたくないものなどはあるだろう? ホテルへ来てもらうときに身の回りのものしか……」
「見られたくないの、あるんですか? えみさんにも?」
「うむ、気が付けばクローゼットを埋め尽くすようになっていた、着られもしない女児用の服などが」
「うわぁ……」
「えみちゃん……」
「あっ」
「……こちらで処分しましょうか……?」
「これはドール趣味と同じなんだ! 良いだろう、眺めて楽しみだけなんだから!」
ぽこぽこ出てくるえみさんの余罪。
……これ、男女逆だったらほんとにやばいよね。
女の子で生まれてよかったね。
合法的に僕みたいなのとはぐはぐできるし。
「はぐはぐします?」
「わんっ!」
「ハルさん。 あまり刺激すると危険ですよ」
「? えみさんは同意もない相手を性的に襲う人なんですか?」
「いや、それは絶対にない!」
「らしいですから良いです。 男相手でもありませんし」
正直僕的にはえみさんっていう大変に素晴らしい2つと良い匂いを堪能できる相手からは、もっともっとはぐはぐしてもらいたいところ。
でもえみさんの将来が心配なのと、九島さんが委員長っぽく叱ってくるのと、なによりもるるさんが
「……女の子のえっちな本とか、ないんだ」
「女の子がそんなこと言っちゃ」
「ないんだ?」
「あ、うん。 なんならるるさんもお引っ越しのお手伝いしてくる?」
怖いからね。
ほんとこの子どうしちゃったんだろうね。
思春期だからかな?
「……通常の男性は、健康的ならば……」
「やはり少女になる前から何かが……」
「今度えみさんの付き添いという形でメンタルクリニックへ……」
「うむ、ハルも診てもらった方が……」
聞こえてる聞こえてる、こっそり話してるけど聞こえてるよえみさんと九島さん……別におかしくないってば。
と言うかほんと、どうしてこんな話題になるんだろうね……女の子って猥談……ああ、実は好きなんだって聞いたことあるよ……。
あ、ちなみに今は電子の時代だから本当に無いよ?
実物はね、だって電子の方がずっと
「……………………………………」
「あ、ダンジョン関係っぽい弾薬とか武器とかには気をつけるよう言ってくださいね。 扱い方、間違えるとどかーんなので」
るるさんに髪の毛をひと房手渡してなだめながら話題転換。
「……どかーん?」
「うん、どかーん」
「ああ、こちらの手の者だから熟知はしているはずだが……ちなみにどのくらいの威力ものがあるんだ?」
「えっとですね。 僕が倒れてくるドラゴンさんからるるさんを助けようとぶっ飛んだときのこと覚えてます?」
「!! 私のこと見てたあのときの!」
「別に見て――ああうん、見てたかもしれませんね」
嘘は言ってないからセーフ。
「あのとき飛んだのって、メカニックな社長さんに憧れて作ったお手製の背負い式ロケットなんですけど」
「背負い式ロケット」
「うん、背負い式ロケット。 で、あれ、上手に使うと航続距離が……とりあえずダンジョンの50階層から出口まで、階段とかの空間を抜けて行けるくらいにはしてありますから……どのくらいなんでしょうね?」
「……50階層……?」
「はい。 リストバンドのって1回使うだけですっごく高いですし。 その点、手作りならほぼタダですから」
「こーんな感じの」って腕で形を作って見せる。
「ぐふっ」
「ハルちゃん、それかわいすぎるからダメみたい」
「まったく、えみさんはわがままですね」
「ぐふっ」
「……ハルさん、男性なら分かると思いますけど……そういう行動がえみさんを……」
「?」
「……ちほちゃん、ハルちゃんってほんとに社会人さん? 高校生……中学生だったりとか」
「戸籍上は紛れもなく成人男性ですが……」
今度はるるさんと九島さんがひそひそ。
えみさんはびくんびくんしながらうずくまってるけどどうでもいいや。
この状態のえみさんをつんつんするとおもしろいんだよね。
「とにかくあれ、落としたりするとすごいことになるので」
「……分かった、伝えておこう」
「鼻血出てますよ」
「うむ、助かる」
そう言えばえっちなのとか見たりして鼻血が出るのって、一応はほんとらしいね。
まぁ実際に目の前でぼたぼた垂らしてるし。
ただし鼻の中の血管が切れるくらいに興奮して血圧とかが上がってる状態に限る。
……えみさん、ほんとに僕みたいな幼女が好きなんだね……多分性的に。
「一応ここが僕の家ってことになるので、今後はあんまり来ないで」
「ハルちゃん」
「普段離れている方が会っているときの楽しさ倍増って記事ありましたよ」
「……ならいいや」
良くも悪くもべったりが大好きなるるさんっていう典型的な女の子らしい女の子だけども、僕はひとりでじっとしてたいんだ。
ほら、ベッドで何もしないで横たわって存在消すのとか楽しいでしょ?
僕自身が世界に溶け込む感覚、楽しくない?
「あ、そうだハルちゃん。 ちょっとハルちゃんについて調べてみない?」
「え? 僕のこと?」
?
この子ほんと大丈夫?
「るる、それじゃ伝わらないぞ……ネット上での君の盛り上がりっぷり。 その様子だと全く理解していないようだから心配でな」
「あー、なんかすごいことになってるみたいですね」
「……その程度なんですね……」
「九島さんだってあんまりスマホとか見てませんから」
「そんな私だって知ってますよ……? 少なくともハルさんよりは」
「む」
高校生くらいなこの子たちでさえ当たり前に知ってることを、僕が知らないのってなんかもやってする。
ほら、今は無き男だったプライド的な?
「ほらほら、解説してあげるから一緒に見ようよ!」
「……まあ、ヒマですし」
なーんか正直、この体がまだ別人って感じるもんだから「ネット上の僕」についてもあんまり実感ないんだよね。
でも配信とかで反応するときになんかずれてるっぽいってのは薄々分かってたし……見てみるか。
めんどくさいけど。
◆◆◆
39話をお読みくださりありがとうございました。
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ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。
「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」
「なんでもいいからTSロリが見たい」
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