27話 九島さんとるるさんとえみさんと。

「――うん。 そういうことだから。 うん、落ち着いたら顔見せるよ……いや、いらない。 かわいい服とか要らないから本当に……やめて買わないで、絶対買わないで。 絶対着ないからね? ちょ、母さん!?」


ぴっ。


「ふぅ……」


「……ハルさん、お疲れ様です」

「あ、九島さん」


今日もポニーテールがまぶしい九島さん。


ちょっと前に「なんでポニーテールにしてるんですか」って聞いたら「医療関係者ですから」ってものすごく常識的な答えが返ってきたっけ。


良いよね、まじめな子って。

僕のこと「かわいい」って子供扱いしてこないしさ。


「……ご両親へ連絡を?」

「うん、ようやくね。 これまでは適当にごましてたから」


父さんと母さん。


「息子の息子がなくなって娘になった」なんて突然言ってもまず信じない。


だって息子だって主張してるのが幼女だもん。


だからどうしよっかなって思ってたところでこの前の呼び出し。


あのおじいさんかおじさんの部下の人がなんか良い感じに説明してくれたらしく、拍子抜けなくらいにあっさりと僕が幼女ってこと納得してたみたい。


……でもちょっとは疑って欲しかったっていうのが息子としてのささいな抵抗。


だって男だもん。


「……そのうちご自宅……ご実家へ帰られますか……?」

「え? いや別に、元々会社のためにひとり暮らしだったし」

「でも今は会社へは……」

「あー」


今の僕の身分はニート……じゃなくてフリーター……でもなく、一応はフリーランスな個人事業主。


なんでも1年以上、ダンジョンに週3回以上潜ってるとそうなるらしい。


まぁ稼ぐお金のケタがケタだから、とっくに青色申告っていうめんどいしお金かかるのやって国と戦ってるけどさぁ……。


「あの、上司から……ハルさんのカバーストーリーをと言われていまして」

「カバーストーリー」


何か悪いことしてる印象だけど僕何も悪いことしてないから大丈夫だよね。

でもこういうときってなぜかどきどきしちゃう。


「……配信でハルさんが話してしまった部分から、ハルさんは……その、シングルファザーのお父さんのために潜っていると……」

「あー、そうなっちゃってるんだっけ……母さん勝手に殺しちゃった?」


母さんごめんね。


でもどうせ家に帰ったらいろいろされるの目に見えてるからやっぱいいや。


「あ、いえ、明言していませんので、ここは『入院している母親のため、適性のあったダンジョンへ潜っている』と言うことにするとよろしいかと……」


さすがはプロの人、さくっとそれらしいの考えるね。


「……と、ハルさんが今後『軽くほのめかせば』充分だそうで。 ご自分から言う必要は無いとのことです」


「そっか。 ありがと。 嘘つくのはなんかヤですし。 多分今後の配信、親も見るだろうし」


今日の僕はシャツにズボンって言うラフな格好。


……ほんとはシャツ1枚が良いんだけどね……すっかり慣れたし……けども一応は女の子もいるんだ、汚い男の体なんか見せたら目が汚れる。


……あー違う違う、今の僕は幼女だった……なら目は神聖なまま保たれる。


けどもヘンタイさんをその気にさせても……僕は嬉しいけどもえみさんの今後の人生が大変なことになる、自重しよう。


「るるさんとえみさんは?」

「今日は配信……るるさんがご無事なことの報告と雑談の配信だそうです」


「あー、そういやそっか。 有名人って何回も大丈夫ですよアピールしなきゃいけないから大変だよねー」


「……………………………………」


「どしたの?」

「……いえ」


九島さん。


マジメさんだからか、ときどき僕のいい加減な態度が気になるらしい。


なんかジト目してくる。

すっごくジトってしてくる。


あれだ……中学くらいまでの学級委員長的な女子みたいな。

「ちょっと! シャツの裾! ボタンは首元まで!」的な?


「けど九島さんってるるさんたちほど派手じゃないけど、いつも顔、きれいにしてるよね」

「えっ」


そう言えばずっと見てたけども言ったことが無かった気がするから言ってみる。


「そのポニーテールもさ、ほつれとかないしいつもリボン変えてるし」

「え……えっ」

「えみさんみたいな派手さじゃないにしても……アイシャドウ? 的なやつ着けてるし」


「……ハ、ハルさん、お化粧とか」

「え、だって毎日近くで見てたら分かるよ? 男でも。 だって多分僕が1番見てる女の子だし」


「い、1番……」

「あと、こうして普通に話せるから居心地いいし」


「…………っ」


「近くにいても抱きついたりしてこないから気が楽ですし」

「え、あ、あの……」


あ、珍しく九島さんが照れてる……「ちほさん」って呼ぶときみたい。


「いつも2人とも違う香水着けてるし。 落ち着く匂いですし。 『ちほさん』って」

「あっ、あのっ、あのっ」


ちょっとだけ近寄って、九島さんのポニテの先っぽをすんすんすんっと嗅いでみる。


……つま先立ちしても肩まで届かないって悲しい。


だって幼女だもん。


「あと――――」

「……わっ、私! 必要な買い物がありましたので!」

「え? あ、そう?」


一応僕も、言えば好きに……まぁ警護の人はつくらしいんだけどね……出歩けるらしいけども、今日はまだ外に出たいゲージが貯まってないからいいや。


九島さんは珍しく物を取り落としたりしながら出て行った。


……普段はあんなに冷静なのに、なんか不思議な感じ。





「ハルちゃん!」

「るるさん?」


「ちほちゃんとなんかあったでしょ!!」

「いや? なんにも?」


夕方。


お昼寝したあとにぼんやりしてた僕は、唐突に揺さぶられて起きた。


「ほんと!?」

「え、ほんとだけど」

「……むーっ……」

「???」


どしたんだろこの子。


いつも割と気分屋で、わけもなく抱きついてきたと思ったらなんかほっぺ膨らましてることあるし……まあるるさんは女の子らしい女の子だからそういうもんだって思ってるけども。


「……………………………………」

「?」

「……ハルちゃんって彼女とか」


「作る時間があったら本読むよ? 彼女さんってめんどくさいらしいし」

「……だよね――……はぁ……」

「?」


僕に抱きつきながらずるずると脱力していって、僕が膝枕する形になるるるさん。


この子、結構聞いてくるよね……彼女がどうとか。


「いいにおーい……」

「股に顔うずめるの止めよ? えみさんでもしないよ?」


まぁ女の子だし。

女の子の会話のほとんどは恋バナとかだって言うし、こういうもんかな。


九島さんみたいに仕事の話以外は時事ネタ話す子とか、えみさんみたいなヘンタイさんが例外なんだ。


「……ハルちゃん、男の人が好きになったりしない?」

「んー」


考えてみる。

までもなかった。


「しないね」

「ほんと?」

「げろげろげーだ」

「……そっか」


けどなんでこの子……ああそっか。


僕たち男が、女の子同士で楽しそうにしているの見ると「百合」だって妄想するように、女の子たちだって男同士を……やっぱり鳥肌と吐き気が……。





「ハルたん!」

「えみさんステイ」

「わんっ!」

「うわぁ……ほんとにためらいなく……」


ヘンタイさんなえみさん。


彼女がヘンタイさんだったとしてもヘンタイさんとして尊重してあげようって言う、僕の中の男としての同情からヘンタイさんだけども普通に接してあげている。


特に引くことは……結構あるけども「もう近づかないで」とか言ったりするほどでもないし、ヘンタイさんらしき言動になったら「気持ち悪いです」とか喜びそうなこと言ってあげるとひっくり返ってぴくぴくするだけで特に害はないし。


だからか……すっかり調教されてる美女系JKさんがここに。


「あ、えみさんえみさん、そのカッコでおいぬさんは止めた方が」

「わん?」


いや、「わん?」じゃなくて。


「僕、背が低いから……ぱんつ、見えちゃってますよ。 気にしないなら良いですけど」

「わ、…………――――っ!?」


あ、いくらヘンタイさんでも女の子としての自覚はまだあるのね。


慌てて膝を閉じて座り込んだからか、傍目には僕に跪いてお胸を寄せてあげてる形になってる。


……これで、僕が男だったら完全に事案だね。


残念なことに今は僕が幼女で逆事案だけど。

逆事案?


「……ハル、は」

「はい」


今日で3回目の真っ赤な顔が僕を見上げる。


「……女性になっていても、女性に……欲情、するのか?」

「さあ? とりあえずこの体になってしたことないですね」


なんかド直球なことを現役JKさんから言われた気がするけども、僕自身にやましいこともないし……幼女だからか女体は目の保養以上の価値が無いからか割と平気。


もし男のままだったら……こんなおっぱいおっきい美人さんに言われたらどきってする程度じゃ済まないだろうけども。


「そうか……」

「そうですね」


なんかそのまま考え込んでるえみさん。


「……なら一緒に風呂に入っても問題は」

「お手」

「わんっ!」


僕の差し出した手に彼女のお手々。


「……はっ!?」

「何回かですっかり条件付けされてますね……」


見えない尻尾が見える気がするよ、えみさん。





「――――以上が我らがハルたん、もといハルちゃんの正体だ」


とある地下室。


そこに9人の老若男女が集う。


「ハルちゃんは、中身が文学青年な成人男性」

「それであの声、あの話し方……」


「それでいてあのレンジャースキル……しかも」

「★『星』――『ゲームシステム的に』あり得ると考えられていた、人類の限界を突破したレベル、あるいは『転生』」


「で、これが――」


腰まで伸びる長い金髪。


深谷るるや三日月えみ、彼らは初めて見ることとなる九島ちほという少女にグルーミングのように顔を溶かされて「ほわぁー」と溶けている幼女。


ちらりと見える八重歯、ついでで出ているあくび、少女未満の童女や「女としての動作」を習得していないから自然になる、開いた脚。


着せられたフリルのあるスカートからちらりとのぞく太もも。


「ハルちゃんのお顔よ。 げに愛い――だが、中身は男だ」


「男……」

「ハルちゃんが……」

「去年まで……」

「そんな……」


「――始原としての盟約により貴殿等にはハルちゃんのかわゆい姿をご覧に入れた。 さあ、ここからは貴殿等の決断を」


「――つまり実質ショタ!!! 私は協力します!!」

「……さすがは身バレしても貫いたその心意気。 ああ、君の会社の関係先、取引先には話を通したから安心したまえ」


「初見に先を越されるとはな……俺もだ」

「ぼ、僕も!」

「私も入ります。 ハルちゃんを護る会に」

「アタイもねぇ……この歳でひ孫ができた気分さ……」


「男だってかわいく仕立ててかわいいって言い続ければだんだんと女の子になるのよー? 私、もう何人もこの手で……うふふ……」


「爺さんから婆さん、兄さんから姉さん……姉さんみたいだけど声だけお兄さんなヤツ……すごい集まりだな、改めて」

「何回かオフ会したけど……まさかこうなるとはなぁ」


「これで全員じゃないもんねぇ」

「海外のもなかなか濃いよねー」


暗い部屋に投影された「ハルちゃん」の様々なシーン。


それを眺めながら談笑する時間は続いた。



◆◆◆



27話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


と思ってくださいましたら↓の♥や応援コメント、目次から★~★★★評価とフォローをお願いします。


※しばらくコメントや感想に返信が追いつきませんけれども、ありがたく読ませていただいています。

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